愛知県衛生研究所

加工食品中のアクリルアミド

2007年11月16日

はじめに

アクリルアミドは、農薬・動物用医薬品のような残留物質、意図的に加えられる食品添加物、また天然由来の有毒成分ではないことから、食品検査の分析対象物質とはみなされていませんでした。

2002年4月、スウェーデン政府はストックホルム大学との共同研究の成果として、ジャガイモのようなデンプンなどの炭水化物を多く含む食材を揚げたり、焼いたり、炒めたりして製造した食品に2,000μg/kgを超える濃度のアクリルアミドが含まれている場合があることを発表しました。この世界最初の発見は、スウェーデン国内のトンネル建設工事現場で使用された漏水防止充填剤に含まれていたアクリルアミド(未反応不純物)の健康影響調査において、アクリルアミドに接していないばく露歴のないヒトの体内からも低濃度のアクリルアミドが検出されたことから、汚染原因を明らかにするプロジェクトの中で加熱食品がノミネートされたことに基づきます。

トンネル工事現場等の特殊な職場環境を除き、ヒトが食品を介して有害化学物質であるアクリルアミドを摂取しているとは思いもよらなかったため、スウェーデン政府の発表は世界に大きな衝撃を与えました。

アクリルアミドとは

下に示す化学構造式を有する無臭の白色結晶で、劇物に指定されています。室温では安定ですが、紫外線や熱により重合(1分子が互いにつながって繰り返し構造を持つ巨大な分子をつくること。)し、ポリアクリルアミドとなります。アクリルアミドは、主に紙力増強剤、凝集剤の重合原料として使用され、その他、化粧品原料、アクリル系熱硬化性塗料の合成原料等に用途があります。

1分子のアクリルアミド(モノマー)は重合してポリアクリルアミド(ポリマー)になりますが、モノマーは水に極めて溶けやすく(30℃における溶解度:215.5g/100ml水)、逆にポリマーは水に溶けにくい性質を持っています。健康評価で問題となるのはモノマーであり、単にアクリルアミドと表現する場合はモノマーを指します。

C=CH−CO−NH
アクリルアミドの構造式

食品中でのアクリルアミドの生成機序

食品の原材料に含まれているアミノ酸の一種であるアスパラギンと果糖、ブドウ糖などの還元糖が、揚げる・焼く・焙るなどの調理中の加熱(120℃以上)によりアミノカルボニル反応(メイラード反応*1)と呼ばれる化学反応を起こし、その過程でアクリルアミドが生成すると考えられています。

しかしながら、アスパラギンや還元糖以外の食品成分が原因物質となっている可能性や、アミノカルボニル反応以外の反応経路からもアクリルアミドが生成する可能性があるとされており、世界中で生成機序解明のための調査研究が行われています。

*1 アミノ酸等のアミノ化合物と還元糖を加熱するときに見られる褐色物質(メラノイジン)を生ずる反応であり、発見者のフランス人L.Maillardの名に由来します。

アクリルアミドの有害性

アクリルアミドを取り扱う工場や工事現場で、大量にアクリルアミドを吸入・接触してしまった場合に、手足のふるえ・知覚鈍麻などの神経障害が報告されています。

また、国際がん研究機関による発がん性分類において、アクリルアミドは表1に示される発がん性分類の「グループ2A」に分類されています。動物実験では、高用量のアクリルアミドを投与した場合に発がん性が報告されており、ヒトに対しておそらく発がん性があると考えられています。

表1 国際がん研究機関による発がん性分類
分類評価内容
グループ1ヒトに対して発がん性がある
グループ2Aヒトに対しておそらく発がん性がある
グループ2Bヒトに対して発がん性があるかもしれない
グループ3ヒトに対して発がん性があるとは分類できない
グループ4ヒトに対しておそらく発がん性はない

食品中に含まれるアクリルアミドの健康影響

食品中に含まれるアクリルアミドを摂取した際の影響は、発がん性の有無を含め、解明されていません。動物実験では、高用量のアクリルアミドを投与した場合に発がん性が報告されていることなどから、ヒトに対しておそらく発がん性があると考えられています。このため、炭水化物を多く含む食材を高温で加熱した際に生成される程度の極めて微量のアクリルアミドのリスクをより正確に評価するためには、食品中に含まれると同程度の微量のばく露条件下での毒性に関する情報がより多く必要であり、我が国を含め各国で調査研究が進められています。

我が国では内閣府食品安全委員会が、リスク評価の一環としてファクトシート(科学的知見に基づく概要書)に取りまとめて情報提供しています。

詳細は食品安全委員会のウェブサイト(PDFファイル)でご覧いただけます。

食品中に含まれるアクリルアミド量

炭水化物を多く含む原材料を高温で加熱調理した食品、例えばポテトチップス、フライドポテト及びビスケットのような穀類を原材料とする焼き菓子などに含まれていることが報告されています。 コーヒー豆、ほうじ茶葉、煎り麦のように高温で焙煎した食品原材料にも含まれています。

アクリルアミドが含まれている食品は、市販の加工食品だけではなく、家庭で調理した場合にもその材料や方法によっては、例えば野菜の素揚げや炒めもの、手作りの焼き菓子、トーストにもアクリルアミドが含まれています。

加熱していない生の食材にはアクリルアミドは含まれていません。また、加熱調理した食品でも茹でたり、蒸したりした食品にはアクリルアミドが含まれていないか、含まれていても極微量であることが報告されています。

2002年10月、国立医薬品食品衛生研究所が行った市販国内加工食品中のアクリルアミド含有量調査結果を表2に示しますが、海外5カ国(ノルウェー、スウェーデン、スイス、英国、米国)の調査結果のほぼ範囲内の値でした。

表2 加工食品中のアクリルアミド含有量
食品我が国(μg/kg)海外5カ国(μg/kg)
ポテトチップス467〜3,544170〜2,287
フレンチフライ512〜784<50〜3,500
ビスケット、クラッカー53〜302<30〜3,200
朝食用シリアル113〜122<30〜1,346
とうもろこしチップス類117〜53534〜416
食パン、ロールパン<9〜<30<30〜162
チョコレートパウダー104〜141<50〜100
コーヒーパウダー151〜231170〜230
ビール<3<30

また、平成16年度から18年度にかけて農林水産省が実施した市販加工食品中の含有量実態調査結果が、農林水産省のウェブサイトで公表されていますが、それらの結果も上表と同様な傾向にありました。

アクリルアミドを低減するための取り組み

アクリルアミドは微量でも健康に影響を及ぼす可能性があることから、食品からの摂取量を少なくするために、食品中のアクリルアミド量をできる限り低くしなければならないことが、ALARAの原則*2に則った国際的な共通認識です。

我が国においてもアクリルアミドの低減対策は緊急課題です。

また、消費者に対して普段の食生活や調理の際に気をつけることとして、次のアドバイスをしています。

蛇足ですが、タバコの煙にもアクリルアミドは含まれています。

*2 食品中の汚染物質を「無理なく到達可能な範囲でできるだけ低くすべき」という考え方で、As Low As Reasonably Achievableの略語です。