愛知県衛生研究所

食品等に使用されたホルムアルデヒドについて

2005/07/22

ビールのイラスト

平成17年7月15日の中日新聞朝刊に「発がん性ビール」と題した海外記事が掲載されました。発がん性物質の正体はホルムアルデヒドでした。このことについて、複数のインターネット情報を総合しますと、ビール製造過程で沈殿物除去のために、通常ではシリカゲル等の人体に無害のものを使用する代わりにコストが格段に安上がりなホルムアルデヒドを使用していたようです。

本報道を受けて国家質検総局が緊急にビール中のホルムアルデヒド含有量調査を実施し、国内主要8社23種製品では0.10〜0.56mg/L、その他134種製品では0.9mg/L未満、また輸入ビール64種製品では0.10〜0.61mg/Lの濃度であったことから、同総局は飲用に問題はないという安全宣言を発表しました。安全宣言の根拠は、国内法の発酵酒衛生基準2mg/L以下と世界保健機関(WHO)の飲料水中のガイドライン値0.9mg/L以下です。

ホルムアルデヒドについて解説しますと、化学構造はHCHOで示され、還元性・縮合性・重合性等を持った化学反応性に富んだ刺激臭のある無色の気体です。水によく溶け、約37%濃度の水溶液がホルマリンです。日本では毒物及び劇物取締法で劇物に指定されていますが、濃度1%以下のものは除外されます。ホルムアルデヒドの縮合性からフェノール樹脂、メラニン樹脂等の合成樹脂製造原料に、また消毒剤、防腐剤、医薬品等にその用途があります。ホルムアルデヒドは希薄な溶液でも細胞原形質のタンパク質を不可逆的に凝固させ、すべての細胞機能を抑止させる作用があるため、細胞毒として知られています。

人体影響については、当所毒性部のシックハウス症候群の項で詳しく解説してありますので、そちらを参照してください。

ホルムアルデヒドは天然にも存在しますので、人為的な添加を行なっていなくても食品等から検出される場合があります。干し椎茸、たらの血合肉等からは数百μg/gの濃度で検出されますが、これらの食品から検出される程度の濃度のホルムアルデヒドは人の健康に害を及ぼさないとされています(昭和45年10月2日付、環食第429号厚生省環境衛生局長通知)。なお、食品中に存在するホルムアルデヒド量については、昭和54年厚生科学研究食品衛生調査研究報告書(国立衛生試験所食品部(現)国立医薬品食品衛生研究所食品部)に調査結果が詳しく記載されています。

食品等に使用されたホルムアルデヒドに関する最近の日本国内事例としては、平成15年4月に明らかとなった養殖トラフグの寄生虫(エラムシ)駆除の目的で本剤が薬浴使用された事例があります。使用歴のあるトラフグについては、出荷自主規制がとられましたが、9月末に「使用歴のあるトラフグからホルムアルデヒドは検出せず」の残留検査結果をうけて個体識別、履歴書を添付して出荷されました。「食の安全・安心」をゆるがせた事例でした。