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生酒の香りの劣化を抑制する新技術を開発しました~食品工業技術センターと企業、大学が共同開発~

ページID:0612556 掲載日:2025年11月20日更新 印刷ページ表示
7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに9 産業と技術革新の基盤をつくろう

 あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センター(名古屋市西区。以下「センター」という。)は、盛田株式会社(名古屋市中区。以下「盛田」という。)及び名古屋文理大学(稲沢市)と共同で、フレッシュな香りやみずみずしい味わいが特徴である生酒※1の劣化臭(生老香(なまひねか)※2)を抑制する技術を新たに開発しました。
 従来、生酒の品質保持には高価な設備や煩雑な操作が必要でしたが、本開発技術は、鉱物の一種である酸性白土(さんせいはくど)※3を生酒に接触させるだけで生老香の生成を抑制できることが特徴です(特許第7299573号)。
 本開発技術を紹介するため、2025年11月26日(水曜日)から11月28日(金曜日)までの3日間、東京ビッグサイト西展示棟(東京都江東区)で開催される「アグリビジネス創出フェア2025」に出展します。

1 開発の背景

 清酒の国内市場が縮小傾向にある一方で、海外では和食ブームを背景に人気が高まっており、その輸出量は年々増加しています。さらに、昨年12月には「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録され、今後の清酒市場拡大への期待が高まっています。その中で注目されているのが女性や若者層に人気の高い「生酒」です。加熱処理を一切行わないことで生まれるフレッシュな香りやみずみずしい味わいが特徴の生酒ですが、”生老香”と呼ばれる独特の劣化臭が出やすいという品質保持上の課題があり、低温で保存しても数か月で品質が落ちてしまうことが知られています。生老香を抑制する方法として、低温管理以外では限外ろ過※4技術が挙げられますが、導入にあたり高額な設備投資が必要となります。このため、より簡便で効果的な生老香抑制技術が求められていました。生老香の生成を抑制できれば、品質保持期間の延長や常温での流通が期待されます。
 そこで、センターと盛田では、これまでの共同研究で培ってきた、液状醸造食品を対象とする「たんぱく質吸着剤※5による品質劣化防止技術」の技術シーズを活用するとともに、液状醸造食品の品質劣化防止技術に詳しい名古屋文理大学近藤徹弥教授と連携して、生老香の生成を抑制する技術の開発に取り組みました。

2 開発内容

(1)研究開発の概要 
​ 生老香を分析する手法の検討から着手し、生老香の主因子であるイソバレルアルデヒド(i-Val) ※6を簡便に測定する分析法を開発しました(日本醸造協会誌,113(6),383-388,2018)。
 続いて、i-Valを生成するたんぱく質の一種である酵素を除去するため、いくつかのたんぱく質吸着剤を対象に性能評価を行ったところ、生酒のi-Val生成を効果的に抑制可能な酸性白土を見出しました。さらに、酸性白土の使用量や処理時間、処理温度等について最適化を図りました。
 生酒の長期保存試験を行った結果、酸性白土を2%添加することで、生老香の主因子であるi-Val濃度は、酸性白土を使用しない場合の約1/10に抑えられました(図1)。また、貯蔵後の香りや総合的な官能評価結果も、酸性白土を使用しない場合と比較して良好でした。​

 

長期保存試験のグラフ

 今回新たに開発した技術は、酸性白土を生酒に添加するだけで生老香の主因子であるi-Valの生成を抑制できることが特徴です(図2)。高価な設備や複雑な操作を必要とせず、既存の工程に組み込むことができることから、簡便に導入が可能で効果的な技術です。これにより、保冷が必要なために輸出するのが難しかった生酒を常温輸送することができ、清酒市場の拡大、さらには国際競争力の強化につながることが期待されます。

開発技術のイメージ

 本技術については2023年6月に特許を取得しています(特許第7299573号、清酒の劣化抑制剤、劣化が抑制された清酒及びその製造方法)。また、本技術における酸性白土は、2024年9月に国税庁の長官指定告示物品※7に指定されました。

(2)研究開発体制
 本研究はセンター、盛田、名古屋文理大学の3者の連携により行いました。また、本研究の一部は、公益財団法人内藤記念科学振興財団平成28年研究助成及びJST研究成果最適展開支援事業A-STEP(平成30年度募集【機能検証フェーズ】試験研究タイプ第1回)を受けて実施しました。

3 今後の予定

 2025年11月26日(水曜日)から11月28日(金曜日)までの3日間、東京ビッグサイト西展示棟(東京都江東区)で開催される「アグリビジネス創出フェア2025」にて、本技術を紹介します。
 また、センターでは本技術に関心のある企業の方々からの相談や問合わせに随時対応します。お気軽に御連絡ください。

4 問合せ先

(開発技術に関すること)
あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センター
発酵バイオ技術室、保蔵包装技術室 担当:三井、半谷、伊藤
名古屋市西区新福寺町2-1-1  電話:052-325-8092
URL:https://www.aichi-inst.jp/shokuhin/

(生酒、製品化に関すること)
盛田株式会社 
担当:品質本部 品質管理課 小鈴谷(こすがや)駐在 課長 寺尾啓吾(てらおけいご)
常滑市小鈴谷字ヘリ地21-1  電話:0569-37-0048

(生老香の分析法、開発技術に関すること)
名古屋文理大学
担当:健康生活学部 健康栄養学科  教授 近藤徹弥(こんどうてつや)
稲沢市稲沢町前田365  電話:0587-23-2400

【参考】「アグリビジネス創出フェア2025」について
会期:2025年11月26日(水曜日)~11月28日(金曜日) 午前10時から午後5時まで
場所:東京ビッグサイト西展示棟
東京都江東区有明3-11-1 電話:03-3533-5522
概要:全国のスマート農業技術メーカーやスタートアップ等が参加して、農林水産・食品分野等の最新の研究成果を分かりやすく紹介し、出展者と来場者のマッチングを促すことを目的として開催するイベントです。
主催:農林水産省
参加費:無料(登録制)

【用語説明】
※1 生酒
 加熱処理を全く行っていない清酒。フレッシュな香味を有する清酒で、冷やして飲むのに適している。酒質が変化しやすい。

※2 生老香
 生酒を貯蔵した場合に発生する劣化臭。

※3 酸性白土
 粘土鉱物(ケイ酸塩鉱物)の一種で、モンモリロナイトを主成分としている。強力な吸着力や触媒作用を有する。火山岩やその凝灰岩が風化・変質してできたものであり、日本の各地に分布している。

※4 限外ろ過
 分子量の違いを利用して物質を分離する技術。イソバレルアルデヒドを生成する酵素を分離除去することができる。

※5 たんぱく質吸着剤
 たんぱく質を吸着する能力のある物質。本開発技術では、たんぱく質の一種である酵素を吸着する。ワインやビールなどでは、シリカゲルや粘土系の物質が以前より用いられてきた。品質を変化させずに品質の劣化を防止するためには、対象の製品ごとに適切な吸着剤を選択する必要がある。

※6 イソバレルアルデヒド(i-Val)
 生老香の主要成分。麹菌により生産される酵素により、イソアミルアルコールから生成する。

※7 国税庁の長官指定告示物品
 酒税法施行規則第 13 条第8項第3号に規定されている酒類保存のため酒類に混和することができる物品。

このページに関する問合せ先

​あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センター発酵バイオ技術室
担当:三井、半谷、伊藤
電話:052-325-8092