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調整あっせん事例集
目次
目次 | |
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1 組合活動 | (1)組合による企業施設の利用 |
(2)労働協約の締結 | |
(3)施設内での組合活動 | |
2 団体交渉 | (1)団体交渉の応諾要求、団体交渉のルールなど |
(2)団体交渉の出席者 | |
(3)団体交渉における資料の提示 | |
3 経営又は人事 | (1)解雇1 |
(2)解雇2 | |
(3)工場閉鎖・事業縮小 | |
4 賃金 | (1)時間外手当の支払いなど |
5 その他 | (1)パワーハラスメント |
1 組合活動
(1)組合による企業施設の利用
申請者(組合)の主張労使協定を結んだ上で、使用者から事務室の貸与を受けていたが、使用者はその労使協定を破棄した上で、立ち退きを迫ってきた。団体交渉は行ったが、話合いは平行線のままである。 |
被申請者(使用者)の主張数年前に本社社屋を改築したが、その後、業務拡張もあり、事務室に余裕がなくなってしまった。組合員も減ってきていることから、立ち退きをお願いした。 |
●あっせんでは・・・
あっせん員が組合と使用者に対し、会議室、倉庫、食堂の利用やロッカーの貸与等の様々な代替措置を提案しながら双方が譲歩できる点を探りました。
○あっせん結果
使用者が、労使協定の破棄は性急過ぎたとして謝罪し、組合事務所として貸与できる独立した部屋が用意できなかったため、社員食堂の一角を組合事務所として使用させることで双方が合意し、解決しました。
労働法まめ知識
使用者が労働組合の運営のために経理上の援助を与えることは不当労働行為として禁止されていますが、最低限の広さの事務所を供与することは除かれています(労働組合法第7条第3号)。
組合事務所の不貸与や明渡要求については、それが不当労働行為(支配介入)に当たるのではないかという問題がしばしば生じます。
こんな判例があります
組合による企業施設の利用は、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきであり、使用者は組合に対して、当然に企業施設の一部を貸与する義務を負うものではないとした判例(国鉄札幌運転区事件最判昭54.10.30、日産自動車事件 最判昭62.5.8)
(2)労働協約の締結
申請者(使用者)の主張勤務時間中に組合活動が行われるなど、業務に支障が生じているので、組合との間で、組合活動に関する基本的なルールを決めたい。 |
被申請者(組合)の主張組合活動について、使用者との間に共通認識が欠けており、不都合を感じているのは確かである。 |
●あっせんでは・・・
あっせん員が労使双方に対し、労働協約のひな形を示して、それをもとに別途協議のうえ労働協約を締結することを促しました。
○あっせん結果
あっせん員の示した案をベースとする労働協約を締結することに双方が合意し、解決しました。
労働法まめ知識
「労働協約」とは、賃金、労働時間などの労働条件や、団体交渉、組合活動などの労使関係のルールについて、労働組合と使用者が書面でとりかわした約束事です(労働組合法第14条)。
労働協約が締結されると、その有効期間中は一定の労働条件が保障されるので、労働者は安心して働くことができます。一方、使用者にとっても、労使関係の安定を図ることができます。
(3)施設内での組合活動
申請者(組合)の主張当社では、慣行上、会社施設内で組合活動としてのビラ配布が認められていない。会社施設内でビラ配布ができるように認めて欲しい。 |
被申請者(使用者)の主張顧客や取引先など、外部の方も来社されるので、会社施設内でのビラ配布は、会社業務の妨げとなり、認められない。 |
●あっせんでは・・・
使用者に対しては、正当な組合活動は法的に保護されることを伝え、組合に対しては、会社施設内での組合活動は使用者の施設管理権による一定の制約を免れないものであることを伝え、双方の歩み寄りを促しました。
○あっせん結果
会社施設内でのビラ配布は、会社業務の妨げにならない範囲で、就業時間外に敷地内の駐車場で行うことに限って認められることで双方が合意し、解決しました。
労働法まめ知識
法令又は正当な業務による行為は罰しない旨を定めた刑法第35条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であって正当なものについて適用があるものとされています(労働組合法第1条第2項)。
