本文
平成26年度外部評価結果
平成26年度愛知県農業総合試験場外部評価会議の開催状況
1 日時
2 場所
3 評価委員(敬称略)
所属・職名 | 氏名 |
---|---|
名古屋大学大学院生命農学研究科 教授 | 山内 章(座長) |
公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会 消費生活アドバイザー | 柴田 智子 |
東海漬物株式会社漬物機能研究所 所長 | 吉澤 一幸 |
中日新聞事業局社会事業部 部長 | 尾久 充弘 |
4 評価内容
5 報告
平成26年度農業総合試験場外部評価結果票
評価結果の総括
今回の評価対象になった研究の主要な課題は育種であった。近年の育種技術の著しい進歩によって、水稲を始めとする作物の品種育成に要する時間が少しずつ短縮されているとは言え、依然として、品種育成は息の長い仕事であることに変わりはない。また品種の特性は遺伝子だけで決まるわけではなく、栽培される環境条件や、栽培技術によってその特性の発現は大きな影響を受ける。その評価にも、多くの労力と時間を要する。したがって、心血注いで育成した品種が市場に登場した時には、もう消費者に受け入れられなくなってしまったという例は少なくない。めまぐるしく変化する消費者動向や社会情勢に機敏に対応して育種目標を設定することの重要性は十分理解しつつも、育種目標の設定には、時間軸の視点も極めて重要である。
そのような点から言えば、どこまでを公的機関である農総試が担当し、品種育成を含む研究をすべきかについては種々議論があるにせよ、今回の評価対象になった品種育成研究は、いずれも成功した、あるいはしつつある例であると言える。その要因としては、市場や社会の動向を分析した上での育種目標を設定するという研究スタイル、すなわち多様なエンドユーザーを常に意識する総合的な視点が定着してきたことや、上述の育種技術の進歩によるところが大きく、それに貢献してきた、研究者や関係者の方々に敬意を表したい。今回の発表資料の中には、そのような予算、あるいは人員に関する情報が含まれていなかったので、十分には評価できないが、相当に厳しい資源の中で研究を推進されてきたことと推察される。
育種技術の進歩には、多くの基礎研究の成果が集積している。また育種目標の設定には、消費者の動向に加え、環境条件や、栽培技術との最適組み合わせが密接に関係するので、そのための基礎研究を地道に、不断に発展させて成果を挙げていただきたい。
研究テーマ 水稲高温耐性品種の開発
これまでの成果
評価 A (A~Dの4段階評価)
研究テーマの設定について
近年、地球温暖化により愛知県でも酷暑の夏が続いており、コシヒカリの高温耐性を高めた品種開発は、県内農家の経済性・愛知県産米の品質を高める観点から重要なテーマである。課題が具体的で、研究成果も客観的に把握しやすいものであり、妥当なテーマといえる。
研究の進捗状況について
4年間の平均で、白未熟粒の発生割合が27%から9%へ改善され育種目標に関しては十分な成果を得られたと判断できる。このように、1等米比率の向上を目指した研究成果は数値で評価できるので、説得力がある。結果を見れば、「愛知123号」の高温耐性は明らかで、かつ収量、外観品質、食味もコシヒカリ並みであれば、農家、実需者の期待に応えるものであり、奨励品種としての普及を期待したい。
さらにこの品種が様々な場面で活用されることも期待したい。たとえば、中食としての利用も視野に入れていることは、最近の消費の動向を踏まえていると判断され、評価される。どのような形態で食されることを想定した中食用品種を目指すのか、また価格的に事業者と折り合えるかなどが今後の課題である。
今後の方向性
評価 B (A~Dの4段階評価)
水稲品種開発の今後の方向性、普及方法について
長期的な視点から、地球温暖化に対応した高温耐性品種育成は、公的研究機関の重要な使命であると判断される。一方で、消費の動向、食品の選択には、消費者のライフスタイルとの関連が強いことを考えると、農総試の育種目標の設定にライフスタイル調査から得られる情報を活かしていく方向も考えられてよい。自ら行うのか、他の機関と共同で行うのかについては、人員・予算とも相談であろうことは推察されるが、検討すべき課題の一つとして挙げておきたい。
