愛知県衛生研究所

トランス脂肪酸

平成19年3月12日

マーガリン、ショートニングなどに含まれるトランス脂肪酸を取り過ぎると、心臓疾患に繋がる恐れがあるとして、欧米では表示の義務化や含有量制限などの規制が取られています。我が国では内閣府食品安全委員会が、このことについての科学的知見をファクトシートに取りまとめて情報提供(PDF)していますので、紹介します。

脂肪酸

脂肪酸は、長鎖炭化水素の一端にカルボキシル基を有する鎖状モノカルボン酸の総称です。自然界では直鎖状で、炭素数が偶数のものが一般的です。炭素炭素結合がすべて飽和である脂肪酸が飽和脂肪酸と呼ばれ、代表例としてパルミチン酸(C15H31COOH)、ステアリン酸(C17H35COOH)が挙げられます。また、1個以上の炭素炭素二重結合を有する脂肪酸が不飽和脂肪酸で、これにはオレイン酸(C17H33COOH、二重結合1個)、リノール酸(C17H31COOH、二重結合2個)、リノレン酸(C17H29COOH、二重結合3個)、アラキドン酸(C19H31COOH、二重結合4個)、エイコサペンタエン酸(EPA、C19H29COOH、二重結合5個)、ドコサヘキサエン酸(DHA、C21H31COOH、二重結合6個)などが属します。天然には脂肪酸のカルボキシル基がグリセリン、高級アルコール、ステロールなどの水酸基とエステル結合した形で存在し、グリセリンとの結合体を油脂、高級アルコールとのそれはワックス(ろう)と呼ばれています。物性として、不飽和脂肪酸を多く含む油脂は常温で液体ですが、常温で固体の油脂(脂肪と呼ばれることがある。)には飽和脂肪酸が多く含まれています。前者には植物性油脂、魚油を、後者には動物性油脂を当てはめることができます。

トランス脂肪酸

不飽和脂肪酸について、二重結合を構成する炭素原子に結合する水素原子の結合の向きの違いによりシス型とトランス型が存在します。下図のとおりシス型は二重結合部分の水素原子の向きが同じ側にあり、トランス型は二重結合を挟んで水素原子が対角線上にあります。天然にはシス型の不飽和脂肪酸がほとんどです。トランス型脂肪酸の融点(固体が液体になり始める温度)はシス型脂肪酸より高いため固体になりやすく、同鎖長の飽和脂肪酸に近い融点となります。

トランス脂肪酸の構造図

トランス脂肪酸の出所

トランス脂肪酸の出所には、次の三点が考えられています。

牛肉のイラスト

@について、油菓子を分析した結果、トランス脂肪酸の含有率は15%以下のものがほとんどであった旨の報告があります(日本油化学会誌、42巻、32〜38(1993))。また、Aの水素添加した食用精製加工油脂(硬化油脂)は、ショートニング製造やマーガリンに求められる硬さ、口溶け良さを付与する目的でマーガリン製造に使用されていますので、これらにはトランス脂肪酸が含まれます。Bの理由から牛肉、牛乳にはトランス脂肪酸が含まれますので、乳製品中にも存在します。

トランス脂肪酸の摂取量

表に示したように、日本ではトランス脂肪酸の1日あたり摂取量は1.56gと推計され、摂取エネルギーの0.7%に相当するとみられています。米国では、成人平均として1日摂取量5.8g、摂取エネルギーの2.6%相当ですが、EUでは男性平均1.2〜6.7g、女性平均1.7〜4.1gの1日摂取量であり、それぞれ摂取エネルギーの0.5〜2.1%、0.8〜1.9%に相当します。

表 一人あたりのトランス脂肪酸の摂取量
 1日摂取量(g)摂取エネルギーに占める割合(%)
日本(平均)1.560.7
米国(成人平均)5.82.6
EU(男性平均)1.2〜6.70.5〜2.1
EU(女性平均)1.7〜4.10.8〜1.9

トランス脂肪酸のリスクの程度

欧州食品安全機関は、食品中のトランス脂肪酸のヒトへの健康影響についての意見書の中で、トランス脂肪酸は飽和脂肪酸と同様に悪玉コレステロールといわれる低比重リポたん白質(LDL)を増加させ、善玉コレスレロールの高比重リポたん白質(HDL)を減少させること、悪玉コレステロールの増加と善玉コレスレロールの減少が心臓疾患の発症と正の相関関係を示していることから、飽和脂肪酸と同じようにトランス脂肪酸の摂取と心臓疾患のリスク増大には相関関係がある可能性がある旨を述べています。

諸外国の状況

食事、栄養および慢性疾患予防に関するWHO/FAO(世界保健機関・国連食糧農業機関)合同専門家会合の報告書では、食事からのトランス脂肪酸の摂取を極めて低く抑えるべきであり、最大でもトランス脂肪酸の摂取量は一日あたり総エネルギー摂取量の1%未満とするように勧告しています。

米国では、2006年1月から食品の栄養成分表示欄に飽和脂肪酸、コレステロールに加えてトランス脂肪酸含有量の表示を義務付けました。また、米国人の食事指針案では、上述のWHO/FAOの報告書と同様に1%未満を勧告しています。

デンマークでは、2004年1月から国内すべての食品について、油脂中のトランス脂肪酸の含有率を2%までとする規制を取っています。

我が国では

日本では1日あたりのトランス脂肪酸摂取量は1.56g、これは摂取エネルギーの0.7%相当であり、諸外国と比較してトランス脂肪酸の摂取量が少ない食生活からみて、健康への影響は小さいと考えられます。

しかしながら、食品中のトランス脂肪酸含有量および摂取量の基礎的な調査が少ないことから、現時点における実態把握のために食品中のトランス脂肪酸含有量に関するデータ収集・調査を行っているところで、これらの結果をファクトシート等に反映させて情報提供に努めるとしています。

いずれにしても、偏りのないバランスの良い食生活を送ることが重要です。