愛知県衛生研究所

メラミン添加によるペットフード原材料の擬装

2007年6月7日

ペットフードの写真

5月8日、中国の国家品質監督検験検疫総局は、江蘇省と山東省の2社が製造して北米に輸出されたペットフード原材料に、メラミンが違法に添加されていたと発表しました。 米国とカナダでは今年3月、これらのペットフードを食べた数百匹のイヌとネコが原因不明で死亡したため、米国食品医薬品庁(FDA)が追跡調査した結果、中国から輸入された小麦グルテン中にメラミンを検出したことから、中国側に調査を依頼していたものです。この事件については、わが国ではそれほど報道されませんでしたが、食品の安全・安心の観点から情報提供します。

中国国家品質監督検験検疫総局
中国国家品質監督検験検疫総局(質検総局)は、国家品質技術監督局と国家出入境検験検疫局が合併した直属機関で、国内製品や輸出入品の品質検査から各種認証認可まで、その職責は多岐にわたっています。そして、質検総局は中国製品の品質向上に大きく貢献し、これまでの中国製品は「ニセモノ」「低品質」といった悪いイメージの払拭に尽力している国家機関です。

事件の概要

平成19年2月以降、米国で発生したペットの病気や死亡の報告を受けて、FDAは原因究明を開始し、ペットフード製造に用いられた小麦グルテンに原因があるとし、その汚染物質を調査しました。小麦グルテンは中国産でしたが、最初に疑われた汚染物質はニューヨーク州農業市場部から報告のあったアミノプテリン(葉酸合成阻害剤、ネズミ駆除剤)でした。しかし、この分析結果は他の検査機関では確認されませんでした。FDAはビタミンD、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、カドミウム、水銀、鉛、ヒ素、亜鉛、カビ毒などを疑いましたが、これらは検出されませんでした。ところが、ある企業が回収対象ペットフードからメラミンを検出し、FDAがこの結果を追試・確認しました。さらにコーネル大学動物健康診断センターは、当該ペットフードを摂取したネコの尿及び腎臓からメラミンを検出しました。

FDAは追跡調査の結果、小麦グルテン以外に中国から輸入された米蛋白質濃縮物がメラミン及びシアヌル酸などのメラミン関連化合物に汚染されていること、また、この米蛋白質濃縮物はペットフード製造に使用され、そのペットフード残渣が家禽やブタの動物飼料製造に使用されたことも確認しました。メラミン及び関連化合物を含む飼料を与えられたブタやニワトリ由来の豚肉、鶏肉、鶏卵をヒトが食べた場合の健康リスクについて、連邦機関の科学者は、最悪のシナリオでもメラミンの推定暴露量は安全と考えられる量の約2,500分の1であり、健康リスクは非常に低いと評価しました。

さらにFDAと米国農務省(USDA)は、中国から輸入されたメラミン汚染のある小麦グルテン及び米蛋白質濃縮物は偽装表示されたものであり、実際にはメラミン及びメラミン関連化合物を含む小麦粉であったと発表しました。これまでにFDAは最終製品や植物蛋白質製品等も含めて各種の製品約880検体を検査し、そのうち500検体以上からメラミンを検出しましたが、メラミン陽性検体はいずれも中国の上記2会社の2つのバッチに由来するものでした。

リコール等の詳細な情報はFDAのウェブサイトに掲載されていますので、そちらをご覧ください。

病因はメラミンとシアヌル酸の化学反応物

米国獣医師会(AVMA)は、リコール対象となったペットフードを食べたイヌやネコの病理解剖所見から、メラミンとシアヌル酸の化学反応によって結晶が生じ、これにより腎臓の機能が阻害された可能性があることを発表しました。(詳細はこちら

リコール対象のペットフードの影響を受けていたとみられる動物の腎臓内にあった結晶を分析したところ、シアヌル酸70%とメラミン30%で構成された極度の不溶性物質であったこと、ネコの尿サンプルにシアヌル酸とメラミンを混ぜたところ、短時間に腎臓内にあった結晶と類似の結晶が形成されたことも発表しました。

比較的低濃度のメラミン単独では毒性が低くさほど問題とはなりませんが、メラミンとシアヌル酸が共存したことにより結晶を生じて腎臓障害を被ったと推察されています。

なお、この他にアンメリン、アンメリドの2種類のメラミン関連化合物も、今回の動物の死亡・発病になんらかの関連があると見られており、現在、研究が進められています。

メラミンの添加理由

窒素含量が高い工業用化学物質であるメラミン(分子量あたりの窒素割合66.7%)が、飼料の見かけの蛋白質含量を多く見せるために小麦グルテン、その他の蛋白源に不正に添加されたもの(欺まん材)と推測しています。

我が国の対応

カロリーベースで60%を輸入に依存している我が国の食糧事情から、当該汚染原材料が輸入されて食品製造に使用されることが最も気がかりな点です。厚生労働省はFDA等の公表を受けて、検疫所に中国産植物性タンパクに関する監視の強化を通知しています。現在までに輸入食品等の食品衛生法違反事例(速報)に当該品の情報が掲載されていませんので、輸入実績はないものと判断されます。

しかしながら、昭和44年に我が国でもアンメリンが動物性蛋白質混合飼料等に混入され、その一部が配合飼料に混入された事例がありました。この事例もメラミン関連化合物のアンメリンが粗蛋白質成分量の欺まん材として使用されたものでした。

メラミン及び関連化合物

メラミン(C3H6N6、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン)は白色単斜晶系の結晶で250℃以下で昇華します。特殊な医薬品原料用途の場合を除き、多くはホルマリンと反応させてメラミン樹脂としての用途です。動物実験での毒性は低いようですが、ラットやイヌで利尿作用や結晶尿が認められています。

基本骨格:1,3,5−トリアジン化学名R1R2R3
メラミンの化学構造 メラミンNH2NH2NH2
シアヌル酸OHOHOH
アンメリンOHNH2NH2
アンメリドOHOHNH2