愛知県衛生研究所

温泉ってなあに?
温泉水ってどんな水? あいちの温泉分析

温泉に入る人のイラスト

昔から日本人に人気の高い温泉が、昨今の温泉ブームにのり、今や私たちの健康の維持と増進になくてはならない"特効薬"のひとつになっていると言っても決して過言ではないようです。

しかし一方、平成15年7月31日公正取引委員会は「温泉表示に関する実態調査について」を発表しましたが、その中で、現状の温泉表示には温泉水が浴用に供される時の加水・加温等の情報提供が不足していること等、景品表示法上の問題点がたくさんあることを指摘しました。また、その直後、愛知県の吉良温泉において、水道水を使用していたにもかかわらず、パンフレット等に「天然温泉」と刷り込んだ天然温泉偽装問題も発覚しました。これに対して、愛知県環境部では吉良温泉を始めとした県内の温泉施設の立ち入り検査を実施し、景品表示法上問題はあるものの、温泉法上の違反はなかったと発表しました。その他全国的には、温泉の入浴施設を発生源とした重篤な肺炎を来たす可能性のあるレジオネラ感染症問題の続発、それに、翌年7月には全国的にも有名な長野県の白骨温泉の一部施設に入浴剤が投入されていたことが明らかとなっただけでなく、さらに8月には水道水や井戸水を使用した"天然温泉"として、群馬県の伊香保温泉、水上温泉、栃木県の那須温泉など、続々と報じられました。このように温泉とそれを法律的に規定する温泉法に関する問題点が多く、温泉に関する事柄がマスメディアにしばしば取り上げられています。

当愛知県衛生研究所では、温泉分析の登録機関として温泉分析を実施してきています。そこで、今回は、そもそも温泉とは何か(温泉法上の定義)について、それに当所で実施している「温泉分析」についてお話しいたします。

1 温泉とは何か(温泉法上の定義)と温泉分析

温泉法(昭和23年)という法律があるのを皆さんはご存じですか?
温泉に該当するためには、その成分が法律に合致する必要があります。

温泉法は、第一条〔この法律の目的〕で、"この法律は、温泉を保護し、その利用の適正を図り、公共の福祉の増進に寄与することをもって目的とする"としています。温泉の定義については、第二条〔定義〕で、"この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気、その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)である"と述べ、第二条別表に掲げる"温度又は物質を有するものをいう"と述べています。そして、温泉法第二条別表は、鉱泉を定義するもので、常水と区別する限界値を示しています。その詳細は当所ホームページの第1-1表にありますが、温度として25℃以上あれば、ただそれだけで法律上は温泉に該当します。また、温度が25℃未満であっても……全く冷たい水であっても"鉱泉"という温泉になることができます。……すなわち、含まれている成分、例えば、硫黄や鉄、放射能を持つラドンなど、法律で規定されている成分のうちどれか一つだけでも一定量以上含まれている水であれば、法律上は温泉に該当することになります。また、ナトリウムやカルシウム、塩素など水に溶けている物質(ガス性のものを除く)の総計が一定量以上あれば、これも温泉に該当することになります。こうしてみると、溶存物質量の多い……塩水である"海水は温泉だ!"と思われるかもしれませんが、もちろん皆さんご存じのように海水は温泉には該当しません。その理由は、この直ぐ後にお話いたします。

また、皆さんも"療養泉"という言葉を耳にしたことがあると思いますが、この"療養泉"については温泉法には明文化されていません。 "療養泉"の定義は、法律(温泉法)ではなく環境省自然保護局長通知による鉱泉分析法指針(平成14年3月改訂)の中に「鉱泉のうち、特に治療の目的に供しうるもの」として第1-2表で示されています。

温度が25 ℃で温泉! しかし、25 ℃未満の温泉もある!

