本文
愛知のおいしい豚肉生産を支えるデュロック種系統豚「アイリスD2」を開発しました
高品質な豚肉の安定供給のため、ランドレース種、大ヨークシャー種、デュロック種の3品種を順に交配した三元肉豚が広く利用されています。愛知県は都道府県で唯一、三元肉豚の親となる3品種すべての系統豚を、自県で供給しています。
この度、愛知県農業総合試験場(以下、「農総試」という。)は、産肉能力が向上したデュロック種系統豚「アイリスD2」を開発しました。これにより、三元肉豚の枝肉格付けの向上や養豚農家の経営安定が期待できます。
1 「アイリスD2」の特徴
2008年に開発した「アイリスナガラ」と比較した特徴は、以下のとおりです。
(1)背脂肪厚が適度で、三元肉豚の枝肉の格付け向上が期待できます(1.9cm→1.6cm)。
(2)1日あたりの豚の平均増体重は同程度(1,016g→1,023g)。
(3)高単価なロース肉の大きさは、同程度(ロース芯平均断面積40cm2→40cm2)。
2 開発の経緯
農総試では全国に先がけ、1970年から豚の系統豚開発に取り組み、これまでに3品種7系統を開発してきました。
「アイリスD2」は、2016年から開発に取り組み、2025年に完成しました。
2016年 元豚を米国や国内から生体・精液・受精卵移植技術で導入、交配開始
2018年 発育データ等に基づいた選抜・交配
2019年 豚熱発生による集団消失・中断
2020年~ 豚熱発生直前に保存した受精卵から再生、選抜・交配を再開
2025年 完成
3 今後の予定
農総試が開発した系統豚は畜産総合センターで維持・増殖され、県内の養豚農家等に供給されます。
2025年10月上旬 畜産総合センターへ「アイリスD2」を移管。維持、増殖を開始。
10月下旬 日本養豚協会へ系統認定を申請。年内認定見込み。
2026年秋~ 畜産総合センターより養豚農家へ供給開始。
2027年夏~ 養豚農家が「アイリスD2」を利用した三元肉豚の出荷を開始見込み。
4 関連説明
(1)「アイリスD2」の名は、本県の県花「カキツバタ」にちなみ、その英名「アイリス」に由来しています。「D」は、デュロック種(Duroc)を示し、「2」は2代目であることを表します。
(2)三元肉豚は、3品種の豚を交配して作られます。一般に、繁殖性が高いランドレース種と大ヨークシャー種を交配してF1母豚を作り、これに産肉性の高いデュロック種を交配して生産します(図1)。
(3)系統豚は、遺伝的に似通った豚の集団で、均一性が高く、互いに一定以上の血縁関係(いとこ程度)を持っています。系統豚を親に持つ肉豚の豚肉は、品質が安定しています。ただし、系統豚は、近親交配を重ねることにより、繁殖能力などが低下するため、約15年間ごとに新しい系統の更新が必要です。このため、2016年からデュロック種「アイリスナガラ」に代わる新たな系統豚の開発に取り組みました。
(4)枝肉とは、食肉用に処理した後、頭・皮・内蔵などを取り除いた胴体の肉のことです。「重量・背脂肪の厚さ・外観・肉質」の4項目で評価され、「極上・上・中・並・等外」の5段階に格付けされます。上物の背脂肪の厚さは1.3~2.4cmで、今回の系統豚を利用した三元肉豚は、1.8~2.1cm(試算値)となります(表1)。
(5)三元肉豚の肉質には、デュロック種の特徴が反映されます。2025年の家畜改良増殖目標(農林水産省)によると、デュロック種のロース芯断面積の全国平均は33cm2です。
(6)受精卵移植技術とは、雌豚から採取した受精卵を凍結保存し、これを別の雌豚に移植する技術です。これまでに農総試では、育種と並行して受精卵移植技術の開発を進めてきました。受精卵の凍結保存により家畜伝染病による遺伝資源消失を回避でき、受精卵移植技術により集団の再生が可能となりました(図2)。
5 参考
(1)愛知県内の養豚農家の3割強が、愛知県の開発した系統豚を利用しています(2025年、県畜産課調べ)。
(2)愛知県の飼養戸数138戸(全国第8位)、飼養頭数287,400頭(全国第12位)。出典:畜産統計調査(2024年2月1日時点)
(3)愛知県の養豚産出額は290億円(全国9位及び愛知県内品目別2位。出典:生産農業所得統計(2023年)
※家畜伝染病防疫対策のため、農業総合試験場内への立ち入りを御遠慮いただいています。
図1 愛知県の系統豚による三元肉豚生産体制
等級 | 重量(kg) | 背脂肪(cm) |
---|---|---|
極上 |
73.0以上~81.0以下 |
1.5以上~2.1以下 |
上 | 68.0以上~83.0以下 | 1.3以上~2.4以下 |
中 | 63.0以上~78.0未満 | 0.9以上~2.7以下 |
78.0以上~88.0以下 | 1.0以上~3.0以下 | |
並 | 63.0以上~78.0未満 | 0.9未満 2.7超過 |
78.0以上~88.0以下 | 1.0未満 3.0超過 | |
63.0未満 88.0超過 | - |
(出典:公益社団法人日本食肉格付協会)
※等外はその他の基準を含めて、著しく満たさないもの
図2 凍結受精卵を利用した子豚の再生
このページに関する問合せ先
愛知県農業水産局農政部農業経営課 愛知県農業総合試験場
農業イノベーション推進室技術調整グループ 畜産研究部養豚研究室
担当:中村、大野 担当:内倉、長渕
電話:052-954-6410 電話:0561-41-9556
内線:3667,3666 メール:nososi@pref.aichi.lg.jp
メール:nogyo-innovation@pref.aichi.lg.jp