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東三河農業研究所 花き研究室
東三河農業研究所 花き研究室の研究内容を紹介します
品種の開発
夏秋系品種の開発
近年は夏の暑さが厳しく、産地では開花の遅れや切り花品質の低下が問題となっています。そこで、高温期でも開花が安定して早く、花や草姿も美しい夏秋系輪ギクおよびスプレーギクの品種開発に取り組んでいます。
これまでに、輪ギクでは愛知県花き温室園芸組合連合会と共同で「夏のきらめき」、「なつき愛」(登録商標「夏のあゆみ」)を開発しました。スプレーギクでは全国農業協同組合連合会と共同で「スプレーアイチ夏1号」(流通名「あいむリゾート」)を開発しました。
「夏のきらめき」
(登録番号第20782号)
「なつき愛」
(登録番号第21349号)
「スプレーアイチ夏1号」
(登録番号第24164号)
秋系品種の開発
近年は燃油高騰による冬季の生産コスト増加が問題となっています。そこで、低温期でも茎の伸長性が良く、開花が早く、花や草姿も美しい秋系輪ギクおよびスプレーギクの品種開発に取り組んでいます。
スプレーギクでは、ピンク色の秋系品種「スプレー愛知秋1号」を開発しました。この品種は、比較的暑い6月や10月にも花びらがピンク色を保ち、茎の伸長性が良く、花びらが斜め上を向くなど花の形も美しいという特長を備えています。
「スプレーアイチ秋1号」
(品種番号第25468号)
新規需要に対応できる品種の開発
産地からは、キクの新しい需要を開拓できるような品種が求められています。そこで、珍しい形の花びらをつけるなど新規性の高い品種の開発に取り組んでいます。
先端に複数の突起があり、「かがり弁」と呼ばれる珍しい形の花びらをつける「かがり弁白」「かがり弁赤紫」「かがり弁黄」を開発しました。愛知県と国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下、量研という)との共同開発品種です。(華麗な花びら「かがり弁」の輪ぎく新品種を開発、PDFファイル:116KB)
「かがり弁白」
「かがり弁赤紫」
「かがり弁黄」
(2018年2月23日品種登録出願公表)
この3品種は、輪ギク品種を進める中で出現した「かがり弁」をつける系統に、イオンビーム照射や交配を行い、得られた多数の系統の中から、花びらの色や形が美しい系統を選抜して作出したものです。農業総合試験場環境基盤研究部生物工学研究室及び東三河農業研究所花き研究室、量研高崎量子応用研究所が開発を担当しました。花びらが華やかな雰囲気を醸し出すことから、祝い事やフラワーアレンジメントなど様々な用途への利用が期待できます。
ウェディングブーケへの使用例
(写真提供:JAひまわり菊部会)
2017年12月に名古屋市で開催されたフィギュアスケートグランプリファイナルでは、入賞者に贈呈するヴィクトリーブーケのメイン花材として採用されました。
(ブーケ製作及び写真提供:名古屋生花小売商業協同組合)
「かがり弁白」は、ジャパンフラワーセレクション2018-2019切花部門において、ベスト・フラワー(優秀賞)、ブリーディング特別賞及びニュースタイル特別賞を受賞しました。
当研究室では、このほかに病気に強い品種や夏秋系ポンポン咲き品種の開発にも取り組んでいます。
栽培技術の改善
当研究室では、キクの電照栽培で利用可能なLED光源の開発とその利用法の確立に取り組み、利用マニュアルを作成しました。
・「LEDを利用したキクの開花調節マニュアル」 (PDFファイル/775KB)
また、愛知県育成品種の栽培マニュアルを作成しました。
・「耐暑性に優れた夏秋系黄一輪ギク『夏のきらめき』・『なつき愛』の特性と栽培技術」(PDFファイル/631KB)
・夏に美しい黄色い花が咲くスプレーギク新品種「スプレーアイチ夏1号」の特性と栽培技術(PDFファイル:625KB)
・生育が旺盛で美しいピンク色秋系スプレーギク新品種「スプレーアイチ秋1号」の特性と栽培技術(PDFファイル:449KB)
現在は、冬季におけるキクの品質向上を目的に、効率的なCO2施用方法や省エネランプを用いた補光技術の開発に取り組んでいます。また、愛知県育成品種の高品質・安定生産技術の開発と栽培マニュアルの作成、キクの生理障害等の原因究明と対策技術の開発にも取り組んでいます。
CO2施用による品質向上
冬季の日中におけるハウス内のCO2濃度は外気より低くなることがわかっています。そのため、キクは光合成を活発に行うことができず、ボリュームが不足するなど品質が低下していると考えられます。そこで、人為的にCO2を効率よく施すことで光合成を活発にし、キクの品質を向上させる技術開発に取り組んでいます。
CO2発生装置
省エネランプによる品質向上
冬季における日照量は他の季節に比べ少なくなっています。そのため、光合成に必要な光が不足し、ボリュームが不足するなどキクの品質が低下していると考えられます。そこで、LEDによる補光を日中に行うことで光合成を活発にし、キクの品質を向上させる技術開発に取り組んでいます。また、LEDは単一の波長(色)の光を出すことができます。補光に用いる波長(色)による生育・品質の違いを解明し、キクの品質を向上させる技術開発にも取り組んでいます。
補光試験中の赤色LED
波長(色)の異なるLEDによる補光
輪ギクにおけるムダの少ない短茎多収栽培技術の開発
輪ギクは葬儀の祭壇で多く用いられますが、お墓や仏壇へのお供え用パック花束にも使用されています。従来の輪ギク出荷規格の切り花長は90cmですが、パック花束は50cm程度の長さで販売されるため、切り落としたゴミが大量に発生してしまいます。そこで、出荷時の切り花長を70cmとした短茎規格の切り花を効率よく生産できる栽培技術の開発に取り組んでいます。
従来の出荷規格(左)と短茎規格(右)
愛知県育成品種の高品質・安定生産技術
愛知県育成品種について、親株管理方法、最適栽植密度、植物成長調整剤の効果的な使用方法など高品質・安定生産技術の開発と栽培マニュアルの作成に取り組んでいます。
生理障害等の対策技術
高温期に発生する開花の遅れや品質低下について、植物への散水(葉水)等による対策技術の開発(「頭上散水によるキクの高温対策技術を開発」 [PDFファイル/168KB])に取り組んでいます。
頭上かん水装置による散水