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第7回愛知まちなみ建築賞

ページID:0199907 掲載日:2024年3月1日更新 印刷ページ表示

表紙

総評

​ 日本建築のモダニズムにある種の水準ができあがりつつあるのを感じる。かつては一握りの建築家と特別な組織のみが、先鋭的に追求したモダン・デザインの「質」が、ポストモダンと呼ばれた挑戦と混乱の一時期を経て、建築界一般に定着してきたように思える。
 選考の経緯を明かせば、今回はさしたる論議もなく、比較的すっきりと決まった。そして大賞に値する作品がないことにも異論がなかった。それはつまり現代社会の、あるレベルに達した建築の創り方に一定の方向性があり、その評価も、同じ尺度の上での空間の質の高さという点に集中できるという点で選考しやすく、また論議を生むような奇想天外な作品もなかったことを意味しているのだろう。たとえば、大きいものなら愛知県立大学、小さいものなら清洲町集会所といった建築が、どこといって特筆すべきところはないとしても、破綻のないまとまったモダン・デザインの質の高さを感じさせるし、高松さんや戸尾さんの作品でも同じようなことがいえるのである。
 ということは、優秀な人材を集めて、あるディシプリンのもとで再教育し、またそれをバックアップすることのできる技術蓄積のある組織と、挑戦的でありながらもある程度の経験を積んだ建築家の事務所なら、常に水準の高い空間の質を生み出すことが可能なのであるが、それができない組織はどうしても遅れをとり、その間に決定的な格差を生じるということでもある。そしてそれが、いいにくいことだが、全国的に活動している組織あるいは建築家事務所と、地元事務所との格差にもなっているのだ。愛知県の建築事務所には、その壁を突破していく努力が必要であると思われる。
 しかし、そういった均質状態の中からも、次なるタイプの挑戦は生まれるのだろう。必ずやこの状況に、新たなる個性の楔を打ち込む者が現われるに違いない。愛知県の建築に、表面的な意匠やデザインとしてではなく、より説得力のある個性としての新しい力が湧き出てくることを期待したい。それは血の熱い若者の役割だ。

名古屋工業大学教授  若山 滋

第7回愛知まちなみ建築賞 受賞作品​

愛知県立大学

7-1

概要

所在地:愛知郡長久手大字熊張
建築主:愛知県
設計者:株式会社久米設計 愛知県建築部営繕課
施工者:松村・徳倉・六合建設工事共同企業体 矢作・長瀬建設工事共同企業体 水野建設株式会社 名工建設株式会社 大明建設株式会社

主要用途:大学
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造他
階数:地下1階地上9階
敷地面積:283,093.00平方メートル
建築面積:21,520.94平方メートル​
延床面積:55,786.38平方メートル

講評

 長久手町の緑豊かな山地を切り拓いて建設された。今回の作品の中では最も大きく完成した建物群である。既設の大学を、新しく敷地を造成・新設・移転したキャンバスであって、大学として必要なすべての建物(施設)の集合体であり、キャンバスそれ自体でまちなみを作っている。
 緑豊かな環境の創出、広いキャンバス、完成したゆとりある配置等々すべてにすぐれている。
 特に正門から竪軸にのびるプロムナード広場は余裕のある広さで奥へと昇って行く。又この広場は両側に設けられた半野外空間の回廊に囲まれて、校舎等の建物を背景に贅沢な街並みを作っている。この広場がキャンバスの顔になり、学生のコミュニケーションの場として充分に利用されることを期待したい。

畑中 圭助

NS21

7-2

概要

所在地:刈谷市野田町
建築主:株式会社デンソー
設計者:株式会社竹中工務店名古屋一級建築士事務所
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店

主要用途:寮
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:地上14階
敷地面積:32,314.60平方メートル​
建築面積:3,026.00平方メートル​
延床面積:13,050.00平方メートル

講評

 デンソーというグローバルな企業のイメージを表現し、かつ向上させるべくデザインされたNS21は、周辺地域にとって、ランドマーク的な存在価値をもつ建築である。建物プロポーションの良さ、水平垂直のラインの織りなすシンプルな外観のデザインは、美しさを感じさせると共に、物体の圧迫感を緩和している。リゾートホテルと見まごうばかりのこの男子独身寮は、居住者に快適な空間を創出し、彼らが企業の一員として、その若い力を大切にされていると感じさせることが出来る、魅力をもった建築である。この建築賞の「新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの」という選考基準をはじめ、景観の育成、空間の創出に寄与し、かつ十分に満足するものであり、地域文化の向上に貢献できる建築として期待のもてる作品である。

水尾 衣里

蒲郡情報ネットワークセンター・生命の海科学館

7-3

概要

所在地:蒲郡市港町
建築主:蒲郡市
設計者:株式会社高松伸建築設計事務所
施工者:日本国土開発・壁谷特定建設工事共同企業体

主要用途:科学館・事務所
構造:鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:地上3階
敷地面積:5,562.15平方メートル​
建築面積:2,632.17平方メートル​
延床面積:3,281.08平方メートル

