愛知県衛生研究所

日本における残留農薬規制の変遷と分析法について(2)

- ポジティブリスト制度の導入から2年 -

2008年5月23日

食品衛生法が改正され、残留基準が定められている農薬のみを規制対象とする従来のネガティブリスト制度から、残留基準等が定められていない農薬についても一律基準(0.01ppm)を設定して原則規制するポジティブリスト制度に移行して、2年が経ちます。

ポジティブリスト制度のフロー図

今年1月の中国製冷凍ギョーザ事件は記憶に新しいところですが、幸いにもこの2年間、ポジティブリスト制度に関連して県民のみなさんの食卓を直撃するような事件は起こっていません。しかし、生産者側には大きな混乱がありました。例えば、隣り合う田畑で異なる農作物が栽培されている場合、隣の田畑から適用外の農薬が風で飛んでくる「ドリフト問題」が指摘されていました。しかし、これまでのところドリフトによる違反事例は、国内から報告されていません。

一方で、想定外の違反事例も発生しています。例えば、シジミから一律基準を超える除草剤が検出されています。これは、水田で使用された除草剤が河川に流入し、シジミに蓄積したものと推定されています。また、パセリから、水稲のイモチ病などに使用される殺菌剤が一律基準を超えて検出されています。これも、水稲に殺菌剤(粒剤)を使用したところ、大雨で流出したものと推定されています。このような事例では、故意や過失がなくても一律基準が適用されて、食品衛生法違反となり、販売禁止などの措置がとられています。経済的な打撃は大きく、風評被害も懸念されます。

ところで、一律基準として設定された0.01ppmという濃度は、食品1トン(1,000 kg)に10mgの農薬が含まれていることを意味します。このようなごく微量の残留農薬を複雑な食品成分の中から確実に検出し、精度の良い検査を可能とするには、相応の技術が必要です。当衛生研究所は、十数年間、将来のポジティブリスト制度への移行を念頭に置きながら、食品に残留する可能性のある多くの農薬成分をより微量レベルでより精度良く一斉に検査するための分析法開発に力を入れています。このような研究により、医薬食品研究室の上野英二主任研究員が、平成20年度日本食品衛生学会学術貢献賞(食品衛生学の分野に関して優れた研究業績をあげ、食品衛生学の発展に顕著な貢献をなした研究者に贈られる賞です。)を受賞しました。

◆関連リンク
食品に残留する農薬等のポジティブリスト制度について