愛知県衛生研究所

食品等に使用された ホルムアルデヒドについて

2005年7月22日(更新日:2025年12月16日)

ビールのイラスト

2005年7月15日付の中日新聞朝刊に『発がん性ビール』と題した海外記事が掲載され、中国産のビールに「ホルムアルデヒド」が含まれていたと報じられました。

ホルムアルデヒド混入の原因として、ビール製造過程で生ずる沈殿物除去のために、通常ではシリカゲルなどの人体に無害なものを使用するところ、コスト削減目的でホルムアルデヒドを不正に使用していたことによる可能性が指摘されています。

中国の国家品質監督検験検疫総局(現・国家市場監督管理総局)はビール中のホルムアルデヒドについて緊急調査を実施し、中国国内主要8社23製品では0.10〜0.56 mg/L、中国国内その他企業製造の134製品では0.9 mg/L以下、外国製造の輸入ビール64製品では0.10〜0.61 mg/Lのホルムアルデヒドが含有されていたと調査結果を公表しました。また、これらの濃度は当時の中国の国家基準(発酵酒:2 mg/L以下、生活飲料水:0.9 mg/L以下)およびWHOの飲料水ガイドライン(0.9 mg/L以下)の基準両方を満たしており、品質は安全であると併せて発表しました。

ホルムアルデヒドとは

ホルムアルデヒド(化学式:HCHO)は、刺激臭のある無色の気体で、水に溶けやすく、約37%濃度の水溶液は「ホルマリン」として知られています。還元性・縮合性・重合性に富み、フェノール樹脂やメラミン樹脂などの合成樹脂原料、また消毒剤、防腐剤として広く使用されています。

日本では「毒物及び劇物取締法」により、劇物に指定されています(ホルムアルデヒド1%以下を含有するものを除く)。

健康影響と発がん性評価

ホルムアルデヒドは、粘膜や皮膚に触れると刺激・炎症を起こし、近年ではシックハウス症候群の原因としてもよく知られています。また、発がん性があるとされ、国際がん研究機関(IARC)は、2004年にホルムアルデヒドを「グループ1(ヒトに対して発がん性がある)」に分類しています(表1)。

米国環境保護庁(EPA)は2025年に、ホルムアルデヒドは「人の健康に不当なリスクをもたらす」とする評価を公表し、さらなる規制強化を示唆しています。

表1 国際がん研究機関による発がん性分類
分類評価内容
グループ1ヒトに対して発がん性がある
グループ2Aヒトに対しておそらく発がん性がある
グループ2Bヒトに対して発がん性がある可能性がある
グループ3ヒトに対する発がん性について分類できない

*従来、分類は5段階でしたが、2019年1月に「グループ4:おそらく発がん性はない」は廃止され、4段階の分類となりました。

食品中の天然ホルムアルデヒド検出事例

ホルムアルデヒドは天然にも存在する物質であり、食品中から自然に検出されることがあります。 たとえば、干し椎茸タラの血合肉などからは数百μg/g(μg:マイクログラム=100万分の1グラム)程度の濃度で検出されることが報告されています。 しかし、これらの食品から検出される程度の濃度の天然由来のホルムアルデヒドについては、「通常の摂取量では人の健康に影響を及ぼさない」(昭和45年の厚生省通知(環食第429号))とされています。

ホルムアルデヒドを食品添加物や防腐剤として食品に使用することは認められていませんが、このように天然由来で検出され、かつ人の健康をそこなうおそれがない場合は食品衛生法の規制の対象外となっています。

日本国内のホルムアルデヒド事例と対応

2003年には、養殖トラフグの寄生虫(エラムシ)駆除のためにホルマリンが薬浴に使用された事例が明らかとなりました。 トラフグは一時的に出荷自主規制が行われましたが、残留検査によりホルムアルデヒドが検出されなかったことから、個体識別と履歴書を添付して出荷が再開されました。

この事例を契機に、水産物における薬剤使用の管理体制が強化されました。

現在の規制と基準値

まとめ

ホルムアルデヒドは、自然界にも存在する一方で、高濃度では発がん性や毒性の懸念がある物質です。食品中に検出された場合でも、その由来や濃度、摂取量を総合的に評価することが重要です。

今後も、食品の安全性確保のためには、科学的根拠に基づいたリスク評価と適切な情報提供が求められます。

参考資料・リンク