医薬品成分が検出された違法健康食品について
(平成17年10月1日から平成18年3月31日までの検出状況)
2006年5月26日
食生活を通じた健康づくりに対する関心の深さから、「健康食品」は手軽に摂取できることも手伝って、店頭販売や新聞・雑誌・インタ-ネットによる通信販売により広く流通し、その消費は年々増加し、「健康食品」ブームが高まっています。つい最近も(平成18年5月6日)健康にいいと称される食品素材がテレビの番組に取り上げられ、この中で「白インゲン豆を使用したダイエット法」が紹介され、その方法を試した視聴者から嘔吐・下痢等の急性胃腸炎の症状を訴える苦情が数多く寄せられたということです。これは白インゲン豆には問題はなく、調理方法、摂取量に原因があるのではないかと考えられています。
一方「健康食品」の中には、その効果を高めるために故意かつ違法に医薬品成分を添加したものがあり、これまでにもそのような違法かつ健康に危害を及ぼす恐れのある少なからずの「健康食品」の流通、売買事例が報告されています(Fig.1)。
このような「健康食品」は消費者の健康を害するものであり、薬事法上、違反品として取り扱われています。消費者の健康被害を未然に防ぐため、最近、国内において「健康食品」から検出された医薬品成分の検出状況について述べます。
平成17年10月1日から平成18年3月31日までの僅か6ヶ月の間だけでも、全国では29種もの違法「健康食品」が検出されています。その一覧を標榜されている表示内容と検出された医薬品成分と共に表1に示しました。なお、これらの商品全てが現在は販売が中止されています。
商品名 | 公表日・場所 | 形状 | 原産国 | 標榜 | 検出された 医薬品成分 |
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元気王 | 17.10.20・千葉県 | カプセル | 不明 | 健康補助食品 | シルデナフィル |
一撃騎士 | 17.10.20・千葉県 | カプセル | 不明 | 「精力増進、持続力アップ」 | シルデナフィル、バルデナフィル |
Vim | 17.10.20・千葉県 | 液体 | 米国 | 「Dietary supplement」 | ホンデナフィル |
A’ in HERO | 17.10.27・群馬県 | 液体 | 日本 | 清涼飲料水 | ヒドロキシホモシルデナフィル |
ドキン | 17.11.22・佐賀県、愛知県、厚生労働省 | 錠剤 | 中国 | カメムシ、トウチュウカソウ加工食品 | プソイドバルデナフィル |
三體牛鞭 勃動力 | 17.11.30・福島県 | カプセル | 中国 | 精力補給、純天然生物精制・口服速效 | シルデナフィル |
ありんこパワーゴッド | 17.12.15・北海道 | カプセル | 中国 | 男が元気になる源泉のために | シルデナフィル |
馬心筋スーパードリンクナイトパワー | 17.12.21・福岡県 | 液体 | 不明 | 清涼飲料水、「貴方の体力はそんなものじゃない!」 | ホモシルデナフィル |
玉珠 | 17.12.21・福岡県 | カプセル | 中国 | 中国秘伝の健康食品 | シルデナフィル、ヒドロキシホモシルデナフィル |
玉珠(サンプル品) | 17.12.21・福岡県 | カプセル | 不明 | 特になし | シルデナフィル |
紫電 | 17.12.21・福岡県 | カプセル | 日本 | スッポン加工食品「Grab your Dreams!」 | タダラフィル |
帝王マカ | 17.12.21・福岡県 | 粉末 | 不明 | 特になし | ヨヒンビン |
BOY-JOY (勃楽) | 17.12.22・群馬県 | 錠剤 | 中国 | 特になし | ヒドロキシホモシルデナフィル |
Hustle Punch | 17.12.22・群馬県、18.1.16・東京都 | カプセル | 日本 | 身体に優しい絶倫サプリメント | シルデナフィル |
超威龍 | 18.1.16・東京都 | カプセル | 中国 | 蟻・冬虫夏草・強力新配方 | シルデナフィル |
Vict-R | 18.1.16・東京都 | カプセル | 不明 | 健康補助食品「勃起力促進作用」 | シルデナフィル |
Ecstasy SEX | 18.1.16・東京都 | カプセル | 不明 | supplement | タダラフィル |
Vict | 18.1.16・東京都 | カプセル | 不明 | 健康補助食品「勃起力促進作用」 | シルデナフィル、タダラフィル |
神龍丹 | 18.1.16・東京都 | カプセル | 不明 | 特になし | インヨウカク |
狼LIQUID LOVES EDITION | 18.1.20・大阪府 | 液体 | 不明 | 清涼飲料水 | ヒドロキシホモシルデナフィル |
爽痩茶麗 | 18.2.9・東京都 | 不明 | タイ | 不明 | センナの小葉及び果実 |
Herbal Style | 18.2.9・東京都 | 不明 | タイ | 不明 | センナの小葉及び果実 |
神精宝 | 18.2.10・佐賀県 | カプセル | 中国 | 紅景天加工食品 | タダラフィル |
パワーキープ | 18.2.23・東京都 | カプセル | 中国 | 紅景天加工食品 | タダラフィル |
フェニックス | 18.3.3・大阪府 | カプセル | 日本 | 冬虫夏草加工食品 | タダラフィル |
