22 太古のロマン。豊川と中央構造線のお話し
西南日本を約1,000kmにわたって横断する「中央構造線」。
「中央構造線」は、まさにここ東三河地域の直下を走っています。
三重県伊勢市方面から延びた「中央構造線」は、伊勢湾を渡って渥美半島の先端をかすめた後、三河湾を経由して豊橋市前芝付近で上陸します。
そして、そのまま豊川・宇連川沿いを北東に向かい、新城市大野付近で別れて山中を進みながら、静岡県浜松市方面へと続いていきます。
さてさて、私にとっては、たまに耳にすることはあるものの、それほど馴染み深いとは言えない「中央構造線」でしたが、少し調べてみると、東三河地域の地質の成り立ちにおいて、切っては切れないものであることが分かりました。
そこで、今回もにわか知識で恐縮ですが、地質的な観点から豊川と東三河地域を見て行きたいと思います。
まず「中央構造線」とは何かというところから始めたいと思います。
「中央構造線」と聞くと、漠然とふたつの大陸プレートの境界かなと思ってしまいがちですが、実は約1億4,500万年という気の遠くなるような大昔、日本列島がまだアジア大陸の一部であった頃の断層だということです。
その後に日本海が拡大して日本列島がアジア大陸から離れ、概ね現在の形状になったのが約2,000万年前ということなので、「中央構造線」の歴史がいかに古いかがわかります。
その特徴は、「中央構造線」の北側(内帯)と南側(外帯)とで地層が異なるという点で、具体的には、領家変成帯(りょうけへんせいたい)と三波川変成帯(さんばがわへんせいたい)という、岩石の変成環境(地中での温度や圧力)の違いにより、本来隣り合うはずのない地層が「中央構造線」を挟んで隣接して存在していることです。
実際に、「中央構造線」の北側で、領家変成帯に属する豊川本流の寒狭川頭首工付近では、高温低圧の環境下で変成される片麻岩が見られる一方、「中央構造線」の南側にあって三波川変成帯に属する桜淵公園では、低温高圧の環境下で変成される緑色片岩を見ることができます。
寒狭川頭首工付近で見られる片麻岩の岩石
桜淵公園にある緑色片岩の笠岩
片麻岩と緑色片岩
変成環境が異なるため、相当程度の距離を隔てて存在していたはずのふたつの変成帯が、「中央構造線」の活発な断層活動によって、長い時間をかけてお互いに接することとなったのは、地球規模の壮大なお話しです。
そうした地層のダイナミズムの一端を豊川に架かる長篠大橋付近の露頭(ろとう)で観察することができます。この写真で上盤にあるのは領家変成帯の領家花崗岩源の断層岩で、下盤は三波川変成帯の緑色片岩・黒色片岩だということです。
長篠露頭
一方で、新城市北東部の巣山地区付近には、「中央構造線」の活発な断層活動によって領家変成帯が三波川変成帯の方にせり出すとともに、その他の様々な地層が複雑に入り混じる中央構造線擾乱帯(じょうらんたい)とよばれるエリアがあります。
「08 深山幽谷。阿寺の七滝と安倍晴明のお話し」でご紹介した阿寺の七滝の子抱石は、「巣山礫岩層」という形成年代不明の堆積層の礫岩ですが、「中央構造線」の断層活動によって分断された後、再び固結した「くいちがい石」も見られます。
巣山礫岩層
さて今度は、「中央構造線」に加えて、奥三河地域の地質に大きな影響を与えたものについてのお話しです。
約1,800万年前、日本海が形成され日本列島がアジア大陸から切り離れた時代、多くの地域が海に沈み、奥三河地域も海の底となりました。この時代に海底で生じた砂岩や泥岩の堆積層からは、現在でも貝類などの化石を採集することができるそうです。
その後、約1,500万年前頃になると「中央構造線」付近で火山活動が発生します。
奥三河地域でも、宇連ダムのある鳳来湖あたりに存在したとされ、富士山にも比類するスケールであったと推測される設楽火山が活発に活動します。
設楽火山は大規模な噴火を繰り返して火山灰や溶岩をまき散らし、地下の大量のマグマも地上へ噴出したため、山体が陥没してカルデラとなったと考えられています。この時に残った設楽火山の残骸が鳳来寺山や明神山ではないかということです。
鳳来湖周辺の山々
特に鳳来寺山は、その象徴である鏡岩を含め、ガラス質の火山岩で断面に松脂(まつやに)のような光沢を持つ松脂岩(しょうしがん)が多く分布する全国的にも珍しい地質となっています。「12 「道の駅したら」がオープン。田口線木製車両が再びにぎわいを運ぶお話し(その4)」でご紹介した田口線三河大石駅跡周辺に鎮座する大石も設楽火山でできた松脂岩です。
なお、奥三河地域が海の底にあった時代の堆積層と設楽火山の活動により生じた地層は、双方合わせて設楽層群(したらそうぐん)とよばれています。
鳳来寺山の鏡岩
松脂岩(ピッチストーン)
最後になりますが、豊川もその川筋について「中央構造線」の影響を大きく受けています。それは、「中央構造線」の周辺は断層活動により谷筋が形成されやすく、それに沿って水が流れて川となるからです。
なお、豊川と「中央構造線」とが交錯するあたりでは、右岸・左岸で異なる変成帯に属する岩石を観察することもできるそうです。
また、豊川支流の宇連川では、設楽火山が残した痕跡を見ることができます。新城市の湯谷地区にある長さ130mにも及ぶ岩脈(マグマの通り道)馬背岩や板敷川ともよばれる凸凹のない美しい河床は、設楽火山の活動が残してくれた景勝です。
湯谷地区を流れる宇連川
せわしく時間に追われる毎日ですが、たまにはちょっと立ち止まって、私たちの足元にある太古の昔のロマンに耳を傾けてみるのもいいかもしれません。
この記事の作成にあたっては、鳳来寺山自然科学博物館の展示及び「博物館ザッ記」並びに曹洞宗長篠山医王寺住職で同館館長も務められた故横山良哲さんの「美しき大渓谷1億年の旅」を参考にさせていただきました。
なお、鳳来寺山自然科学博物館では、2023年3月31日までの期間、冬の特別展「設楽層群の化石」展が開催されています。
【本日のこぼれ話し】
「中央構造線」上には、高野山や伊勢神宮、豊川稲荷といった有名な神社・仏閣が点在しています。これには、
・「中央構造線」上が地形的に交通の要衝になりやすいから
・「中央構造線」での地震災害を鎮めるため
・「中央構造線」で起きた地震災害の被災者の鎮魂のため など
様々な説があるようです。
そこにもうひとつ、「中央構造線」が強力なパワースポットだからという説もあります。
どの説をとるかはその人次第ですが、最近聞いた噂では、「中央構造線」上にある売り場で宝くじを買うと当選しやすいらしいですよ。。。