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【あいち農業イノベーションプロジェクト】「牛の発情を鳴き声とカメラ画像から検知し、通知するシステムの開発」に係る特許出願について
愛知県では、STATION Aiプロジェクトの一環として、愛知県農業総合試験場(長久手市、以下「農総試」という。)とスタートアップ等が連携して新しい農業イノベーションの創出を目指す「あいち農業イノベーションプロジェクト」を2021年度から実施しています。
この度、農総試、愛知県公立大学法人愛知県立大学情報科学部情報科学科入部百合絵(いりべゆりえ)研究室(以下、「愛知県立大学」という。)及びファーマーズサポート株式会社(鹿児島県鹿児島市)の共同研究により、牛の発情をカメラから取得した音声により検知し、通知するシステム(飼育対象牛の個体識別方法および個体識別装置ならびに管理システム)を開発し、共同で特許出願しましたのでお知らせします(特願2025-060150)。これにより、牛の状態を省力的に把握可能となることが期待されます。
1 開発の背景
牛乳の生産には乳牛の出産が不可欠であり、肉用牛経営においても牛肉を生産するには子牛が必要です。そのため、牛の「発情を見つけること」が非常に重要な作業となっています。
一方で、近年では経営の大規模化により多数の牛を省力的にモニタリングする技術が必要とされています。現在普及しているモニタリング技術は、牛を捕まえて計測機器を取り付ける必要があるため、農家の労力を要し、牛にとっても機器がストレスの原因になるなど、双方に負担がありました。
この問題に対応するため、農総試では、音声言語の情報分析技術を持つ愛知県立大学との共同研究により、2021年度に「牛の鳴き声により発情を検知する技術」を開発しました。しかし、本技術をモニタリングに活用するためには、発情時に鳴きにくい牛もいることが実用上の課題となっていました。
2 これまでの研究成果
あいち農業イノベーションプロジェクトでは、農業分野におけるICT技術に強みを持つファーマーズサポート株式会社と新たに連携し、同社の「定点カメラを用いた発情発見支援システム『MOOVIE(モービー)』」を鳴き声による個体識別技術と組み合わせ、非接触かつリモート(遠隔)で牛の発情を発見・管理できる技術の実用化を目指しています。
「MOOVIE」には体の模様に特徴がない黒毛和種の個体識別が困難という弱点がありますが、鳴き声を融合することで、幅広い種類の牛にも活用可能なシステムの開発が期待できます。
2022年に「MOOVIE」で使用しているAIカメラを改造し、画像に加えて音声を同時に取得する試作機を作成し、鳴き声のデータ収集と分析を行いました。
これまでの先行研究では鳴き声による検知技術の個体識別精度は76.7%でしたが、牛の鳴き声と牛舎内の環境音を自動的に区別できるようにするなど、分析手法を改良したことで、鳴き声のみでの精度が92.4%まで向上しました。
この成果により、鳴き声でどの牛が発情したのかを高精度に、リモートで、かつ簡易に検出できるようになり、実用化に向けて大きく進展しました。
3 技術の概要
人に使われている生体認証技術のように、鳴き声で牛の個体識別ができることに加え、「その牛がどんな状態か」も把握できることが大きな特徴です(別紙参照)。
1台の集音装置により非接触で複数の牛を管理できるため、1頭ずつ牛を捕まえて器具や機材を取り付ける必要がなく、農家の負担や農作業事故発生リスクの軽減にもつながります。また、牛に機器を装着する必要がないことは、アニマルウェルフェア※にものっとっています。
※ 動物の健康と福祉を重視する考え方のこと。
4 今後の展望
現在は、鳴き声に加えて、AIカメラの画像データをクラウド経由で融合・解析することにより、牛の状態を更に高精度で、かつリアルタイムに把握可能な実用機を開発中です。発情時に鳴きにくい牛についても、画像データを活用することで識別精度の向上が可能となります。
また、本研究を発情だけでなく、「病気の早期発見」にも活用できるよう、子牛の飼育区域に子牛の咳のデータを集めるための試作機を設置しました。更に研究を進め、農家がいつでもどこでも牛の状態を高精度に管理できるスマート畜産システムの社会実装を目指していきます。
【参考】あいち農業イノベーションプロジェクトについて
愛知県では、農総試や大学が有する技術、フィールド、ノウハウとスタートアップ等の新しいアイデアや技術を活用した共同研究体制の強化を図り、新しい農業イノベーションを創出するために「あいち農業イノベーションプロジェクト」を2021年度から進めています。
現在、2022年度に選定したSU等と農総試が共同で18課題の「研究開発型」のイノベーション創出に取り組んでいます。
また、2024年度からは、新たな取組として、県の普及指導員がスタートアップ等と産地を結び、現場の「ほ場」で既存技術の応用や機器の改良、アプリの開発などにより、課題解決のために必要な新技術の迅速な導入を目指す「現場フィールド活用型」のイノベーション創出に取り組んでいます(2024年11月19日発表済み。)。
6つのテーマごとの共同研究開発の概要 [PDFファイル/253KB]
あいち農業イノベーションプロジェクト!(YouTubeリンク)
ファーマーズサポート株式会社について
所在地:鹿児島県鹿児島市武1-2-10 JR鹿児島中央ビル4F リージャス内
設立:2017年9月
従業員数:5名
代表取締役:春日良一(かすがりょういち)
事業内容等:
・畜産をはじめとした一次産業向けの、ICT・人工知能などを活用したシステムの研究開発ならびに提供
・養牛向けカメラとAIを活用したスマート畜産システム「MOOVIE(モービー)」の開発・提供
愛知県立大学情報科学部情報科学科 入部百合絵研究室について
所在地:愛知県長久手市茨ケ廻間1522番3
教員:教授 入部百合絵
所属学生数:6名
研究内容等:
・音声言語、顔表情、身振り手振りなどのマルチモーダル情報、および生体信号(主に脳波信号)を用いた、人‐システム間の円滑な対話システムの開発
・上記の多様な情報をバイオマーカ―とした人間の状態推定技術の開発
このページに関する問合せ先
(研究成果及び技術の概要に関すること)
愛知県農業総合試験場
畜産研究部養牛研究室
担当:小島、神谷、兼子
電話:0561-41-9519(ダイヤルイン)
メール:nososi@pref.aichi.lg.jp
(あいち農業イノベーションプロジェクトに関すること)
愛知県農業水産局農政部農業経営課農業イノベーション推進室
イノベーション推進グループ
担当:井手、久米
電話:052-954-6413
内線:3662、3673
メール:nogyo_innovation@pref.aichi.lg.jp