加工食品中のアクリルアミド
2007年11月16日(更新日:2025年12月16日)
はじめに
アクリルアミドは、農薬・動物用医薬品のように食品に残留したり、食品添加物のように意図的に加える物質ではなく、また天然由来の有毒成分ではないことから、これまで食品検査の分析対象物質とはみなされていませんでした。
しかし2002年、スウェーデン政府とストックホルム大学の共同研究により、炭水化物を多く含む食品を高温で加熱した際にアクリルアミドが生成されることが初めて報告されました。トンネル工事現場等の特殊な職場環境を除き、ヒトが有害化学物質であるアクリルアミドを食品から摂取しているとは思いもよらなかったため、この発表は世界中に大きな衝撃を与えました。
この発見は、トンネル工事現場で使用された漏水防止剤に含まれていたアクリルアミドの健康影響調査の過程で、ばく露歴のない人の体内からも低濃度のアクリルアミドが検出されたことがきっかけでした。
アクリルアミドとは
アクリルアミドは、以下の構造式を持つ無臭の白色結晶で、劇物に指定されています。
モノマー(単量体)であるアクリルアミドは室温では安定ですが、紫外線や熱により重合し、高分子のポリアクリルアミドとなります。
ポリアクリルアミドは主に紙の強度を高めるために製紙工程で使われるほか、汚水浄化のための凝集剤、化粧品や塗料などの原料にも利用されています。
健康影響の評価で問題となるのはモノマー(単量体)であり、一般に「アクリルアミド」と言う場合はこのモノマーのことを指します。
食品中でのアクリルアミドの生成機序
食品に含まれるアミノ酸の一種アスパラギンと還元糖(ブドウ糖、果糖など)が、120℃以上の加熱調理(揚げる・焼く・焙る)によってメイラード反応(アミノカルボニル反応)*1を起こし、その過程でアクリルアミドが生成されると考えられます。
ただし、他の成分や反応経路によっても生成される可能性があり、現在も世界中で研究が続けられています。
*1 アミノ化合物(アミノ酸やタンパク質等)と還元糖を加熱するときに見られる褐色物質(メラノイジン)を生ずる反応であり、食品加工や調理における色や香気に関わる反応です。発見者のフランスの科学者L.Maillardの名に由来します。
有害性と発がん性
アクリルアミドは、工場や工事現場などで高濃度にばく露された場合、神経系のタンパク質と結合することにより神経障害(筋力低下、手足のふるえ、知覚麻痺等)を引き起こすことが報告されています。
また、国際がん研究機関(IARC)は、アクリルアミドを「グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)」に分類しています(2025年時点)。動物実験では、高用量のアクリルアミドを投与した場合に発がん性が報告されていることなどから、ヒトに対しておそらく発がん性があると考えられています。
ただし、食事由来の量のアクリルアミド摂取と各種の発がんリスクについての疫学研究は限られており、リスクをより正確に評価するためには、さらなる研究の蓄積が必要とされています。
| 分類 | 評価内容 |
|---|---|
| グループ1 | ヒトに対して発がん性がある |
| グループ2A | ヒトに対しておそらく発がん性がある |
| グループ2B | ヒトに対して発がん性がある可能性がある |
| グループ3 | ヒトに対する発がん性について分類できない |
*従来、分類は5段階でしたが、2019年1月に「グループ4:おそらく発がん性はない」は廃止され、4段階の分類となりました。
食品中に含まれるアクリルアミドの健康影響
食品中のアクリルアミド摂取に関するリスク評価では、MOE(Margin of Exposure:ばく露マージン)という指標を用いて評価しています。MOEが10,000を下回る場合、健康リスクが懸念されるとされており、アクリルアミドのMOEはこれを大きく下回る300であると算出されています。
また、日本では内閣府食品安全委員会が、リスク評価の一環としてファクトシート(科学的知見に基づく概要書)に取りまとめて情報提供しています。詳細は食品安全委員会ウェブサイトの加工食品中のアクリルアミドについて(PDFファイル)でご覧いただけます。
食品中に含まれるアクリルアミド量
炭水化物を多く含む原材料を高温で加熱調理した食品、例えばポテトチップス、フライドポテトおよびビスケットのような穀類を原材料とする焼き菓子などに含まれていることが報告されています。
そのほか、コーヒー豆、ほうじ茶葉、煎り麦のように高温で焙煎した食品、野菜の素揚げや炒めもの、トーストにもアクリルアミドが含まれています。
加熱していない生の食材にはアクリルアミドは含まれていません。また、加熱しても茹でたり、蒸したりした場合ではアクリルアミドが含まれていないか、含まれていても極微量であることが報告されています。
2002年10月、国立医薬品食品衛生研究所が行った日本での市販国内加工食品中のアクリルアミド含有量調査結果を表2に示しますが、海外5カ国(ノルウェー、スウェーデン、スイス、英国、米国)での調査結果とほぼ同様の範囲内でした。
| 食品 | 日本(μg/kg) | 海外5カ国(μg/kg) |
|---|---|---|
| ポテトチップス | 467〜3,544 | 170〜2,287 |
| フライドポテト | 512〜784 | <50〜3,500 |
| ビスケット、クラッカー | 53〜302 | <30〜3,200 |
| 朝食用シリアル | 113〜122 | <30〜1,346 |
| とうもろこしチップス類 | 117〜535 | 34〜416 |
| 食パン、ロールパン | <9〜<30 | <30〜162 |
| チョコレートパウダー | 104〜141 | <50〜100 |
| コーヒーパウダー | 151〜231 | 170〜230 |
| ビール | <3 | <30 |
また、農林水産省が2004年度以降に実施した、市販加工食品中のアクリルアミド含有量実態調査の結果が農林水産省のウェブサイトで公表されています。
アクリルアミドを低減するための取り組み
アクリルアミドは微量でも健康に影響を及ぼす可能性があることから、食品からの摂取量を「無理なく到達可能な範囲でできるだけ低くすべき(ALARA原則*2)」という国際的な共通認識があります。
Codex(国際食品規格委員会)は2009年に低減のための実施規範を採択し、日本では農林水産省が2013年に指針を策定しています。
*2 食品中の汚染物質を「無理なく到達可能な範囲でできるだけ低くすべき」という考え方で、As Low As Reasonably Achievableの略語です。
消費者向けアドバイス
- 炭水化物の多い食品を焼いたり揚げたりする場合には、必要以上に高温・長時間で加熱しない
- 長期間冷蔵保存した生のジャガイモは、デンプンが分解され還元糖の濃度が高くなるため、揚げ物などの高温加熱を避け、煮る・茹でる調理にする
- 十分な果物や野菜を含む多様な食品をバランスよく摂取し、揚げ物や脂肪の多い食品の過度な摂取を控える
※補足:タバコの煙にもアクリルアミドが含まれています。