したがって、温度が25℃以上であるか、又は温度が25℃未満であっても第1-1表及び第1-2表に定められた成分のうちの1つ以上を一定量以上含んでいる水は、法律上は"温泉"ということになります。塩分を沢山含んでいる海水とか廃水や泥水でも、成分の上では温泉ということになってしまいますが、そこを法律では先にもお話しましたが、第二条の定義のところで"地中からゆう出(湧出)する温水、鉱水及び水蒸気、その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)である"として、温泉は地中から湧き出る…グラグラと沸き出る必要はありません…地下水であることを大前提にしています。

温泉水は地中から湧き出し、温度や成分が固定的継続的なもの

ここで、地中から湧き出る(湧出する)とは、湧出する位置が一定で、湧出水の温度、成分等が固定的継続的現象と認められることを意味しています。

一般に、天然の地下水は長い時間をかけて地下をゆっくりと流れているので、その流路や成分は、その入れ物である地質と平衡を保っていることから、天然の状態では長期間にわたって温度も成分もほとんど変わらないものです。この様に安定した地下水であって、その上、第1-1表及び第1-2表に該当するものが始めて、温泉法で規定されている温泉ということになります。したがって、浴槽水に入浴剤を投入して水に色や濁りを出したとしても、当然のことながら温泉法にいう温泉には該当しません。本来の温泉水は、硫黄成分が多くて俗に言う湯の華で濁っていたり、鉄成分が多くてまっ茶色の浴槽だったりするわけで、そういった成分や温度のある水が、地下から湧出していて長く温度やその成分が保持されると判断されて、初めて法律上の温泉と認められることとなります。

温泉分析は、都道府県知事への登録分析機関で実施する

こうした「温泉分析」は、都道府県知事の登録を受けた登録分析機関(当所は登録番号愛知県第一号)が、すでにお話しした鉱泉分析法指針(環境省局長通知:平成14年3月改訂)によって行なうことになっています。また、温泉を公共の浴用又は飲用に供する者には、この「温泉分析」の結果に基づいて施設内の見やすい場所に、温泉の成分等(温泉名、温泉の泉質、温泉の温度、温泉の成分、それに、温泉の成分の分析年月日)、禁忌症(入浴や飲用が禁止されている症状・疾患)、及び入浴又は飲用上の注意事項を掲示することが温泉法上義務付けられています。温泉利用者は、この掲示によって天然温泉であることや温泉成分等の詳細について知ることができます。……このような掲示をご覧になったことはありますか?天然温泉に行かれたら必ず見てくださいね。……

天然温泉は、施設内の温泉の成分等の掲示で確認!
平成17年5月24日以降、温泉水の利用形態の掲示も義務付けられました

公正取引委員会は、「温泉表示に関する実態調査について」(平成15年7月31日発表)によって、源泉に加水,加温,循環ろ過などを行なっているにもかかわらず,パンフレット等において「源泉100 %」,「天然温泉100 %」などと,源泉をそのまま利用していることを強調するような表示を行なうことは,消費者の誤認を招くおそれがあるとして、景品表示法上温泉には適正な表示が必要であることを指摘しました。このことが発端となって、マスコミが頻繁にこの問題や温泉成分等の掲示について取り上げるようになり、多くの国民の関心が集まりました。そこで、環境省は、平成17年2月24日付けで「温泉法施行規則の一部を改正する省令について」において、温泉法による既存の掲示項目に加え、温泉の成分に影響を与える項目[加水、加温、循環、入浴剤・消毒剤の添加の4項目について、その旨(含、物質の種類)及び理由]を追加して掲示することを義務づけ、温泉事業者による温泉利用者への情報提供を充実させることにしました。この改正は同年5月24日から施行されており、掲示を行なう場合にはあらかじめ都道府県知事に届け出ることになっていますから、もう温泉での入浴時に掲示がこれまでとは少しばかり変わっていることにお気づきの方もいらっしゃると思います。温泉水の施設での利用形態によって、加水(理由:源泉温度が高いので加水等)、加温(同:入浴に適した温度を保つため加温等)、循環ろ過(同:温泉資源の保護と衛生管理のため循環ろ過装置を使用等)、入浴剤(同:香りを楽しんでもらうため等)・塩素消毒(同:衛生管理のため塩素系薬剤を使用等)等々、理由も明記された分かりやすく的確で正確な掲示が行なわれるようになりました。

