愛知県衛生研究所

第十八改正日本薬局方第一追補について
一般試験法及び医薬品各条等の改正がありました

日本薬局方(以下、「薬局方」という。)は、医薬品の性状及び品質の適正を図るため、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、「薬機法」という。)第41条第1項の規定に基づき、厚生労働大臣が定める医薬品の規格基準書です。

薬局方の構成は、通則、生薬総則、製剤総則、一般試験法及び医薬品各条等からなります。薬局方は薬機法第41条第2項の規定に基づき、少なくとも10年ごとに改正することとされていますが、科学技術の進歩をできるだけ速やかに反映させるために第八改正以降からは5年に1回の頻度で大きく改正され、令和3年6月7日から第十八改正日本薬局方が施行されています。また、次の大改正までに記載の追加や変更が必要と判断された場合、「追補」として公布されることがあり、最近では令和4年12月12日に「日本薬局方の一部を改正する件」(令和4年厚生労働省告示第355号)が公布され、同日から第十八改正日本薬局方第一追補が施行されました。

本稿では、第十八改正日本薬局方第一追補の主な改正点について解説します。

第十八改正日本薬局方第一追補における主な改正点

今回の薬局方の一部改正は、「第十九改正日本薬局方作成基本方針」に基づき、医学薬学等の進展に対応するとともに、諸外国における基準との調和を図るため、以下に示した点を中心に改正が行われました。

1.一般試験法の新規収載及び改正

2.医薬品各条の新規収載、改正及び削除

2.00 クロマトグラフィー総論について

本試験法は、クロマトグラフィー全般に共通する内容を総論としてまとめたものです。クロマトグラフィーの分離技術は多段階の分離法であり、試料の組成成分は固定相と移動相の2相間に分配されます。固定相は、固体又は固体やゲルに支持された液体であり、移動相は、ガス、液体又は超臨界流体です。分離は吸着、質量分布(分配)、イオン交換などに基づき、また、大きさ、質量、体積などの分子の物理化学的特性の違いによって行われます。本試験法では、主に用語の解説、パラメーターの定義と計算方法、システム適合性、クロマトグラフィー条件の調整、定量法について説明されています。

1.用語の解説、パラメーターの定義と計算方法

医薬品各条におけるシステム適合性と適否の判定基準は、パラメーターを使用して設定されています。装置によっては、SN比と分離度のようなパラメーターは、装置メーカーの提供するソフトウェアを使って計算されますが、使用者には、そのソフトウェアで使われている計算方法が日本薬局方の規定と同等のものであることを確認し、もしそうでなければ、必要な補正を行う責任があります。個々の用語の説明、パラメーター及び計算方法については第十八改正日本薬局方第一追補を参照してください。

2.システム適合性

システム適合性試験は、クロマトグラフィーのシステムが適切な性能を維持していることを確認するために不可欠です。クロマトグラフィーを用いた当該試験全体を通してシステム適合性の要件に適合していることが必要であり、システム適合性が示されなければ、サンプルの分析は認められません。クロマトグラフィーシステムの性能評価には、理論段数、保持係数(質量分布比)、システムの再現性、SN比、シンメトリー係数又は分離度/ピークバレー比が用いられることがあります。

3.クロマトグラフィー条件の調整

医薬品各条に記載されているクロマトグラフィー条件は、医薬品各条作成時に既にバリデートされています。クロマトグラフィーによる試験において、根本的に医薬品各条に規定する試験方法を変更することなく、種々のパラメーターを調整することができる範囲は限られており、この範囲から外れる変更を行う場合、分析法の再バリデーションが必要となります。特に複数パラメーターの調整は分析システムに対して累積的な影響を及ぼしうるため、使用者はその影響を適切に評価し、十分なリスクアセスメントを行わなければなりません。

4.定量

定量法は大きく外部標準法、内標準法及び面積百分率法の3つがあります。

(1)外部標準法

①検量線法
被検成分の標準物質を用いて、直線性が示される範囲内で複数濃度の標準溶液を調製し、一定量を注入します。得られたクロマトグラムから、標準物質の濃度を横軸に、ピーク面積又はピーク高さを縦軸にプロットして検量線を作成します。次に、試料溶液を医薬品各条に規定された方法で調製し、検量線を得た方法と同じ操作条件下で、クロマトグラフィーを行い、被検成分のピーク面積又はピーク高さを測定し、被検成分量を検量線から読み取るか、計算して求めます。 
②一点検量法
医薬品各条では、通例、検量線の直線範囲で、ある濃度の標準溶液と、標準溶液の濃度に近い濃度の試料溶液を調製し、同じ操作条件でクロマトグラフィーを行い、得られたレスポンスを比較して、被検成分量を求めます。この方法では、注入操作などの全ての試験操作は、同じ条件で実施しなければならないことに注意が必要です。

(2)内標準法

①検量線法
内標準法では、被検成分に近い保持時間を有し、クロマトグラム上の他の全てのピークと完全に分離する安定な物質を内標準物質として選びます。一定量の内標準物質と標準被検試料を段階的に加えて、数種の標準溶液を調製し、それぞれの標準溶液の一定量を注入して得られたクロマトグラムから、内標準物質に対する標準被検成分のピーク面積又はピーク高さの比を求めます。これらの比を縦軸に、標準被検成分量又は内標準物質量に対する標準被検成分量の比を横軸にとり、検量線を作成します。その後は(1)外部標準法①検量線法と同様です。
②一点検量法
標準溶液と試料溶液にそれぞれ一定量の内標準物質を加え、(1)外部標準法②一点検量法と同様です。

(3)面積百分率法

溶媒、試薬、移動相又は試料マトリックスから生じるピークや、判別限界又は報告の閾値(いきち)以下のピークを除いた全てのピークの面積の総和に対する、被検成分のピーク面積の百分率として算出します。