労働組合の正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをすることは、不当労働行為として禁止されています(労働組合法第7条)。
こんな判例があります
施設内でのビラ配布について、形式的にはそれを禁じた就業規則規定に違反する場合であっても、そのビラの内容や配布の態様に照らして、企業秩序を乱すおそれのない特段の事情が認められる場合には、実質的には規定違反とはいえず、これを理由として就業規則違反の懲戒処分をすることは許されないとした判例(倉田学園事件最三小判平6・12・20)
2 団体交渉
(1)団体交渉の応諾要求、団体交渉のルールなど
申請者(組合)の主張最近組合を結成し、数回の団体交渉を行ったが、独善的な社長は組合役員を恫喝するなど、組合軽視の対応を改めない。誠実な団体交渉を求める。 |
被申請者(使用者)の主張組合は、業績向上に非協力的であるほか、約束の交渉に連絡もなく欠席したり、会社が提示した資料を無断で社外に持ち出すなど信用できない。 |
●あっせんでは・・・
労使間に明確な団体交渉のルールが決められておらず、それが相互の不信感を生む原因となっていたため、交渉時間、出席人数、出席者の役職、開催場所などの基本的な団体交渉のルールを定めることを提案し、妥協点を探りました。
○あっせん結果
相互の信頼関係の構築、交渉時間、出席人数、出席者の役職、開催場所などの基本的な団体交渉のルールを定めたあっせん案を提示したところ双方が合意し、解決しました。
労働法まめ知識
使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなく拒むことは不当労働行為となります。使用者の不誠実な交渉態度も同様です(労働組合法第7条第2号)。
こんな判例があります
使用者が、団体交渉の場所、時間、交渉人数などに関して自ら主張する、合理性を欠くルールに固執し、ルールに関する合意の不成立を理由として団交を拒否することは、不当労働行為とみなされるとした判例(商大八戸ノ里ドライビングスクール事件東京高判昭62.9.8)
(2)団体交渉の出席者
申請者(組合)の主張ベースアップに関する団体交渉において、財務資料等の資料を提示し説明を行うことを求めたが、取締役ではなく総務部長が出席し、「経営状態とは関係がない」と提示を拒否し、「持ち帰って検討する」と回答するのみである。実質的な交渉権限を有する者の出席を求める。 |
被申請者(使用者)の主張財務状況等は口頭で説明済であり、回答についてもあらかじめ対応を決めてあった。「持ち帰って検討する」と答えたことをもって、実質的な交渉権がないとはいえない。 |
●あっせんでは・・・
総務部長を交渉担当者としたこと自体は不当とはいえないが、団体交渉の場で実質的な説明や合意に向けての交渉努力をせずに今回のような回答に終始するようでは誠実な交渉とはいえず、不当労働行為と疑われる。実質的な交渉権を持つ者が団体交渉の場に出席し、必要に応じて財務資料等を提示して、組合の理解、納得を得るよう努めるべきであることを、あっせん員が使用者に説明し、譲歩を促しました。
○あっせん結果
実質的な交渉権を持つ取締役が団体交渉に出席し、必要な資料を提示することを主な内容とするあっせん案を双方が受諾し、解決しました。
労働法まめ知識
会社が組合と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことは、不当労働行為として禁止されています (労働組合法第7条第2号)。
こんな判例があります
使用者が交渉事項について、あえて決定権限のない者を出席させ、また決定権限者への具申などの手続をとらない場合は、誠実交渉義務に反する不当労働行為とみなされるとした判例(大阪特殊精密工業事件大阪地判昭和55.12.24)
(3)団体交渉における資料の提示
申請者(組合)の主張賞与減額の根拠について詳細な説明を求めているが、使用者は業績不振と回答するのみで、会社の経営状況が分かる具体的な資料の提示を拒否している。実質的な交渉が進まず、不誠実な対応をしている。 |
被申請者(使用者)の主張会社は業績不振によって赤字となり、賞与減額はやむを得ない。組合から求められた資料を可能な限りで提示しており、誠実に団体交渉に応じている。 |
●あっせんでは・・・
使用者に対し、組合の納得を得るために具体的な説明や資料の提示などを行わない場合、不誠実交渉として不当労働行為に当たるおそれがあることを説明し、譲歩を促しました。