講評

 蒲郡は海(三河湾)と山(蒲郡の山並)に恵まれた風光明媚な都市である。竹島では、海辺の文学記念館が、港町では、海賓館マリンセンターハウスが、昭和初期の洋館を利用して作られ、観光都市としての魅力を高めている。こうした中にあって、蒲郡情報ネットワークセンター・生命の海科学館は、海辺の市街地整備の目玉のーつとして建築されたものである。すぐ前が、マリンセンターハウスで、アメリカズ・カップ・チャレンジ艇の訓練基地があること、海を見ながら、木製デッキの上でコーヒーを飲みながら寛ぐ人もいる場所であることから、この建物は海を意識したものになっている。設計趣旨では、木の箱船、白い柱、緑青の屋根のルーバー、木のデッキをイメージしたとある。具体的に見ると、1階はガラス面で、2階以上の壁面が、木質調で仕上げられているために、木の船が空中に浮かんだ印象を与え、シンプルで、且つ、海のイメージを上手に建築化していると評価できる。
 この建物は、科学館と情報ネットワーク機能を持つ複合施設であることから、1階には恐竜の化石が置かれている情報ロビーがあり、二つの機能を暗示させるようになっている。情報ロビーには自由に使えるコンピュータがあり、子供たちが創作をしたり、情報の検索をしていて、人気のコーナーとなっている。ここから、外を見ると、ガラス越しに海を感じることができる。
 また、中庭には池と築山(古代植物の丘)があり、それを、平屋の情報ネットワークコーナーが囲んだ形になっていて、情報というあわただしさを感じるものと空間の静寂さが調和する仕掛けになっている。こじんまりしているが、今後の海辺のまちづくりに貢献する建物として期待できる。

 瀬口 哲夫

清洲町上本町集会所

7-4

概要

所在地:西春日井郡清洲町大字清洲
建築主:上本町集会所建設委員会
設計者:株式会社環境開発研究所名古屋事務所
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店

主要用途:地区集会所
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上2階
敷地面積:163.50平方メートル​
建築面積:80.80平方メートル​
延床面積:149.59平方メートル

講評

 清洲町上本町集会所は、織田信長の居城で知られる清洲町の市街地に建設された100世帯程の町内のための集会施設で、地域の防災拠点をも兼ねている。施設はいたってシンプルで、上下夫々を独立して使える集会室が2室、中庭と屋外階段を介して一つの施設にまとめられている。日本の古い市街地の何処にでも見られる民家の中庭方式を採用した平面型で、敷地をめ一杯利用した建築計画であるが、道路側全面に恒って採用された格子と中庭により、狭い南側の道路を敷地にとり込んで良好な通風と採光をはかっている。清洲町の随所に見られる軒の低い格子のある民家に混じって、コンクリート化粧打放とグラスファイバー強化硬質ウレタン樹脂発泡体で組み立てられた格子とその影は、周辺の環境に馴染み、簡素ではあるが美しく高い評価を得た。
 今年度の応募作品81点のなかにあっても、余程注意深くみないと見過ごしそうな小規模で控え目な作品ではあるが本賞の主旨に相応しい作品といえる。とかく自己主張だけが目立つ建築の多い中で、賢い建築主とその期待に応えた造り手(設計者と施工者)の健全な関係を見せてくれた作品である。

森口 雅文

知多市歴史民族博物館

7-5

概要

所在地:知多市緑町
建築主:知多市
設計者:戸尾任宏・株式会社建築研究所アーキヴィジョン
施工者:佐藤工業株式会社 名古屋支店

主要用途:博物館
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上2階
敷地面積:8,729.45平方メートル​
建築面積:2,465.57平方メートル​
延床面積:3,614.02平方メートル

講評

 その「かたち」に、人々がそれぞれの思いを託すことが出来る建物が街並みに彩りを加えることにもなる。
 この施設は大胆なフォルムを持つものの、端正な建屋を前を走る整備された道路から見通せる駐車場の奥に配し、目を引き付ける。
 来訪者にも開放した庭を配した旧館側の、少し囲われた趣に対して、増築された側が持つ開放感は施設全体に明るい表情を持たせると共に、訪れる人へアクセスを容易に感じさせる気配りのある設計である。
 職員が直ぐに対応に出られる事務室の配置をはじめ、運営側の仕掛けには目立たない工夫が施されているので、参観者はしばしば外界から隔絶され、この地の先人の生業にしっとりと触れる時間と静寂を享受できる。
 そとに出て改めて建物の外観を眺めるとき、ファサードの北端形状は風を受ける帆にも見え、「打瀬船」が漁に向かう、或いは終えて静かに湾内を滑る姿を想起させるのである。
 この後、この地を見舞うであろう開発の喧噪の中で、人々に旧き生業に触れ、暮らしの意味をしばし問い直す機会を与える止まり木として、この陸の帆船は凛として、かつ悠然とその航海を続けて欲しいものである。

