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第8回愛知まちなみ建築賞

ページID:0200008 掲載日:2024年3月1日更新 印刷ページ表示

表紙

総評

 今回の選定では、第2次選考に残ったものが粒ぞろいで、その中から入賞7点を決定するのに少々骨が折れた。惜しくも落選した作品に、著名な建築家の作品、あるいは興味を引く個人住宅が含まれていたことも印象的であった。しかしながら、大賞に値するような突出した作品は見あたらないという点では、審査員の意見が一致し、現在の沈滞気味の建築状況を表しているともいえる。かつてのような大型の力作が少ないのはやむをえないとしても、小さくとも強いインパクトをもった作者の主張が明快な作品を期待していた。
 入選した「宇野邸」は、打ち放しコンクリートによるすっきりしたモダニズムと周囲の環境がよく調和していた。すでによく見られる方法論ではあるが、わざとらしさを感じさせない、落ち着いた空間を構成している。「長久手町文化の家」と「瀬戸市立品野台小学校」はいずれも建築としての質が高い。設計者は機能とデザインをしっかりと形にしている。大賞候補となるほど衝撃的ではなかったものの、総合的なレベルの高さを感じさせた。「瀬戸市マルチメディア伝承工芸館 -瀬戸染付研修所-」と「小弓の庄[旧加茂郡銀行羽黒支店復原施設]」は伝統の継承として意義深く、この賞の目的にもかなうものであったが、創作あるいは継承としての行為の意味性が小さかった。「JRセントラルタワーズ」は現在この地域の圧倒的なランドマークであるが、意外に多くの審査員から支持されたのは、高層建築に対するアレルギー以上に、その景観と機能が都市の活性化に寄与している点が評価されたものと思われる。「JAF中部本部・愛知支部事務所」はデザインがやや部分的であり、賞に値するかどうか議論があったが、この立地によく映える点が評価された。
 こう考えてみると、住宅、文化施設、リニューアル、高層ビル、というように、期せずして入選作のバランスがとれている。大賞となる作品はなかったものの、この賞の性格と実績の理解が行き渡ってきたように思える。海外、特にヨーロッパから帰国してみると、日本という国の都市景観が、とても経済大国とは思えない、混乱したみすぼらしいものであることに暗澹たる気持ちにさせられる。これだけの美しい自然を犠牲にしているのだから、都市や建築を創る行為に、もっと強い文化的な意味をもたせなければならないだろう。それは金をかけるということではない。長い期間にわたって人々の目に触れる空間の形成に、それなりの意識をもつということである。

名古屋工業大学教授  若山 滋

第8回愛知まちなみ建築賞 受賞作品​

宇野邸

8-1

概要

所在地:名古屋市守山区小幡北山
建築主:個人
設計者:宇野友明建築事務所
施工者:株式会社広久

主要用途:専用住宅
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地下1階地上2階
敷地面積:429.75平方メートル
建築面積:103.71平方メートル​
延床面積:162.62平方メートル

講評

 自然との共生という言葉が迷走し、デザインはともすれば過剰な自然風装飾であったり、過剰な自然賛美のために何もできなかったりすることまでがある。この作品は、緑の雑木が溢れる急斜面地という過酷な地形条件の中で、最小限つくるために、最小限削除するものをきっちりと見極めているように見える。道路と建築との間にコナラの大木が残り、ソヨゴ、ヤマザクラの木も建物の壁ぎりぎりに寄り添うように残されている。法面の修復は自然の森に帰ることを願っているかのようにハシバミなどの落葉雑木の苗木が植えられている。急角度で切り取られた法面もコンクリートの土木的構築物を使うことなく木柵で止められており、苗木がしっかり根を張り土を掴めば安定するであろう。道の脇の駐車スペースも隠された保護材の上を芝生の緑が覆っている。緑溢れる住宅街の中で通り過ごしてしまいかねないほどの静かな佇まいを見せている。小品ではあるが環境への対し方の一つのはっきりとした答えをもった作品として評価できる。

岡田 憲久

小弓の庄 [旧加茂郡銀行羽黒支店復原施設]

8-2

概要

所在地:犬山市大字羽黒
建築主:犬山市
設計者:株式会社林廣伸建築事務所
施工者:青山建設株式会社

主要用途:展示場兼集会場
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:996.00平方メートル​
建築面積:167.87平方メートル​
延床面積:237.38平方メートル

