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第9回愛知まちなみ建築賞

ページID:0200009 掲載日:2024年3月1日更新 印刷ページ表示

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総評

 今、考えてみると、ミノル・ヤマサキの設計になるあのツイン・タワーは、プレキャストのベアリング・ウォールによる優美な外観とスマートなプロポーションをもって、マンハッタンのランドマークとして君臨した、なかなかの名建築であった。少なくともそれが時代を象徴する「景観」であったことはたしかで、その「消失」もまた、時代を象徴するものであるといえよう。今回の選定は、その消失の事件のさなかに行われた。
 選考委員諸氏の評価を集めたのは、名古屋市の新しいランドマークともいうべき、「オンワード樫山ビル」である。それこそ圧倒的に君臨するJRセントラルタワーズの横で、品のいい優美な形態をもって、何気なく存在するのだが、その何気なさに抵抗が少なかったのだろう。「鈴渓南山美術館」は、単身者用の集合住宅を美術館に転用するという大胆な試みで、街並みとしても落ち着いたたたずまいが成功している。「豊橋市公会堂」は、よく知られた文化財的な建築であるが、これを忠実に保存しようとする改修を評価した。他にいくつかの改修作品が候補となったが惜しくも選に漏れた。「あうら」は、美術と建築が協同して、小さいながらも品のある孤高な空間を創りだしている。「楽田ふれあいセンター」は、そのワーク・ショップ式の市民参加設計手法と、またそれが何気ない日常的な空間の質を生み出していることが評価された。「せんねん村」は、何といってもそこにつぎ込まれた造形の密度が生み出す空間の変化が楽しめる。「一楽鮓」は、小さい表層的なものであるが、商業建築にしてはきわめて洗練された近代美によって、街並みに清々しさを付与している。こういうものこそ表彰に値する。他に建築と大地の関係と緑化をテーマとした力作が二つあったが、最終段階で惜しくも選に漏れた。
  しばらく「大賞」を出さなかったのであるが、今回は、「オンワード樫山ビル」を、その景観、特に夜景に対する積極的参加の姿勢によって選定することにした。全体として、「何気なさ」への評価が目立ったが、これも「時代」というものであろうか

名古屋工業大学教授  若山 滋

第9回愛知まちなみ建築賞 受賞作品​

オンワード樫山 名古屋支店ビル

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撮影 春上伊佐夫

概要

所在地:名古屋市中村区名駅南
建築主:株式会社オンワード樫山
設計者:大成建設株式会社一級建築士事務所
施工者:大成建設・鹿島建設共同企業体

主要用途:倉庫及び事務所
構造:鉄骨造
階数:地上14階 地下1階
敷地面積:3,160.42平方メートル
建築面積:1,493.70平方メートル
延床面積:17,107.22平方メートル

講評

 名古屋の街に新たに出現した秀逸な夜のランドマークである。  白い箱の外側にガラスの被膜を設けた形のビル全体が、夜になると箱とガラスの間に仕込まれた間接照明によって白く浮かび上がる。誠に幻想的な光景である。新幹線からも名古屋駅より東京寄り1キロ手前東側にはっきりと眺めることができる。
 このような仕掛けが可能となっているのは、この14階のビルのほとんどは倉庫であって、この仕掛けを設計上単なる箱の表面処理として扱うことができたからである。上層階3層程度は事務室などの居室であるため、採光のための窓ガラスが必要であるが、夜は内側を白いルーバーで閉ざすことによって全体がひとつの白い箱となるように工夫されている。また昼間にはこのルーバーはサンコントロールの役も担っているという。
 この夜間照明の電気代は年間約50万円程度とのことであるが、これを高いとみるか安いとみるかは意見のわかれるところであろう。しかし新幹線への広告塔と思えば安いものかもしれない。いずれにしても、建主の衣料会社のパブリシティー効果を高めつつ、街並への優れた景観要素とした点で、思いきったデザインといえよう。
 選考委員全員の意見により、久しぶりに大賞を授与することが決定されたのは誠に喜ばしい。

