愛知県衛生研究所

ジクロルボス始め有機リン系農薬の検査について

2008年2月13日

有機リン系農薬は、初期のものはパラチオンのように強い殺虫力を持つ一方で、ほ乳動物に対しても毒性を示す欠点がありました。その後、アセフェート、フェニトロチオン、メチダチオンなど毒性が低く、昆虫など標的生物に対して高い選択毒性を有する殺虫剤が開発されています。また、イネいもち病に有効なイプロベンホスやエディフェンホス、レタスすそ枯病など各種土壌病害に有効なトルクロホスメチルなどの殺菌剤、さらにピペロホスなどの除草剤も開発され、その優れた効力と経済性から、現在、用途の広い薬剤となっています。

ジクロルボス始め有機リン系農薬の選択的な検出法としては、炎光光度型検出器付きガスクロマトグラフィー(Gas chromatography with flame photometric detector、GC-FPD)が一般的です。当所では、これに高感度窒素リン検出器(Nitrogen phosphorus detector、NPD)を装着したデュアルカラムGC-NPD/FPD(図1)を作製して日常の農薬検査に用いています。

デュアルカラムGC−NPD/FPD模式図

NPDは窒素およびリン化合物に特異的な感度を持っており、特にリン化合物には感度が高く、また、FPDは、リンやイオウ化合物などを燃焼させ、照射される各元素固有の波長の炎光を光学フィルターで分光し、フォトマルチプライヤーで増幅・感知する検出器です。リン用の光学フィルターを装着したFPDはリン化合物に非常に選択性の高い検出器です。このように含まれる元素によって特異性の異なる2つの検出器をそれぞれ分離パターンの異なる2つのカラムに接続したデュアルカラムGC-NPD/FPDは、有機リン系農薬の検出において威力を発揮します。

最近のFPDおよびNPDは感度が向上してきており、安定した性能を発揮することから、高い分離能力を有し、分離パターンの大きく異なるデュアルカラムGC方式と相まって、分析経験を重ねた検査スタッフであれば、食品によっては得られた2つの測定データ(クロマトグラムと言います)だけで200種類を超える農薬の有無、およその濃度を数分で見極めることも可能です(図2)。

デュアルカラムGC−NPD/FPDによって得られたクロマトグラムの解析手法

当所では、デュアルカラムGC-NPD/FPDだけでなく、ガスクロマトグラフ/質量分析法(Gas chromatograph/mass spectrometry、GC/MS)および液体クロマトグラフ/タンデム質量分析法(Liquid chromatograph/tandem mass spectrometry、LC/MS/MS)を併用して、食品中の有機リン系農薬を確実に検出し、精度の良い検査を行っています。