愛知県衛生研究所

下痢性貝毒の検査について

2024年3月21日

アサリやホタテガイなどの二枚貝類は、海水中の植物プランクトンを捕食していますが、プランクトンの中には下痢の原因となる毒素(オカダ酸群(図))を持つものがあります。これらを摂食した貝にその毒素が蓄積されると貝が毒化します。人が毒化した貝を食べると腹痛、嘔吐、下痢などの消化器系の食中毒症状を起こす場合があります。症状は数日中に軽快し、後遺症はなくこれまでに死亡例はありません。このような貝毒を「下痢性貝毒」と呼んでいます。

貝毒の有無を貝の外見や味で判断することはできず、その毒素は熱に強いため加熱調理によって毒性を軽減することはできません。そのため、貝毒による健康被害を防ぐには、毒化した貝を市場に流通させないことが重要となります。全国有数のアサリの生産地である愛知県では、貝毒の監視体制を構築して生産海域において検査及び調査を行っています。潮干狩りシーズンの3~5月にかけてアサリの検査を、11~7月にかけて貝毒の原因となるプランクトンの調査をしています。規制値を超える毒素成分が検出された場合には、当該海域の生産者に対して出荷の自主規制を指導し毒化したアサリが水揚げされない体制をとっています。また、県内を流通する二枚貝についても、定期的に下痢性貝毒の検査を行い、毒化した貝が流通することを防いでいます。

R1R2R3
オカダ酸CHCH
ジノフィシストキシン1CH
ジノフィシストキシン2CH
図 オカダ酸群の構造式

従来、下痢性貝毒の検査は、貝から抽出した試験液をマウスの腹腔内に投与し、24時間以内にマウスが死亡するか否かで判断するマウス試験法が実施されてきました。しかし、マウス試験法は貝毒の強弱を判定することは可能ですが、毒成分の定性・定量が困難であるため、国際的に機器分析法の導入が進められてきました。わが国では、平成27年3月6日付け厚生労働省通知「下痢性貝毒(オカダ酸群)の検査について」により、下痢性貝毒検査における機器分析法が示されました。

表.下痢性貝毒の規制値
貝毒
下痢性貝毒
成分
オカダ酸群
規制値(日本)
0.16 mg オカダ酸当量/kg
Codex(Codex Alimentarius Commission)基準
0.16 mg オカダ酸当量/kg
*国際的な政府間組織であるコーデックス委員会(CAC)により定められた国際食品規格

愛知県衛生研究所では、令和2年度から液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計(LC-MS/MS、Liquid chromatograph/tandem mass spectrometer)を用いて下痢性貝毒の機器分析検査を実施しています。これにより、迅速に下痢性貝毒成分の検査結果を得ることが可能となりました。愛知県では県内で生産・流通する二枚貝の検査を通じて、広く県民の皆様の食の安全・安心の確保に努めています。

液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計の写真
液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計(LC-MS/MS)