○あっせん結果
使用者が経営状態を示す財務諸表を組合に提示しながら説明を行うことで、労使双方が合意しました。
労働法まめ知識
使用者が組合との団体交渉を正当な理由なく拒むことは、不当労働行為として禁止されています(労働組合法第7条2号)。
こんな判例があります
使用者は、組合の要求や主張に対する回答、自己の主張を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどして誠実に団体交渉に当たらなければならないとした判例(カール・ツアイス事件東京地判平成元.9.22)
3 経営又は人事
(1)解雇 1
申請者(組合)の主張業績不振により勤務先の工場が閉鎖されることになり、組合員が遠隔地の別工場への転勤を命じられた。家族の介護のため転勤できないとして断ったところ解雇されたのは不当である。 |
被申請者(使用者)の主張遠隔地以外に工場はなく、やむを得ない措置である。 |
●あっせんでは・・・
通常は復職が争われるところ、組合員が別会社への再就職を考えていたため、金銭解決を提案し、解決金の額の調整を行いました。労使双方の考える解決金の額に大きな開きがあったため、双方に譲歩を促しました。
○あっせん結果
使用者が解決金を支払うことで双方が合意し、解決しました。
労働法まめ知識
解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効となります(労働契約法第16条)。
こんな判例があります
転勤命令につき1.業務上の必要性がない、2.不当な動機・目的がある、3.労働者に著しい不利益がある場合には、権利濫用となる場合があるとした判例(東亜ペイント事件最判昭61.7.14、ネスレ日本事件 最判平20.4.18)
(2)解雇 2
申請者(組合)の主張組合員は長らく正規社員として勤務していたが、社内で暴力事件を起こしたことを理由に懲戒解雇された。しかし、懲戒解雇に当たるような深刻なものではなく、このことに対する弁明の機会も与えられず、懲戒委員会も開催されていない。不当解雇であり、解決金の支払を求める。 |
被申請者(使用者)の主張組合員は、普段から言動が荒く、同僚とのトラブルも絶えないため、懲戒解雇した。不当解雇ではないので、解決金の支払には応じられない。 |
●あっせんでは・・・
あっせん員が使用者に対し、懲戒にあたっては本人に弁明する機会を与えることや懲戒解雇を決定する際には懲戒委員会を開催することが就業規則に定められている点を指摘して支払に応じるよう促し、組合には解決金額について譲歩を促しました。
○あっせん結果
使用者が解決金を支払うことで双方が合意し、解決しました。
労働法まめ知識
懲戒が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効となります(労働契約法15条)。
こんな判例があります。
弁明の機会を与えていないため、懲戒解雇は就業規則ないし懲戒の手続に違反するものとして無効とした判例(千代田学園事件 東京高判平16.6.16)
(3)工場閉鎖・事業縮小
申請者(組合)の主張事業縮小を理由に、工場に勤務する多数の組合員が指名解雇されたが、使用者は、解雇を行った後に非正規社員を雇い入れており、解雇の必要性がなかった。不当な解雇である。 |
被申請者(使用者)の主張取引先の海外移転が続き、業務縮小が必要となった。組合には出向や別工場への配置転換等を打診したが受け入れられなかったため、やむを得ず解雇することとなった。非正規社員は、工場閉鎖までの期間限定で採用したものである。 |
●あっせんでは・・・
使用者には整理解雇前に希望退職の募集などの方法を選択する余地があった一方で、組合は使用者の指名解雇の提案を受け入れており、あっせん員が双方の譲歩を促しました。
○あっせん結果
解雇対象者に対する割増退職金の支払で双方が合意し、解決しました。
労働法まめ知識
解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効となります(労働契約法第16条)。
整理解雇の有効性を問う裁判では、昭和50年代から 1.人員削減の必要性 2.人員削減の手段として整理解雇を選択する必要性 3.人選の合理性 4.手続の妥当性に着目して、全てを満たすかどうかで判断されてきました。この4「要件」を「要素」として緩和し、総合的に判断する判例も出ています。
こんな判例があります
人員削減の必要性に関して、企業の経営判断を尊重し、経営合理化や競争力強化のために人員整理を認めた判例(ワキタ事件大阪地判平12.12.1)
