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平成28年度外部評価結果
平成28年度愛知県農業総合試験場外部評価会議の開催状況
1 日時
平成28年11月30日(水曜日) 午後2時15分から午後5時まで
2 場所
農業総合試験場 中央研究棟 第2会議室
3 評価委員(敬称略)
所属・職名 | 氏名 |
---|---|
名古屋大学大学院生命農学研究科 教授 | 山内 章(座長) |
中日新聞事業局社会事業部 部長 | 菊永 博 |
公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 消費生活アドバイザー | 柴田 智子 |
東海漬物株式会社漬物機能研究所 所長 | 吉澤 一幸 |
4 評価内容
「愛知県農林水産業の試験研究基本計画2020」に基づき実施した試験研究(研究課題)に関する評価について
5 報告
会議座長の山内章氏から次とおり評価結果票が提出されました。
平成28年度農業総合試験場外部評価結果票
評価結果の総括
今回の外部評価会議では、あらたに設定された本県の「試験研究基本計画2020」における4つの重点研究目標からそれぞれ選ばれた研究テーマが評価の対象となった。これらの育種や栽培・肥育研究は、成果が出るまでに長い時間を要し、それゆえ長期的な戦略が重要であるので、いずれの研究においても、研究を継続することによってさらなる発展が期待される。現時点では、研究を始めて時間が経っていないにもかかわらず、限られた予算と人員の中で、着実な成果を挙げてきたと言える。
今回評価対象となった課題に共通して、あらためて「愛知」農業の強さを再認識することとなった。
「きぬあかり」では、グルテン含量や生地物性の優位性に加え、条件さえ揃えば、北海道のコムギ収量さえ凌駕する場合があるなど、その多収性も注目される。その「条件」を解明すべく、この品種は、作物研究の最も基盤的課題である、G(品種)×E(環境条件)×M(栽培技術)相互作用解析に関する格好の研究課題であると言えよう。そのためには、生育や環境要因調査の観測数を増大させることが鍵で、従来型の方法による着実なデータの蓄積に加え、後述するように、目覚ましく進歩する技術を活用して、それらの調査のための画期的な手法の革新が期待される。そのような成果は、生産現場での経営にも活かし得るはずである。
さらに、名古屋コーチンの肉と卵のおいしさを引き出す技術開発の鍵は、「おいしさ」を科学的に裏付けるデータの蓄積であることがあらためて浮き彫りになったと言える。農総試が果たすことが期待されている役割そのものである。キク矮化病抵抗性品種の育成についても同様である。さらにこの研究は、抵抗性のメカニズムが明らかにされていないことから、基礎研究としても極めて重要である。同様に、花き、果物、家畜で、愛知が誇る品目は数多くあり、これらの育種や栽培(肥育)研究は、今までにも増して重要になってくると言えよう。ジネンジョの研究では、省力化のための技術の完成度を上げるためにさらに継続的な栽培試験の実施が必要であるとともに、このイモ(担根体)の発育に対する土壌条件の影響については、おそらくこれまでほとんど研究蓄積がないと考えられ、極めて興味のある課題となっている。
このように、愛知の農業を強くし、また、他県産のものとの差別化を目指すことは、経営上、最優先課題になる。一方、上で指摘したように、またあとでも議論するように、これらは基礎研究の課題としても非常に重要なものを含んでいる場合が多い。今度の新たな基本計画を発展させていく中で、そのような視点も考慮されることを期待したい。
(研究テーマ) 小麦品種「きぬあかり」の生育に応じた施肥法の開発
研究テーマの設定について
県内作付面積80%を占め、さらに普及面積増加を続ける主要品種「きぬあかり」の収量、品質向上を目指す本研究は意義が大きい。本研究によって、年次や地域により大きく変動する収量・品質を高位安定化させるための、生育に応じた窒素追肥技術を確立することが期待できる。
研究の取り組み状況について
追肥の施用量ならびに時期の特定について概ね目標を達成できている。茎立期の生育調査から得られるパラメーターから窒素吸収量を推定する式を導き出したことは本技術の確立に係わる大きな成果である。今後は、この推定式の精度を上げるとともに、NDVIセンサー値との関連性の解明が期待される。
今後の計画について
本施肥技術が確立され、きぬあかりの収量・品質の高位安定化に貢献するとともに、本品種から生まれる食品が県民の目に触れる機会がさらに増えることを期待したい。
この栽培研究の過程で、ドローンを使用したNDVIによる測定、あるいは他の画像処理等のリモートセンシング技術を組み合わせ、環境・気象条件と作物生育との関係性の迅速な解析に基づいた、精確かつ低コストの画期的な作物生育診断技術の開発を目指してほしい。