仙生源 | 18.3.13・愛知県警 | 錠剤 | 不明 | 滋養強壮 | タダラフィル |
男健 | 18.3.14・兵庫県 | カプセル | 中国 | 特になし | シルデナフィル |
昴ANG | 18.3.15・東京都 | カプセル | 中国 | 紅景天加工食品 | タダラフィル |
野草健康茶【健美源】ハーブ茶 スリム | 18.3.15・東京都 | ティーバッグ | タイ | 特になし | センナの小葉及び果実 |
以上のように、平成17年10月1日以降の6ヶ月間だけでも全国では29製品の「健康食品」から32件の医薬品成分が検出されました。
その内訳はシルデナフィル11件、タダラフィル8件、ヒドロキシホモシルデナフィル4件、センナ3件、ホモシルデナフィル1件、バルデナフィル1件、プソイドバルデナフィル1件、ホンデナフィル1件、ヨヒンビン1件、インヨウカク1件でした。
シルデナフィルは医薬品「バイアグラ」の主成分、タダラフィルは医薬品「シアリス」の主成分、バルデナフィルは医薬品「レビトラ」の主成分であり、いづれも勃起不全治療剤です。また、医薬品として承認されてないヒドロキシホモシルデナフィル、ホモシルデナフィル、ホンデナフィル、プソイドバルデナフィルはシルデナフィルと類似の化学構造を有しており、シルデナフィルと同様の作用を示すことが実験的に確認されています。
このように、平成17年10月以降の半年間に「健康食品」に違法に添加された医薬品成分はそのほとんど(91%)が強壮効果を期待させたものでした。残り3件がダイエット効果を期待させたもの(センナ)ということになります。違法に添加された医薬品成分は、①強壮効果を期待させたもの、②ダイエット効果を期待させたもの、③精神安定効果を期待させたもの、④抗炎症効果を期待させたものが過去に出現していますが、今回も相変わらずの傾向を示しています。
上記のシルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィルは特定部位における血管拡張作用により、勃起不全・勃起障害の治療に用いる医薬品成分ですが、副作用として血管拡張作用による頭痛、ほてりなどがよく見られます。しかしながら最も心配なことは、既に狭心症や高血圧の薬としてこれらの物質とは作用機序の異なる血管拡張剤である硝酸剤や酸化窒素供与剤(ニトログリセリン等)を服用している人達がこれら違法な「健康食品」を摂取した場合です。このような場合には、本来の薬剤による血管拡張作用が増強され、異常なまでに血圧が降下し重篤な症状が発生し、時としては死にいたる可能性があることです。実際、そのような事例が我が国でも発生しています。
また、シルデナフィルに類似した化学構造を有するヒドロキシホモシルデナフィル、ホモシルデナフィル、ホンデナフィル、プソイドバルデナフィルはシルデナフィルと同様の作用を有すると考えられ、健康被害が発生するおそれが否定できないと思われます。
ヨヒンビンはもともと西アフリカ地方特産のヨヒンベというアカネ草科など植物の樹皮や根中に含まれているアドレナリン作用の一部を阻害する(専門的にはα-2 adrenergic receptor antagonist)成分で、国内では化学的に合成された塩酸ヨヒンビンが医薬品の有効成分として用いられています。老衰性陰萎等に効能が認められています。副作用として動悸、血圧上昇、悪心等があります。
インヨウカク(別名:イカリソウ)はナンテンと同じメギ科の植物のイカリソウ属の葉で、生薬エキスとして医薬品に配合され、その作用機序は明らかではありませんが滋養強壮剤として用いられています。副作用としてめまい、吐き気、口渇等があります。
センナはマメ科の植物(チンネベリ・センナ又はアレキサンドリア・センナ)で小葉及び果実を生薬として用います。その作用はセンナの成分が大腸に達し、腸内菌で代謝されて瀉下作用を発現し、緩下剤として用いられています。副作用として腹痛、下痢等があります。
今回検出された強壮効果、ダイエット効果を期待させ、不正に添加された医薬品成分は強い副作用が出現する可能性があるものばかりで、このような「健康食品」を摂取することは、1)違法(薬事法)なものを口にしていること、2)「健康食品」ではなく、薬を飲んでいることになること、したがって、3)不必要な薬の作用が発現すること、4)「健康食品」と信じて、長期間摂取することにより、例え含まれている量が少なくても薬の副作用が出現する可能性があること、などが心配されます。もちろん全ての「健康食品」が違法なものでもなく、また、健康を害するものではありませんが、「健康食品」は病気の治療・予防を目的とするものではないことから医薬品とは異なり製造販売に関する許可制度や「健康食品」そのものに関する規格基準もありません。すなわち、「健康食品」はあくまで栄養補給や健康の維持など一般的な食品の範囲の目的しか持っていないものなのです。
このような「健康食品」について、消費者は十分に理解し、健康は「健康食品」の摂取等により安直に得られるものではなく、バランスの良い食生活や運動等、日常の生活習慣全体から得られることを認識すると共に、「健康食品」の摂取に際しては、個人の責任において上手に摂取することが大切であると考えられます。
公表された上記の製品を摂取している方は、健康被害を生ずる恐れがありますので、摂取を直ちに止めてください。また、製品の摂取が原因と疑われる症状を示している場合には、医療機関や最寄りの保健所にご相談下さい。