炊いた白米以外の多様な食べ方の提案が、いくつかの外食・中食などで見受けられ、その米は県外・国外から直達し、消費者の反応もおおむね良い。また、米の食味や香りに対する要求も多様性を帯びてきている。これらの要因も視野に入れつつ、品種育成やその普及方法を検討していきたい。県内で消費される米の7割が他県米という状況ではあるが、大粒で炊飯適正の高い業務用米としての特性を生かせば、県産米を全国へ流通させることができる。「愛知123号」を中食用途米として普及、産地化を図り、実需者の評価を定着させたいところである。
一方、中食用に絞り込んだ場合、価格優位性を求められることになり、自らのハードルを上げてしまう結果になることも懸念される。そこで、他県産米を凌駕する高品質品種の育成も、愛知県産米の目指すべきゴールであると考える。
研究テーマ カットやスライスに適した省力型トマト品種の開発
これまでの成果
評価 A (A~Dの4段階評価)
研究テーマの設定について
調理方法や用途から品種の特性を明瞭化し、消費、流通のターゲットを強く意識している。かつ生産者にとっては、受粉が不要なため省力化が可能である、というように消費者、生産者双方のニーズにも応えており、高く評価できる。県内の重要作物であるトマトの加工に関して未充足ニーズを満たす開発は成功比率が高く、テーマ設定には非常に時機を得ている。
研究の成果または進捗状況について
コンビニが扱うサンドイッチなど、中食用に絞り込んで、開発当初から実需者の聞き取りを行い、問題点に対応した開発を行うことによって、目指す品種の姿が明確で分かりやすく、「出口を見据えた品種開発」として、スライス適性を有した品種開発に成功したと評価できる。具体的には、果汁(ゼリー部)の漏出が少なく、それを期待する購買層には歓迎されると思われる。相対的に果肉部が多くなり、ジューシーさが失われたようにも思われるが、現在流通しているトマトとの差別化に開発の重きがあり、問題にはならないと考えられる。同時に生産農家の労働省力化、経費節減に取り組んだ点も高く評価される。研究から普及・宣伝までの一貫した流れを強く意識し、積極的に取り組む姿勢がうかがえる。
本品種は、慣行品種と比較し1果重や子室数・果肉率・果汁の漏出率・糖度などが異なるとされているが、消費者にとってみると、栄養価・うま味・総合的な食味においてもこれまでの品種と比べて差があるのか知りたいところである。また、外皮の色は、「赤」とのことだが、一般人の目からするとオレンジ色が強く感じられ、小売店で他の赤みの強い品種と並んだ時、外観上消費者からどのような評価になるのか気になるところではある。さらに、野菜や果物、鶏卵などの農産物を含め惣菜等の中食においても小さ目のサイズが消費者の支持を受けているが、本品種が「大玉」を前提としている理由を知りたい。
今後の方向性
評価 A (A~Dの4段階評価)
トマト品種開発の今後の方向性、普及方法について
本品種は、「外食・中食の事業者向け」「小売店での一般消費者向け」の両方の販路を想定しているとのことである。地元系コンビニのサークルKは地産地消をうたい、地域の優れた農産品を商品に生かしている。「試交10-2」を売り込みたい。
その際に、事業者は本品種の特性を承知して調達するであろうが、コンビニ等一般の小売店では、消費者がトマトに何を期待するかを考えた時、特性を表示するなどして十分伝えて販売する必要性がある。この表示は原則任意となるため、トマトの名称をあらかじめ工夫して作っておくなど、何か対策があった方がよいと思われる。消費者には、「知っていたから買った」という場合と、「知っていたら買わなかった」という場合がある。購入後の満足のためにも必要な措置と思われる。