山下 和正

あうら

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撮影 田中昌彦

概要

所在地:西春日井郡西春町西之保
建築主:個人
設計者:アノニマス アーキテクチュア スタヂオ
施工者:吉富工務店有限会社

主要用途:店舗兼ギャラリー
構造:鉄骨造
階数:地上1階
敷地面積:299.62平方メートル
建築面積:96.89平方メートル
延床面積:90.53平方メートル

講評

 計画地は西春町の庁舎に隣接しながらも、周辺にはまだ農地が点在するのびやかな地域である。そんな場所に何気なくあらわれる木立に囲まれた建築。コナラ、ソヨゴ、ハンノキ、足元にはオニソテツ、キチジョウソウ。これはなんの木?ああそうかこれがジューンベリー。雑木と野草の豊富さが楽しい。建築の中からはコンクリートのテラスのまあるい穴に植えられたソロノキの株立ちの大木が見え、黒い玉石の磨かれたテーブルの表面に枝葉のそよぎの姿を映す。
 まだちょっと力無げでそれぞれの木がまだお互いにちょこっと遠慮し合っているような森が、何気ない気負いの無い建築に心地よい。1枚のコンクリートの壁も杉板の木肌を映し訪れる客を迎える。自然をテーマにしながらこの場の自然とは何なのかちょっと戸惑っている。建築も造園も。そんな感が少しする。 
 でも生き物達が、木々が自分で自分のこの場の景をこれから作ってゆくだろう。施主が建築という器の中を造ってゆくだろう。全てが作られすぎていないがゆえに。
 この地に新しい木々を渡る風が吹いたことだけは確かである。

岡田 憲久

一楽鮓

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撮影 古藤雅代

概要

所在地:名古屋市中区伊勢山
建築主:個人
設計者:杉山十三建築デザイン研究所
施工者:株式会社日東建設

主要用途:店舗併用住宅
構造:鉄骨造
階数:地上3階 
敷地面積:156.36平方メートル
建築面積:124.61平方メートル
延床面積:339.96平方メートル

講評

 敷地は、日本中どこにでもある市街地としか形容できない、特徴のない街並みのなかにある。商業地域に指定されているが、将来はマンション街になりそうなところで、これからの変貌が予想されるところである。
 そうしたなかで、狭小な間口にもかかわらず巧みな壁面構成で心地よいリズムを感じさせるこの建物は、現状に一石を投じ異彩を放つものであるだけでなく、今後の街並みの変貌にかかわらず存在感を持ち続ける良質な建築として高く評価された。
 名古屋は都市であって都会でないと評される。その一因に、表通りの賑わいはともかく、一歩裏側にまわると索漠としていることがあげられる。そこに思わぬ良い建物と出会いときめくことができて都会である。それが店舗であればなお楽しい。この作品のような建物が散見できるようになればと願っている。

森川 礼

楽田ふれあいセンター 「しろやま」

mk9-4[1]

写真提供 犬山市

概要

所在地:犬山市字外屋敷
建築主:犬山市  楽田公民館建設推進協議会
設計者:株式会社久米設計名古屋支店
施工者:中村工業・間宮建設共同企業体

主要用途:公民館
構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
階数:地上2階 
敷地面積:4,134.24平方メートル
建築面積:1,188.17平方メートル
延床面積:1,513.57平方メートル

講評

 これは市民参加によって作られた公民館施設である。住民が何度もワークショップを重ね、設計者とともに建築設計を練り上げていくという大変手間のかかる作業を行い、さらに、完成後も住民の自主運営という形を実現している。このようなプロセスは今後の地域施設の計画として、一つのあるべき方法を示している。  
 参加型の設計では、建築家は設計者としてのみならず、様々な住民の意見を調整するファシリテーターとしての役割を果たすことになり、従来型の公共施設設計に比べ数倍の労力を要する。しかし、こうした役割を今後、建築家は積極的に担って行くべきであろう。そして、社会的には設計報酬の算定等、それを評価し支援する体制も考えて行かねばならない。単体の設計をこえ、まちづくりへの視点を含んだ新しい公共建築のプロセスが定着して行くことを期待し、主にソフトの視点から愛知まちなみ建築賞に値するものとして評価したい。  
 なお、完成された内外の空間の質も、奇をてらわない素直なものでそれ自体としても評価できる。これも、参加型設計による合意プロセスのなせる技であろう。

清水 裕之

せんねん村

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概要

所在地:西尾市平口町
建築主:社会福祉法人きらら会
設計者:キット・プランニング有限会社  大久手計画工房大井事務所
施工者:戸田・山旺建設工事共同企業体

主要用途:老人福祉施設
構造:鉄筋コンクリート造、一部木造
階数:地上3階 
敷地面積:10,341.00平方メートル
建築面積:4,328.26平方メートル
延床面積:5,979.92平方メートル

講評

 「周辺の風景にマッチした建物」、「環境保護重視であること」、「汚れやキズがぬくもりとなり味となる建物」、こんな思いをこめて建てられた特別養護老人ホームと聞く。
 西尾市郊外の水田や苗木畑に囲まれ、少し離れたところには住宅がまばらに建っているといったロケーション、その一画に周辺の環境に合わせた一つの村を形成しているように見える。
 外部から見ると、コンクリート打ち放しと杉板、そして屋根は地元の瓦をうまく調和させた外観、内部に入ると木材をふんだんに使った室内、しっくい壁とのやわらかさが体に伝わってくる。中庭には屋上緑化をした小高い丘からせせらぎが流れ、庭と建物のバランスが大変うまくとれている。
 設計のコンセプトにあるように何年か後には木々が成長し、木立の中の人にやさしい村となって、生活する人々や地元の人々の癒しの場になる、そんな気がする作品である。