納所 克志

名古屋大林ビル

7-6

概要

所在地:名古屋市東区東桜
建築主:柏西土地建物株式会社
設計者:株式会社大林組名古屋支店一級建築士事務所
施工者:株式会社大林組名古屋支店

主要用途:事務所 
構造:鉄骨造一部鉄筋コンクリート造
階数:地下1階地上10階
敷地面積:1,603.82平方メートル​
建築面積:774.13平方メートル​
延床面積:6,876.07平方メートル

講評

 非常にすがすがしいオフィスビルというのが第一印象である。特に夜景がすばらしい。規模としては小さい建物なのだが、独特の風格を町並みに与えている。2階層吹き抜けを一ユニットとするオフィスビルとしては思い切った構成の内部空間が大きく透明なガラス壁面をとおして外部とさわやかに呼吸をしあっている。簡易型エアフローウインドウ、免震構造など先進技術も積極的に導入している。挑戦的試みの代償として、オフィスビルとして最も大切な要素であるべき経済性が成立していないという指摘も出されたが、一等地における建築文化に対する建築主(設計者)の姿勢はむしろ好ましいという反論が交わされた。厳しい時代にこのような豊かなオフィスを提供する志を高く評価したい。

清水 裕之

夢広場はるひ

7-7

概要

所在地:西春日井郡春日町大字落合
建築主:春日町
設計者:株式会社創建
施工者:株式会社フジタ名古屋支店

主要用途:児童福祉施設 ・ 公園施設 ・ 美術館 ・ 多目的舞台他
構造:鉄筋コンクリート造
階数:(はるひ保健福祉センター) 地上2階  (はるひ夢の森公園) 地上2階 (美術館) 地上1階 (多目的舞台等)
敷地面積:(はるひ保健福祉センター) 5,724.00平方メートル​  (はるひ夢の森公園) 9,192.92平方メートル​
建築面積:(はるひ保健福祉センター) 1,967.18平方メートル​  (はるひ夢の森公園) 1,249.86平方メートル​
延床面積:(はるひ保健福祉センター) 3,139.96平方メートル​  (はるひ夢の森公園) 1,344.99平方メートル

講評

 今年の春、車で走行中に、おやっ!と振り返る建物と出会い、いつか訪れようと思った施設、それが「夢広場はるひ」であった。
 五条川リバーサイド計画の一環として計画され、桜並木に続くソメイヨシノの路地をくぐり抜けると、瀟洒な美術館に入る。小規模でも明るいギャラリーは心地よい空間を形成している。メイン道路からアプローチ軸を横切る壁としての「はるひ保健福祉センター」がある。ここを横断すると又、五条川に抜ける展示回廊があり、そこでは様々な仕掛けと春日町の歴史に触れることができる。同時に『水』『緑』『光』を取り入れた遊びの演出が見受けられた。
 複数の別用途の施設とランドスケープを求心的な配置でまとめた作品であるが、個々に独立した建物としてバラバラな表情を持っていて、その関係が広場の中で緊張感とサークルをつくり出している。なかでもルイスカーンを思わせる巨大なセンターキャノピーは、この広場をまとめるのに十分な役割を果たし、真にまちなみ建築賞にふさわしい施設である。
 しかし、全体の中で福祉施設棟の正面ファサードはもうひと工夫あってもよかったのではなかろうかと思う。

浦野 勉

第7回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

 ​良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるという認識の下、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や潤いあるまちづくりに寄与する等、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1、地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。
  ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
  ●意匠・形態等に優れ、地域の文化性を高めているもの。
 2、地域固有のまちなみに調和し、特色ある景観の形成に寄与しているもの。
  ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
  ●歴史的または、伝統的なまちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
  ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、地域固有のまちなみ景観が形成されているもの。
 3、魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。
  ●公開空地やアトリウム等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
  ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
  ●地域計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4、その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

   浦野勉(愛知県建築士事務所協会会長)
   岡本真理子(文化環境計画研究所取締役)
   清水裕之(名古屋大学教授)
   杉山義孝(愛知県建築部長)
   瀬口哲夫(名古屋市立大学教授)
   納所克志(名古屋芸術大学教授)
   畑中圭助(愛知建築士会会長)
   水尾衣里(名古屋女子文化短期大学助教授)
   森口雅文(日本建築家協会東海支部副支部長)
   山下和正(山下和正建築研究所代表取締役所長)
  ●若山滋(名古屋工業大学教授)

​​(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県
後援
 建設省 愛知県市長会 愛知県町村会 愛知県商工会議所連合会
協賛
 (社)愛知建築士会 (社)愛知県建築士事務所協会 (社)日本建築家協会東海支部 (社)愛知県建設業協会 愛知県建築技術研究会 (財)愛知県建築住宅センター (財)東海建築文化センター 中部デザイン協会