さらに、本品種が、生産者、流通・販売等の事業者、消費者といった川上から川下までどのように支持されていくのか検証するためにも、各段階での定期的な調査をすることを望みたい。その検証の中で、農総試の手を離れた本品種が、どのように受容されていくのか追跡できるように思われるし、品種開発について県民へ説明するための大事な素材となると考える。
今後の育種において、これまで蓄積した研究成果を十分に利用し、単為結果性品種、高温耐性品種に絞り込んでDNAマーカーを利用しながら開発を進める方向は重要であると考える。「試交10-2」の開発と同様に社会ニーズに対応した品種育成を進めることを望む。
研究テーマ 耐暑性や低温伸長性・低温開花性に優れたスプレーギク品種の開発
これまでの成果
評価 B (A~Dの4段階評価)
研究テーマの設定について
全国1位のシェアを占めるスプレー菊の品種開発は愛知県にとって生産量維持と経済対策として重要であり、テーマ設定内容も生産者の課題解決に絞り込んでいて目標設定が明確である。耐暑性、低温伸長性、低温開花性など、研究テーマは生産課題に即している。
研究の成果または進捗状況について
開発品種の夏1号、秋1号の開発においては、高温耐性品種X花姿の良い交配、を経てからの選抜過程で、生産性と市場性が評価されている。安定的な出荷が難しい7~9月の酷暑に耐える夏秋系品種、寒さの中でも茎がよく伸びる秋系品種の開発に成功し、安定生産に貢献するものである。
競合品となる海外輸入品に対しての差別化戦略が今後の方向に盛り込まれているが、高付加価値商品として競合対象の絞り込みを明確にした方が普及活動の連動性が高まると考える。
今後の方向性
評価 B (A~Dの4段階評価)
スプレーギク品種開発の今後の方向性、普及方法について
育種目標を重点化し、効率的に進める方法を採用している点を評価したい。
使用用途の拡大を目標に品種育成を進めるとともに、普及上で問題となる輸入品花卉の差別化を図りたい。栽培技術の進歩、輸送方法の進歩により輸入品比率が高まった場合、愛知県産スプレー菊は、花弁の角度が美しく保たれ、優しい色合いを持つ優良品種として、価格が高めでも「愛知ブランド」として輸入品とは一線を画すブランドに育っていることを期待したい。また、海外、とくにアジアへの輸出にも一層力を入れたい。
一方、国内に目を移すと、全国のスプレーギクの出荷本数は堅調であるという。その中で本県のスプレーギクは第1位を占めているということを県民の多くは知っているのだろうか。どのような世代が、どのような場面で、どのような飾り方をしているのか、スプレーギクを必要とする時や困ると感じるところはどういうところかなど、一般消費者のスプレーギクとの向き合い方を知りたいところであり、このことが今後の品種開発の方向性や普及方法を考えた時、必要なことだと思われる。
「県内の生産者や花卉市場から高い評価を得ている」とのことだが、事業者にとって好ましいこと、消費者にとって好ましいことなど、高い評価の内容について具体的に知りたいところである。
フラワーアレンジメントなどを手掛けるデザイナーなどが提案する花々のセットは、斬新なデザイン性もあって消費者から支持があると聞く。デザイン性の高い切り口で花を提案する人たちに、スプレーギクに期待することについてヒアリングするなどあってもよいと思われる。今回の新品種の色合いの美しさを生かす、キクのイメージを一新させるような提案を聞くことができるかもしれない。
研究テーマ 大果で良食味な果皮色等に特徴のあるイチジクオリジナル品種の開発
これまでの成果
評価 B (A~Dの4段階評価)
研究テーマの設定について
愛知県のイチジク生産量は全国1位であり、他県で育種の取り組みが無いことから、品種育成事業を研究テーマとして設定したことは重要である。一方、産地の活性化、果実の高付加価値化を目標としているが、さらに現状をくわしく検証すべきである。
「桝井ドーフィン」「蓬莱柿」と差別化できる開発品種の優位性(鮮やかな果皮色、優れた食味)の設定が一般的で、やや弱く感じる。果実の高付加価値化は品種以外にもマーケティング的な要素も多分に必要と考える。
研究の成果または進捗状況について
