魚介類中の水銀含有量について
2024年7月8日
厚生労働省は、平成22年(2010)6月に「水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項」(厚生労働省ホームページ参照)で魚に含まれる微量の水銀が胎児に悪影響を及ぼす可能性があるとして、サメ、メカジキ、キンメダイ、クジラ類について妊婦を対象とした摂食の注意を呼びかけました。この「注意事項」は、約450種、約16,400検体の魚介類に含まれる水銀の含有量調査の結果と、わが国における魚介類の摂取状況等をふまえて検討されたもので、ここに示された魚種等を除き、現段階では水銀による健康への悪影響が一般に懸念されるようなデータはないこと、さらに、魚介類等の摂取は一般に人の健康に有益であり、この注意事項が魚介類の摂取の減少につながらないよう正確に理解されることを期待したいとされています。
「注意事項」は何に基づいているのか?
わが国では昭和48年(1973)に魚等に水銀の暫定規制値が設定されました(昭和48年7月23日環乳第99号通知「魚介類の水銀の暫定的規制値について」)。水俣病が、メチル水銀に汚染された魚介類を長期間にわたり食べ続けた結果、水銀の蓄積が一定の量に達して発病したものと判明し、長期間摂取し続けても一定限界以内であれば発症量に達しないという観点から専門家会議で暫定基準について検討されました。専門家会議では、当時入手できる限りの内外の研究資料に基づき充分な安全率をみこんで検討した結果、総量規制として体重50kgの成人の一週間のメチル水銀の暫定摂取量限度を0.17mgと決め、これを前提とし、国民の最大平均魚介類摂取量を基として魚介類の暫定的規制値を0.4 ppmと定めました。検査の現場では、まず総水銀の検査を行ない、その結果が0.4 ppmを超える場合は、さらにメチル水銀の検査を行ない、その結果が0.3 ppm(水銀として)を超えたものを、暫定的規制値を超えた魚介類と判定します。これらの魚介類が市場に流通しないように、当該魚介類の廃棄、販売の自主的規制などの適切な指導を行なうものとされています。
なお、この暫定的規制値は、マグロ類、カジキ類、カツオ類および内水面水域の河川産の魚介類(ウナギ、ナマズ)については適用しないとされ、さらに、昭和48年10月には深海性魚介類等(メヌケ類、キンメダイ、ギンダラ、ベニズワイガニ、エッチュウバイガイおよびサメ類)についても適用しないこととなりました。これらの魚種が適応から外された理由は、①これらの魚種が集中的に食される魚種ではないこと、②大量の流通魚ではないこと、③含有している水銀は天然に由来するものであること、④摂取量の実態からみて健康被害を生ずるおそれはないものと考えられたこと等によります。
この規制値が定められた当時の魚介類の消費量と水銀濃度に立脚したものであり、50年を経過した現在、魚種、消費量、水銀濃度等の見直しがされて、「注意事項」が示されたものと思われます。
日常的に食べている魚についてはどれくらい水銀が含まれているか?
愛知県では、毎年、県内の市場やスーパーマーケットで売られている魚介類について水銀の含有量調査を昭和48年度(1973)から開始し、現在まで継続しています。今回、約50年間の調査のなかから、最近の14年間に実施した魚介類中の水銀の調査結果を中心に報告します。2010~2023年度に愛知県内(名古屋市を除く)の市場を流通していた魚介類563件を対象とし、魚種ごとの総水銀濃度(水銀としてppm, ND:定量下限(0.01ppm)未満)を表に示しました。
総水銀濃度には種差が見られ、食性が肉食で食物連鎖の上位の魚種ほど高く、プランクトン食のイワシ、ボラ、コノシロ等は低い傾向がみられました。また、同一魚種では体長の大きいものほど高濃度でした。本調査では、主に規制の適用魚種である魚介類について調査を行ってきましたが、「注意事項」では、規制の適用外である高濃度に水銀を含む魚種(クジラ類、深海性魚介類、マグロ類等)について注意が必要とされています。今後、現在の日本の家庭で摂食頻度の高い魚介類(イカ、サケ、エビ等)及び魚介類加工食品、水銀摂取に寄与率の高い食品について調査を進め、食品別平均値等の情報提供をしていくことが、水銀摂取について正確な理解を深め、水銀摂取量の低減化を行うために役立つものと考えます。
平均値 (ppm) | 最小値-最大値 (ND: <0.01ppm) | 検体数 | ||
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1 | マカジキ* | 2.25 | 1 | |
2 | アカマンボウ | 0.34 | 1 | |
3 | アンコウ | 0.21 | 1 | |
4 | キダイ(レンコダイ) | 0.20 | 1 | |
