ニセクロハツによる食中毒事例について
2026年3月12日
2023年8月、愛知県内において、野生のキノコを誤って食べたことによる食中毒事例が発生しました。 患者は近隣で採取したキノコを夕食のカレーに使用し、翌朝に下痢・嘔吐・頚部痛が出現したため医療機関に搬送されました。 その後、横紋筋融解症のため、一時は重篤な状態となりました。 医療機関からの連絡を受けて保健所が調査を開始し、患者宅に残されていた未調理キノコ及びキノコを用いた調理済み食品の検査を当所が担当しました。 検査の結果、患者が食べたキノコがニセクロハツであることが確認され、本事例はニセクロハツによる食中毒と判明しました。
ニセクロハツとは
本事例の原因となったニセクロハツは、外観が食用キノコとよく似ているため誤食されやすく、国内でも重症例・死亡例の報告がある毒キノコです。 傘の大きさが5〜12cmと比較的大型で、灰色〜黒褐色をしており、外見から安全性を判断することは一般の方には極めて難しいとされています。 また、夏から秋にかけて常緑樹であるツブラジイ(ブナ科)のある地上に発生し、摂食後には消化器症状に続いて横紋筋融解症を発症し、重篤化することが知られています。 毒性成分は2-シクロプロペンカルボン酸で、致死量はキノコ2〜3本程度ともいわれており、少量の摂取でも生命に危険が及ぶ可能性があります。 厚生労働省も、食用と確実に判断できないキノコを採取・喫食しないよう注意喚起しています。
愛知県衛生研究所における検査対応
当所では、理化学検査と遺伝子検査により原因究明を行いました。
まず、理化学検査については、医薬食品研究室が担当し、未調理キノコ2検体及びキノコを用いた調理済み食品3検体を対象に、液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計(LC-MS/MS、Liquid chromatograph/tandem mass spectrometer)を用いた成分分析を実施しました。
ニセクロハツの毒性成分は2-シクロプロペンカルボン酸ですが、当該成分の検査法は確立していないため、代わりに指標成分*であるシクロプロピルアセチル-(R)-カルニチン(CPAC)を分析対象としました。
その結果、未調理キノコ2検体及びキノコを用いた調理済み食品1検体(カレーの具のキノコ)からCPACが検出され、検体にニセクロハツが含まれていたことが示されました。
検体ごとに濃度には差がみられましたが、調理済み食品からも指標成分が確認されたことは、当該成分が調理過程を経ても残存することを示しています。
*:指標成分とは、特定の生物に特徴的に含まれる化学成分であり、その生物が混入している可能性を判断する際の手がかりとして用いるものです。
同時に、遺伝子検査については、医動物研究室が担当し、キノコの分類・同定に用いられる ITS (internal transcribed spacer)領域のDNAを増幅・解析することで、未調理キノコ2検体が既知のニセクロハツの塩基配列と一致することを確認しました。
このように、当所では理化学検査と遺伝子検査の双方からニセクロハツを確認することで、原因の特定に至りました。
最後に
本事例は、野生キノコを自己判断で食用としたことにより発生したものです。
厚生労働省が強調するように、食用と確実に判断できないキノコは採らない・食べないことが最も重要です。
また、キノコを食べた後に体調不良が現れた場合には、速やかに医療機関を受診する必要があります。
今後も当所では、植物性自然毒に関する検査体制を強化し、県民の皆様の食の安全・安心の確保に努めてまいります。