2011年から始まった研究であり、3年間で交配に成功し、さらに新品種の大果を得るために10年以上の期間を費やすことになるので、長期の取り組みは、試験場しかできない役割と考える。また、イチジクの育種は民間企業では行われていないだけに、イチジク生産県である愛知農総試で取り組む意義がある。
今後の方向性
評価 B (A~Dの4段階評価)
イチジク品種開発の今後の方向性、普及方法について
イチジクの育種戦略に関わって、社会情勢、消費者のニーズに関するさらに深い分析が必要と思う。育種事業が始まって間もない現段階においては、当面は、「桝井ドーフィン」「蓬莱柿」の二大品種より優れた品種の育成を目指すというより、品種の多様性がもたらす消費量の拡大が目的で、それがイチジク生産地である愛知の務めであると理解される。研究テーマは漠然としたものがあるが、特定の方向性に縛られない間口の広い研究が、交配技術の知見蓄積に役立つものと期待する。
普及方法についてもイチジク需要を高める施策の発展が必要だし、また有効な販売戦略により、新品種開発の方向性に変化が生まれると考えるので、普及を考えた販売戦略が必要である。
イチジクの生食だけを中心に考えると普及が限られるように思われる。乾燥(ドライ)や半乾燥など加工したイチジクは、洋菓子店などで生菓子や焼き菓子などに用いられて時期になるとよく目にすることから、生食用のイチジクには興味のない人も、関心を持つようになる可能性はある。ただ、本県の、全国での位置(生産量1位)は県民に十分知られているとは言い難い。新品種の開発と同時に、県民に知られるような広報、県民のイチジクへの共感の醸成も必要である。
研究テーマ 髙能力で斉一性の高い種豚の開発
これまでの成果
評価 A (A~Dの4段階評価)
研究テーマの設定について
全国に先駆けて豚の系統造成試験に取り組み、これまで3品種6系統の造成を行ってきた実績がある。1970年以降継続してきており、系統豚供給体制がすでに確立している愛知県の強みを活かす開発として大ヨークシャー種の新たな系統豚育種はテーマ設定として高く評価できる。民間による育種は困難なだけに、愛知農総試の研究テーマとしての意義がある。
研究の成果または進捗状況について
ブランド豚を目指しているのではなく、大衆的な日常づかいできる豚肉を目指すという立場が明確でわかりやすい。県民に良質な三元豚肉を供給するために3品種の系統造成を計画的に行っており、県内農家6割以上に利用されている。研究成果はそのまま肉豚生産体制に直結しており、大いに評価する。
造成中の数値基準として総産子数、離乳時子豚総体重を取り上げ、管理基準を数値化することで造成目標および達成度の明確化が図られている。
今後の方向性
評価 A (A~Dの4段階評価)
系統豚開発の今後の方向性、普及方法について
愛知における系統豚の利用体制では、開発された豚を県畜産総合センターが維持し、愛知経済連が増殖、一代雑種を生産、同経済連・県養豚農協が養豚農家へ供給するという仕組みができており、「みかわポーク」などの銘柄豚が消費者から支持されている。このように、「みかわポーク」をはじめ多くの県内の銘柄豚、県内養豚業者に系統豚が利用されているが、県民の多くはその様なことを知らない。小売店の店頭では、義務表示である原産地を見て好みで選択できるようにはなってはいるが、他県産銘柄豚や値ごろ感のある他地域の豚肉が多種類並んでいる中で、「愛知県産豚肉」ということに加えて、愛知県の系統豚を利用して生産されていることを十分消費者に伝えることによって、消費者の選択の上で加点になり、また、県が行っている系統豚開発について県民の理解を深めることにもつながる可能性がある。
今後も従来通りの手法に最新技術を活用して系統造成をお願いしたい。また普及に関しては、今までの消費者・農家が求める低価格、安全、安定供給を維持しながら、高品質化の育種、造成に期待したい。
問合せ先
愛知県農業総合試験場
研究戦略部企画調整室
電話: 0561-41-8963(ダイヤルイン)
E-mail: nososi@pref.aichi.lg.jp