講評

 復元(あるいは復原)は難しい。建築当初の材料や技術をそのまま生かすことや、捜し出すこともさりながら、今に生かして使える建築にしようとすればなおさらである。  この建築は明治時代の木造建築の銀行を「まちづくり拠点」として再生させた好例で、現在、地元の人々による管理がなされ、度々催物も開催されるという。
 正面入口の唐波風は威厳を感じさせ、内部もさすがに元銀行を感じさせる「分銅」や「うちでのこづち」といった欄間が美しい。吹き抜け部分の通し柱上の大斗は、西洋建築の柱頭を意識したものであろうか。
 建築廻りは広く開放された空間になっており、建物の移築再生にあたって、トイレ等の付属棟も建てられた。
 移築後の敷地内にあった古木の桜や榎も残され、建物と一体となってまちなみの中に潤いの空間を演出している。
 桜の季節にまた訪れてみたいものである。

岡本 真理子

JRセントラルタワーズ

8-3

概要

所在地:名古屋市中村区名駅一丁目
建築主:東海旅客鉄道株式会社  ジェイアールセントラルビル株式会社
設計者:株式会社坂倉建築事務所(総合監修)  Kohn Pedersen Fox Associates PC(デザインコンサルタント・アーキテクト)  JRセントラルタワーズ共同設計室
施工者:JRセントラルタワーズ新設工事共同企業体

主要用途:駅施設・オフィス・ホテル・百貨店他
構造:鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造)
階数:地上53階地下4階
敷地面積:82,191平方メートル​
建築面積:18,220平方メートル​
延床面積:416,565平方メートル

講評

 JRセントラルタワーズは21世紀のドラマのステージとしてかくも雄大に出現した。
低層部のボリューム感、垂直に空を目指す高層のホテルとオフィスの二棟のタワーの堂々たる外観は、これからさらに開発が進む周辺地域の中心的建築物として、核となる役割を果たしていくことであろう。
 「駅」は様々な物語の舞台となって、歴史をつくってきた場所であり、その都市を代表する、情報や文化の発信基地となってきた。鉄道というものが人々に新鮮な夢や感動を与えた時代の、ある種の心の高揚を、今JRセントラルタワーズを訪れる人々にも感じることができる。縦型都市空間を楽しむと共に、この都市の顔となる建築を得た自信と言えるものなのかもしれない。
 冬の時代が続く中、このような力強い立体都市を出現させ、まちを活気づけたことの意味は大きい。

水尾 衣里

JAF中部本部・愛知支部事務所

8-4

概要

所在地:名古屋市昭和区福江
建築主:社団法人日本自動車連盟
設計者:株式会社安井建築設計事務所
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店

主要用途:事務所
構造:鉄骨造
階数:地上4階
敷地面積:2,530.28平方メートル​
建築面積:1,210.26平方メートル​
延床面積:4,144.28平方メートル

講評

 都心に最も近い工業地域という周辺は雑然としていて、都市構造の変化に取り残されたような感があり、今後の変貌が予想される地域である。この作品は、こうした立地のなかにあって、「新しい地域景観の形成を先導」する建物として評価された。  
 この建物は、新堀川に架かる立石橋の西又は南からアプローチし、午後の日のなかで見るのが一番美しい。縦リブのアルミスパンドレルとスリットカーテンウォールのシンプルなデザインが、ある時には端正な、ある時には弛やかな表情をみせ、混沌とした街並のなかに異彩を放っている。ランドマークとなるようなスケールやインパクトの強いデザインによるばかりではなく、そっと差し出された手のような建物によって次を促していくことも大切である。

森川 礼

瀬戸市マルチメディア伝承工芸館ー瀬戸染付研修所

8-5

概要

所在地:瀬戸市西郷町
建築主:瀬戸市
設計者:RE建築設計事務所
施工者:沢田建設株式会社

主要用途:伝承館
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:450.70平方メートル​
建築面積:216.68平方メートル​
延床面積:366.08平方メートル

講評

 瀬戸市は、焼き物の町として有名で、瀬戸川に架かる公園橋から、アーケードの末広町商店街を通り抜け、少し行くと「窯垣の小径」に出るが、このあたりには製陶所跡地を利用してできたのが、瀬戸市マルチメディア伝承工芸館である。
 伝承工芸館は、明治時代中頃に建てられた木造2階建ての製陶所の建物を、染付の研修所とギャラリーとして再生したものである。木造2階建ての本館は、事務室と情報交流室がある。また、製陶所内にあった登り窯が、古窯館内に保存されている。
 周辺が、製陶所などの木造の建物が多いこともあるが、伝承工芸館は、建物のスケールや外観が周囲に調和している。しかし、只、古い建物を再生するだけでなく、本館の下見板貼りの外壁の一部を珪藻土仕上げとして、板と土の仕上げを対比させ、新しい感覚を導入している。ありふれた建物を再生するだけでなく、町並みの再生にもつなげている設計として評価する。