5 | ゴマサバ | 0.17 | 0.07-0.22 | 11 |
6 | アカガレイ | 0.16 | 0.04-0.35 | 5 |
7 | ユメカサゴ | 0.14 | 0.08-0.22 | 6 |
8 | マサバ | 0.14 | 0.05-0.31 | 21 |
9 | シロムツ | 0.13 | 0.05-0.19 | 4 |
10 | クロムツ | 0.13 | 1 | |
11 | エゾメバル | 0.11 | 1 | |
12 | カマス | 0.10 | ND-0.21 | 8 |
13 | ブリ | 0.09 | 0.01-0.39 | 7 |
14 | ダツ | 0.09 | 1 | |
15 | キンメダイ* | 0.09 | 0.05-0.15 | 4 |
16 | クロダイ | 0.08 | 0.01-0.26 | 8 |
17 | エソ | 0.08 | 0.06-0.11 | 3 |
18 | メバル | 0.07 | 0.05-0.09 | 4 |
19 | コチ | 0.07 | 1 | |
20 | マルアジ | 0.06 | 0.02-0.09 | 15 |
21 | ハタハタ | 0.06 | 0.04-0.10 | 6 |
22 | ニギス | 0.06 | 0.02-0.15 | 19 |
23 | チダイ | 0.06 | 0.03-0.09 | 8 |
24 | スズキ | 0.06 | 0.02-0.10 | 3 |
25 | イトヨリ | 0.06 | 0.03-0.08 | 3 |
26 | マダイ | 0.05 | 0.02-0.08 | 4 |
27 | ヒラアジ | 0.05 | 1 | |
28 | ニシン | 0.05 | 1 | |
29 | ソイメバル | 0.05 | 0.02-0.07 | 5 |
30 | サンマ | 0.05 | 0.03-0.08 | 41 |
31 | カサゴ | 0.05 | 0.03-0.09 | 3 |
32 | イシモチ | 0.05 | 0.02-0.10 | 14 |
33 | ムツ | 0.04 | 0.03-0.05 | 2 |
34 | マダラ | 0.04 | 0.01-0.08 | 3 |
35 | マカレイ | 0.04 | 1 | |
36 | ヒゲナガエビ | 0.04 | 1 | |
37 | トビウオ | 0.04 | 0.02-0.07 | 4 |
38 | ガヤメバル | 0.04 | ND-0.11 | 9 |
39 | イサキ | 0.04 | ND-0.12 | 10 |
40 | メヒカリ | 0.03 | 0.02-0.08 | 15 |
41 | マアジ | 0.03 | ND-0.13 | 73 |
42 | ゼンメ | 0.03 | 0.02-0.03 | 2 |
43 | スルメイカ | 0.03 | 0.02-0.08 | 7 |
44 | キス | 0.03 | ND-0.09 | 7 |
45 | カタクチイワシ | 0.03 | 0.01-0.04 | 2 |
46 | イシガレイ | 0.03 | 1 | |
47 | マコガレイ | 0.02 | 1 | |
48 | マイワシ | 0.02 | ND-0.07 | 117 |
49 | ベラ | 0.02 | 1 | |
50 | ヒイラギ | 0.02 | 1 | |
51 | ヒイカ | 0.02 | 0.01-0.02 | 2 |
52 | タチウオ | 0.02 | 0.01-0.02 | 2 |
53 | サワラ | 0.02 | 1 | |
54 | サヨリ | 0.02 | 0.01-0.02 | 2 |
55 | サゴシ | 0.02 | 0.01-0.02 | 4 |
56 | コノシロ | 0.02 | ND-0.05 | 19 |
57 | ケンサキイカ | 0.02 | 1 | |
58 | クロカレイ | 0.02 | 1 | |
59 | カレイ | 0.02 | ND-0.03 | 2 |
60 | ウミタナゴ | 0.02 | 1 | |
61 | ウマヅラハギ | 0.02 | ND-0.02 | 5 |
62 | アナゴ | 0.02 | 0.01-0.02 | 3 |
63 | アカイカ | 0.02 | 0.02 | 2 |
64 | ヤリイカ | 0.01 | ND-0.05 | 7 |
65 | メイタガレイ | 0.01 | ND-0.02 | 3 |
66 | ボラ | 0.01 | ND-0.01 | 6 |
67 | ヒラメ | 0.01 | 1 | |
68 | シズ | 0.01 | 1 | |
その他 | 31 | |||
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