総合評価:A(A~Dの4段階評価)
(研究テーマ) 名古屋コーチン鶏卵肉の特性の解明と品質向上に繋がる飼養管理技術の開発
研究テーマの設定について
名古屋コーチンは愛知県を代表するブランド鶏であり、飼養管理技術の推進は他県の食用鶏との差別化に貢献する。鶏肉・鶏卵の味や風味についての特性は不明な点が多く、官能評価だけではなく、裏付けとなる科学的なデータをもとに解明することが、名古屋コーチンのブランド強化にも繋がり、農総試の役割としてまさに求められる重要な研究テーマである。
テーマ設定時に消費者の受容性調査等の事前調査も取り組まれることを希望する。
研究の取り組み状況について
農総試が肉・卵の旨みや風味等について科学的なデータを整えて、事業者がそれを用いて経営判断に役立てようとする趣旨は妥当である。味覚、嗜好性は人によって異なるため、旨味成分を、一般性を持たせる形で提示することは難しいと考えられるが、鶏肉品質に及ぼす肥育期間、飼料用米給与期間の影響と鶏卵の気泡性に関する特性、鶏肉の脂肪酸組成、テクスチャの特性解明を官能評価を交えて明らかにしたことなど、有用な成果を挙げていると評価される。
今後の計画について
各地域発の様々な地鶏が商品として存在する中で、県内の名古屋コーチンが科学的なデータに基づいた一定の基準によって肉卵ともに消費者に提供されるようになることはたいへんすばらしい。これと同時に、「名古屋コーチンらしさ」について農総試からの研究成果に基づいた提示、提案もあってよいのではないか。
こうして、名古屋コーチンのブランド強化と生産拡大を通じて、農家の経営安定を図るべく、費用対効果の検証と、より実用的な技術への不断の改善を目指し、研究を進めていただきたい。とくに、これらの研究成果をもとにして、飼養管理方法の統一が図られ、品質の均一化によるブランド鶏育成が一層進展することが期待されるので、今後の重要課題として取り組んでほしい。
総合評価:A(A~Dの4段階評価)
(研究テーマ) ジネンジョの省力的高品質栽培法の開発
研究テーマの設定について
中山間地のジネンジョ生産農家の活性化と、収益性を高める研究で、労働負担の軽減にもつながる効果が期待され、妥当と判断される。
一方、このジネンジョ栽培が商業ベースで成立しているのか、状況の確認は必要である。
研究の取り組み状況について
ジネンジョの生育と降水量の関係を明らかにし、またクレバーパイプの栽培土壌の特性についても検証したことは、今後の研究課題を明確にできた点で評価できる。「波板」を利用した3倍密植栽培に続き、クレバーパイプの土詰めと中間マルチを統合する手法の有効性を評価する試験は実施したが、今後はそれが品質・収量に与える影響に関する評価の実施が期待される。
今後の計画について
今回の試行手法では省力化は困難であったが、中間マルチ、ラップ被覆に代わる斬新なアイデアの開発で、省力化と両立した、高品質、安定生産のための土壌水分管理技術が確立され、中山間地の商業振興に役立つことを期待したい。
また、本研究で示された試行錯誤の過程は、ジネンジョという作物の不思議さと難しさを感じさせ、県民が農業への関心を深めるきっかけにもなりそうである。
総合評価:B(A~Dの4段階評価)
(研究テーマ) キク矮化病抵抗性を有するスプレーギク新品種の開発
研究テーマの設定について
全国的にも研究者が少ない中で、全国一の花き産地である愛知県が、防除薬剤が存在しない矮化病耐性品種の育成に取り組む本研究は、商品価値を高めるとともに、生産の安定化に繋がり、産地振興にとって非常に意義ある研究である。
研究の取り組み状況について
矮化のメカニズムが解明されておらず、防除薬剤の開発も進んでいない中で、耐病性系統と商品性の高い品種との交配による新品種育成への取り組みは、初年度の成果としては概ね目標は到達できている。
耐病性を兼ね備えたスプレーギクの新品種開発は長い年月を要するので、共同研究先との密接な連携による役割分担によって進めていくことが有効であると考えられる。その点から、実需者との意見交換を重ねながら実施している本研究の方法は効果的と判断する。
今後の計画について
強い抵抗性と高い商品性を備えた品種の完成を期待する。一次選抜系統が、実際の圃場において抵抗性を発揮するか、について調査結果も示していただきたい。
新品種開発と並行して、選抜過程の自動化等の省力化についても研究開発が必要ではないか?
この新品種開発という膨大な仕事に関し、愛知県がスプレーギクの生産で全国1位ということが県民に広く認知されるよう、広報部門と連携し、強く情報発信することも、本研究の後押しになると思われる。
総合評価:A(A~Dの4段階評価)
問合せ先
愛知県農業総合試験場
研究戦略部企画調整室
電話: 0561-41-8963(ダイヤルイン)
E-mail: nososi@pref.aichi.lg.jp