瀬口 哲夫

瀬戸市品野台小学校

8-6

概要

所在地:瀬戸市上品野町
建築主:瀬戸市
設計者:株式会社日建設計
施工者:熊谷組・信和建設工事共同企業体

主要用途:学校
構造:鉄筋コンクリート造+鉄骨造
階数:地上1階(一部地下1階地上2階)
敷地面積:31,044.14平方メートル​
建築面積:5,649.49平方メートル​
延床面積:5,642.46平方メートル

講評

 品野台小学校は、これからの学校に必要な「開かれ」を積極的に問うた力作である。内部空間についてもオープンスクールの形式を採用し、優れた「開かれ」を実現させているが、ここで取り上げたいのは教育理念としての「開かれ」が、優れた建築デザインによって外部ににじみ出し、美しい景観を創造している点である。周辺の緑に逆らうことなく低く伸びる棟、そこにアクセントを加えるように上へ伸びる換気塔、軽やかなリズムを醸し出す多目的広場のノコギリ屋根など、機能とデザインとの調和が快い。建築以前からあった自然湿地を養生、再生したビオトープも、破壊行為として捉えられがちな建築工事が小さな自然を支えうるということを長きに渡って生徒や教師たちに伝えて行くことだろう。21世紀の建築は環境の大切さを気づく都市装置でなければならない。このような観点から、本施設は建築と環境との調和のモデルとなりうる高い資質をもつ作品として愛知まちなみ建築賞にふさわしいと判断された。

清水 裕之

長久手町文化の家

8-7

概要

所在地:愛知郡長久手町大字長湫
建築主:長久手町
設計者:香山壽夫建築研究所
施工者:竹中・東急・矢作建設共同企業体

主要用途:集会所(文化会館)
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:地上3階地下2階
敷地面積:24,455.59平方メートル​
建築面積:7,894.52平方メートル​
延床面積:17,488.09平方メートル

講評

 「長久手町文化の家」の名称は、町民全体の「家」となってほしい、町民が「我が家」を感じるような親しみ深い施設になって欲しいと、20世紀中葉フランスに起こった地方からの芸術文化発信運動「文化の家運動」に因んだものと聞いている。
 この施設の周辺は、緑の山々が連なり、敷地北側には清流香流川が位置し、景観、環境共に恵まれた素晴らしいロケーションの中に、打放しを主体とした外壁、マンサード型の連なった屋根をもつ建物の外壁は、真に設計の意とする古戦場における武将のように堂々とし、まちなみにとけ込んである。
 敷地内は、周辺環境と調和した広いオープンスペースに植栽が施され、潤いのある環境がつくり出され、地域住民が憩える場となっている。
 この「文化の家」は、町民が文化活動の拠点として、また、コミュニティーの中心の施設として活用する建物で、魅力あるまちづくりに貢献することが期待できる作品である。

梅田 俊比古

第8回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

 ​良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるという認識の下、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や潤いあるまちづくりに寄与する等、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1、地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。
  ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
  ●意匠・形態等に優れ、地域の文化性を高めているもの。
 2、地域固有のまちなみに調和し、特色ある景観の形成に寄与しているもの。
  ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
  ●歴史的または、伝統的なまちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
  ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、地域固有のまちなみ景観が形成されているもの。
 3、魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。
  ●公開空地やアトリウム等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
  ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
  ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4、その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

   梅田俊比古(愛知建築士会会長)
   浦野勉(愛知県建築士事務所協会会長)
   岡田憲久(名古屋造形芸術大学助教授)
   岡本真理子(文化環境計画研究所取締役)
   清水裕之(名古屋大学教授)
   鈴木真生(愛知県建設部理事)
   瀬口哲夫(名古屋市立大学教授)
   水尾衣里(名古屋女子文化短期大学助教授)
   森川礼(日本建築家協会東海支部副支部長)
   山下和正(山下和正建築研究所代表取締役所長)
  ●若山滋(名古屋工業大学教授)

​​(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県
後援
 建設省、愛知県市長会、愛知県町村会、愛知県商工会議所連合会
協賛
 (社)愛知建築士会、(社)愛知県建築士事務所協会、(社)日本建築家協会東海支部、(社)愛知県建設業協会、愛知県建築技術研究会、(財)愛知県建築住宅センター、(財)東海建築文化センター、中部デザイン協会