愛知県衛生研究所

イソスポラ

Isospora belliの成熟オーシストの写真

イソスポラ症は古くから世界中で知られている腸管感染症で、比較的熱帯地域に多く発生します。

最近エイズにおける合併症として注目されています。潜伏期は通常1週間とされていますが、エイズなどの免疫不全者では数日で発症するとされています。ヒトの小腸に寄生するイソスポラには人イソスポラ(Isospora homonis)と第一次世界大戦の時に流行した戦争イソスポラ(I. belli)の2種があります。症状は人イソスポラでは発熱、食欲欠乏、嘔気、腹痛を伴う中程度の粘液性下痢があり、戦争イソスポラでは多くが無症状(不顕性感染)で、時に粘液性下痢を起こし、健常人であれば数日から数週間で自然に治癒しますが、エイズ患者などの免疫不全者では難治性に再発を繰り返します。

経口的に摂取されたオーシストの中の原虫本体であるスポロゾイトは小腸に達すると小腸上皮細胞内に侵入し増殖して別の分裂虫体となり、上皮細胞を破ってたくさんの分裂虫体が放出され、一部は新しい小腸の細胞に達すると、雄性生殖体と雌性生殖体にそれぞれ変化します。この2つが受精すると未熟オーシストとなり、外界へ排出されます。オーシストはさらに外界で気温により2〜3日後スポロシストという2分節化したもの(成熟オーシスト・写真1)となり、各々の中に4つのスポロゾイトを含有するようになります。ヒトはこの成熟したオーシストに汚染された水や野菜などを経口的に摂取して感染が成立します。

猫から検出された成熟オーシスト(Isospora sp.)の写真

イソスポラは宿主特異性が高く、ヒトの他、イヌやネコ(写真2)、ブタなどの哺乳動物に寄生し、それぞれ固有の種が存在し、相互に感染することはありません。ヒトは前述の2種のみで、現在世界でよく見られるのは戦争イソスポラです。

サイクロスポラと同様に国内での感染例はまれで、主に海外旅行者の感染が多く、1980年以降20例ほど報告されており、ほとんどがエイズなどの免疫不全患者です。

治療法は体系化されておらず、クロロキンやメトロニダゾルあるいはST合剤などの治療薬が用いられますが、やはりジアルジアと同様に他の疾患との鑑別診断が必要ですので、早めに医療機関を受診することをお勧めします。

予防策としては、ジアルジアをはじめその他の原虫感染症と同様に、発展途上国への旅行では、ナマ水やナマ物などの摂取を避けることです。