梅田 俊比古

豊橋市公会堂

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写真提供 石本建築事務所

概要

所在地:豊橋市八町通
建築主:豊橋市
設計者:株式会社石本建築事務所名古屋支所
施工者:株式会社山正工務店

主要用途:公会堂
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上3階 
敷地面積:4,553.19平方メートル
建築面積:1,202.00平方メートル
延床面積:2,973.51平方メートル

講評

 近年、復元や再生といった作品の応募が多くなってきている。もともとの用途を変更したりして改築等を施したものはともかく、かつてあった図面通りに設計、施工したものまで認めるのか。それでは、過去の名作の復元は常に賞に値するのか。などと、今回の選考委員会では、どこまでを設計者の独自性と認めるかが議論となった。
 昨今の時代風潮から、新しいものをどんどん作り続けるだけでなく、良いものを大切に使い、保存してゆくという考え方は私のように建築史を勉強してきたものとしては喜ばしいことである。
 しかし、「建築賞」と銘打った本賞に相応しい復元作品とはどうあるべきか。というあたりが今回問題となったように思う。
 さて、本作品もそういった議論の俎上に載せられた復元・再生建築物の一つであった。
 結果として、豊橋市中心市街地整備ゾーンの文化軸の一翼を担うことを課せられて再生された本作品が美しい作品であることはいうまでもないが、この作品を中心として、明らかにまちなみ景観が創造されていること、また受賞によって豊橋市の景観がさらに整備され、住民の方々にも「美しいまちなみ」を意識してもらいたいと願って受賞対象となった。

岡本 真理子

鈴渓南山美術館(れいけいみなみやまびじゅつかん)

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撮影 車田保

概要

所在地:名古屋市昭和区南山町
建築主:レイケイ株式会社
設計者:株式会社竹中工務店
施工者:株式会社竹中工務店

主要用途:美術館
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上4階 
敷地面積:1,577.50平方メートル
建築面積:473.22平方メートル
延床面積:1,279.24平方メートル

講評

 八事の閑静な住宅街は、第一種低層住居専用地域で、敷地面積が1,000平方メートルから2,000平方メートルクラスの住宅が並んでおり、緑も濃い。その一角にある管理職用単身者アパート(1989年竣工、RC造)が、会社のスリム化で、整理されることになり、この土地が、隣地の所有者に売却された。資産運用を重視すれば、土地の有効活用が考えられるところであるが、隣地の所有者である建築主の要望で、現在の環境を変えず、既存の建物を活かして、美術館に生まれ変ることになった。簡単に取壊す風潮に流されない建築主の見識が評価される。
 こうした基本方針の元で、建物のボリュームを変えず、部屋の大きさや階高の変更をし、構造補強を行ない、アパートの単身者用の部屋を美術館の展示室などに上手に転用している。しかも、建物の外観は、バルコニー部分にアルミキャストのパネルを嵌め込むことで、格調高い美術館の表情を与えるとともに、門扉や塀にも建物と連続したイメージを与える意匠を採用している。夜間のライトアップも入り口廻りだけで抑制、道路に面した植栽も周囲の緑と連続したものとなっている。
 歴史的な建造物だけでなく、現代建築の再生活用を図り、まちなみの格調を高めた設計として高く評価される。

瀬口 哲夫

第9回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

 良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるという認識の下、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や潤いあるまちづくりに寄与する等、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1、地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。
  ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
  ●意匠・形態等に優れ、地域の文化性を高めているもの。
 2、地域固有のまちなみに調和し、特色ある景観の形成に寄与しているもの。
  ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
  ●歴史的または、伝統的なまちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
  ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、地域固有のまちなみ景観が形成されているもの。
 3、魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。
  ●公開空地やアトリウム等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
  ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
  ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4、その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

     梅田俊比古(愛知建築士会会長)
   岡田憲久(名古屋造形芸術大学助教授)
   岡本真理子(文化環境計画研究所取締役)
   清水裕之(名古屋大学教授)
   鈴木真生(愛知県建設部理事)
   瀬口哲夫(名古屋市立大学教授)
   水尾衣里(名古屋女子文化短期大学助教授)
   森川礼(日本建築家協会東海支部支部長代行)
   山下和正(山下和正建築研究所代表取締役所長)
  ●若山滋(名古屋工業大学教授)
   鷲野義明(愛知県建築士事務所協会会長)

​​(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県
​後援
 国土交通省 愛知県市長会 愛知県町村会 愛知県商工会議所連合会
​協賛
 (社)愛知建築士会、(社)愛知県建築士事務所協会、(社)日本建築家協会東海支部、(社)愛知県建設業協会、愛知県建築技術研究会、(財)愛知県建築住宅センター、(財)東海建築文化センター、中部デザイン協会