愛知県衛生研究所

チェルノブイリからの放射性セシウム - これまでの輸入食品の放射能検査結果

2006年4月28日

チェルノブイリ原発事故から20年!

2006年4月26日はウクライナ(当時はソビエト連邦)のチェルノブイリ原子力発電所原子炉事故から20年目の日でした。事故後20年を前にして昨年9月には、チェルノブイリに関するフォーラム(世界保健機構(WHO)を始めとする8つの国連機関とウクライナ、ロシア、ベラルーシが参画)が開催されました。そのフォーラムにおける報告書の記者発表資料によれば、放射性セシウム(この場合、セシウム−137を指します。事故により放出された放射性セシウムは主にセシウム−134とセシウム−137でしたが、半減期が30年のセシウム−137に比べて半減期が2年のセシウム−134は事故後20年を経た現在では既にほとんど消滅しています。)は農業生産物で減少傾向にあるのに比して、森林地帯や山林地帯の野性の動物や植物には高レベルに吸収されており、特に、マッシュルーム、ベリー、猟鳥に高濃度であることが指摘されています。また、フィンランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデンの北極圏及び亜北極圏地域では食物連鎖による地衣類(藻類と共生している菌類の仲間)からトナカイそして人間(現地ではトナカイの肉は一般的なものとして食べられています)への放射性セシウムの移行性が高いこと等が報告されています。

チェルノブイリの位置のマップ

輸入食品の放射能検査

広島・長崎とチェルノブイリを対比させることは被ばく等被害の種類が異なるために適切でないと言われてはいますが、チェルノブイリ原発から放出された放射能は広島型原子爆弾の約1000個分と推定され、その約10 %が外に放出されたことになると言われています。当時(1986.4.26-5.6)の具体的な放射能放出量は3000 petaBq(ペタ(10の15乗)ベクレル)**で、そのうち、半減期5日のキセノン-133が55.7 %、半減期8日のヨウ素-131が9.0 %というように半減期が約1年以内と半減期が短い放射性物質が約98 %を占め、半減期30年のセシウム−137は1.2 %(37 petaBq)でした。半減期の短い放射性物質は現在では既にほとんど消滅していますが、セシウム−137は放射能が半分になるまでに30年、千分の一になるまでに300年もかかる環境残留性の高い厄介な放射性物質です。この地球規模での放射能汚染に対する厚生労働省や愛知県の輸入食品中の放射能検査についてはすでに衛生研究所の仕事の紹介で述べていますので、ご覧ください。

日本における輸入食品中の放射能濃度の暫定限度は370 Bq/kg(セシウム−134+セシウム−137の合計値)です。厚生労働省の検疫所による輸入食品等の食品衛生法違反事例は随時厚生労働省のホームページ(放射能暫定限度を超える輸入食品の発見について(第34報)輸入届出における食品衛生法違反事例(速報))に掲載されています。厚生労働省のこれまでの発表を表1にまとめてみました。チェルノブイリ原発事故から18年が経過した時点でも国が定めた濃度以上のセシウム−137を含む食品が発見されることがあります。但し、食品中の放射能濃度の暫定限度は、日本の国民一人一日当たりの輸入食品の摂取量を考慮した上で、放射線防護の国際専門機関である国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年勧告「公衆の被ばく線量限度は1年間に1ミリシーベルト」も十分に下回る量として設定されています。1999年の厚生省(現厚生労働省)の計算では、ヨーロッパ地域から輸入される食品が全て370 Bq/kgで汚染されていると仮定した場合でも、年間被ばく線量は0.04ミリシーベルトと、勧告値の25分の1とのことでした。この極端な仮説から計算された0.04ミリシーベルトという被ばく線量は、愛知県民が通常の生活空間で受ける空間放射線量率(当所調査結果)は1年間に0.45〜0.80ミリシーベルト(平均0.59ミリシーベルト)の範囲ですから、愛知県民が毎日の生活で暴露されている自然の放射線量……自然界には低濃度の放射性物質が沢山存在しています……の変動の範囲に十分入っています。なお、違反件数は、1990年代に一旦減少傾向が見られたにもかかわらず、2000年以降に増加傾向が見られます。これら違反食品は、全てポルチーニ(ヤマドリタケ)、カバノアナタケ、カノシタタケ等のきのこ乾燥品又は冷凍品で、原産国はイタリア、ロシア、ウクライナ、フランス、ベラルーシ、スロベニアでした。

表1 日本において放射能暫定限度(370 Bq/kg)を超えた輸入食品の内訳と件数(厚生労働省発表)
日本において放射能暫定限度を超えた輸入食品の内訳と件数の表

愛知県における輸入食品の放射能検査

現在、厚生労働省は検査対象範囲をヨーロッパ地域とし、対象食品については、「トナカイ肉ときのこ及びきのこ乾製品に関しては全ロット検査」を、「ビーフエキスとハーブ及びハーブ乾製品に関しては輸入届出の10 %を目途とする」モニタリング検査を各検疫所で実施しています。

トナカイのイラスト

愛知県衛生研究所では、こうした国の監視網を通ってきた原則ヨーロッパ産の輸入食品について、保健所の食品衛生監視員が流通現場で収去したもの(1988〜2000年は年間約80件、2001〜 2004年は年間約50件)を検査しています。検査を開始した1988年から2004年の間の総検査件数は1209件で違反事例はありませんでしたが、国が定めた暫定限度よりは濃度は低いものの放射能が検出された食品(定量下限値である5 Bq/kgを超える食品)がいくつか見つかっていますので、それらの事例を表2にまとめてみました。当所で過去17年間に実施した1209件の1 %にあたる12件から放射能が検出されています。検疫所の違反事例と同様に、愛知県の検出事例も1990年代にはほとんどありませんでした。ところが、チェルノブイリ原発事故から12年目の1998年に、オランダ産ラズベリージュースから愛知県の測定における最高値94 Bq/kg(国が定める暫定限度370 Bq/kgの4分の1)が検出されました。このラズベリージュースを含む最近の愛知県での検出事例が、前述した国の各検疫所あて通知に記載されていないベリー等果実濃縮加工品であることは、チェルノブイリ周辺地域のベリー等に放射性セシウムが高濃度に蓄積されているというWHO等の報告とも併せて、注目していく必要があると思われます。

表2 愛知県においてセシウム-137を定量下限値(5 Bq/kg)以上検出した輸入食品の内訳と件数
愛知県においてセシウム-137を定量下限値以上検出した輸入食品の内訳と件数の表
食品のイラスト食品のイラスト

愛知県の放射能検査は今後も継続!

チェルノブイリ原発事故によって一旦環境中に放出されたセシウム−137は、放射性物質としての半減期を考えると20年経った現在もまだ半分以上残っています。WHO等が報告しているように、チェルノブイリ周辺地域では、一般環境中では希釈、流出等によって低減化傾向にはあるものの、森林地帯や山林地帯に生息する野生の動物や植物ではむしろ濃縮傾向にあり、これらが監視網をくぐり抜け輸入食品として流通経路に混入してくる可能性が懸念されます。

このため、愛知県衛生研究所ではチェルノブイリ起源の放射性セシウムの検査を継続して実施し、県民の食の安全と安心を図ることとしています。

関連ページ

半減期:
放射線を出して、放射性核種の原子数が元の原子数の半分になる時間のことです。したがって、放射性物質の放射能は半減期分の時間が経過すれば半分になります。
**Peta:
ペタと読み、1,000,000,000,000,000すなわち1千兆を表します。
Bq:
ベクレルと読み、放射能の強さを表します。 1ベクレルは1秒間に1個の原子が崩壊することです。