整理解雇の4「要件」を厳格に堅持した判例(労働大学事件 東京地決平成13.5.17)
組合との協議・説明義務も整理解雇の重要な要素とした判例(京都エステート事件京都地判平15.6.30)
4 賃金
(1)時間外手当の支払など
申請者(組合)の主張組合員は小売店の店長であり、労働基準法第41条第2号の「管理監督者」に当たるとして、時間外、休日労働の割増賃金が支払われていないが、実態は「名ばかり管理職」であり、「管理監督者」には当たらないので支払を求める。 |
被申請者(使用者)の主張組合員は、社員の人事考課、昇給等の決定などの労務管理も行っており、名実ともに「管理監督者」である。 |
●あっせんでは・・・
使用者に対し、組合員には労働時間に関する自由裁量がなく、給与や一時金において管理監督者にふさわしい待遇がなされていないなど、裁判になったら管理監督者として認められない可能性が高いことを説明し、譲歩を促しました。
○あっせん結果
労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは判断しないことを前提に、使用者が本件紛争に係る解決金を組合に支払うことで双方が合意し、解決しました。
労働法まめ知識
労働基準法上の労働時間、休憩及び休日に関する規定は、事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)又は機密の事務を取り扱う者については、適用されません(労働基準法第41条第2号)。
こんな判例があります
「管理監督者」について、1.職務内容が少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、2.部下に対する労務管理上の決定権限について一定の裁量権を有し、人事考課・機密事項に接していること、3.管理職手当などで時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、4.自己の出退勤を自ら決定する権限があることという判断基準を示した判例(ゲートウェイ21事件 東京地判平20.9.30、東和システム事件 東京地判平21.3.9)
労働基準法第41条第2号によって、深夜割増賃金を規定する同法第37条第3項(現第37条第4項)の適用が除外されることはなく、管理監督者に該当する労働者であっても、同項に基づく深夜割増賃金を請求することができるとした判例(ことぶき事件 最判平21.12.18)
5 その他
(1)パワーハラスメント
申請者(組合)の主張上司のパワーハラスメントが日常的に行われているため、就業規則にパワーハラスメントの禁止条項を新たに盛り込み、防止に努めることを要求する。 |
被申請者(使用者)の主張業務上必要な指導をしただけのことであり、パワーハラスメントがあったとは思っていない。パワーハラスメントに関するルールを作成したが、まだ組合に提示していない。 |
●あっせんでは・・・
あっせん員が、使用者に対し、指導に行き過ぎた部分があったことを認識させ、今後は、使用者が新たに作成したパワーハラスメントに関するルールに基づき、誠意ある対応をするよう求めました。
○あっせん結果
使用者が、行き過ぎた指導があったことを認め、口頭で謝罪したうえで、すでに作成したパワーハラスメントに関するルールに基づき、良好な職場環境となるよう必要な配慮をすることで双方が合意し、解決しました。
労働法まめ知識
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる1.優越的な関係を背景とした言動であって、2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、3.労働者の就業環境が害されるものであり、1から3までの3つの要素を全て満たすものをいいます(労働施策総合推進法第30条の2)。
使用者は、職場におけるパワーハラスメント防止のため、一定の措置を講じることが義務付けられています(労働施策総合推進法第30条の3第2項)。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすることとされています(労働契約法5条)。
こんな判例があります
叱咤激励が限度を超えており不法行為責任を認めた判例(A保険会社上司事件東京高判平17.4.20)
厳しい指導が業務上の指示の範囲内であるとした判例(医療法人財団健和会事件東京地判平21.10.15)