なお、追加掲示項目にはありませんが、「源泉かけ流し」と書き加えることは認められており、利用者が添加されているものが何かを容易に判別できるもの(ゆず、しょうぶ等)は入浴剤等には含まれません。天然温泉へ行かれた折りには、是非、温泉の成分等の掲示をご覧になって温泉への理解を深め、より安心・安全な温泉浴を楽しんで頂きたいものです。

岩盤の割れ目から湧出する温泉水
岩盤の割れ目から湧出する温泉水
水中ポンプで汲み上げる温泉水
水中ポンプで汲み上げる温泉水
浴槽にあふれ出る温泉水
浴槽にあふれ出る温泉水

ところで、温泉の成分等の掲示の原則は、環境省自然環境局長通知「温泉法の一部を改正する法律等の施行について」(平成14年3月29日)の中に、「この掲示は、利用施設における分析結果に基づき行うことを原則とするが、その成分に差異が認められない場合は、(源泉の)湧出口における分析結果に基づき行って差し支えない」と記載されています。したがって、原則的には利用施設である浴槽水の成分を掲示することになっているわけですが、浴槽水と源泉の成分が変わらないと認められる場合に限って、実際に皆さんが入浴などをされる浴槽水等の成分ではなく源泉の成分を表示してもいいとされています。環境省の見解によれば、温泉の利用施設と源泉の「成分に差異が認められない」とは具体的には源泉から利用施設の間に除鉄や除マンガン等源泉の温泉成分を意図的に除去する装置がない場合を言い、温泉成分を意図的に除去する装置がある場合以外は、実際の利用施設、実際利用(入浴)する浴槽水の成分ではなく源泉の成分の表示でよいということです。一方、温泉の源泉の水ではなく実際に利用する施設の温泉水の成分とした場合、利用施設における分析とは何処で採取した温泉水が対象となるのか、浴槽流入水なのか、浴槽(中央なのか、何ヶ所かの混合)水そのものなのか、又はオーバーフロー水なのか、循環出口水なのか循環流入水なのか、意外と難しい問題もあります。この点については現在も環境省において検討がなされており、今後数年以内には、鉱泉分析指針の改訂で明確な指示が出されるものと思われます。いずれにしても、当衛生研究所がこれまでに実施してきた「温泉分析」は、温泉法上の温泉であることを確認するために源泉位置の湧出口での分析を中心に行なってきましたが、今後は、実際に皆さんが入浴・利用される施設における温泉水の成分検査も必要となってくると考えられます。

2 温泉の成分表示に記載される温泉の分類

温泉の分類(泉質など)はどうなっているの?

温泉は、泉温及び泉質によって分類され(前述、鉱泉分析法指針)、温泉を利用する上での参考とされています。鉱泉の場合は、鉱泉の分類が示され、療養泉の場合は、泉質名と鉱泉の分類が示されています。以下に、皆さんが実際に温泉の成分表示の掲示を読まれる場合に参考となるように、鉱泉分析法指針に示されている分類の概略を示しました。

(1) 鉱泉の分類

鉱泉は3種類の項目による分類が示されています。① 泉温:鉱泉が地上に湧出したときの温度、または採取した時の温度による分類、② 液性:湧出時のpH値(酸・アルカリ性度)による分類、③ 浸透圧:溶存物質総量による分類、の3項目による分類で、例えば、(③低張性②中性①冷鉱泉)というように括弧書きで併記されます。

鉱泉の分類
泉温の分類 冷鉱泉 25℃未満
低温泉 25℃以上34℃未満
温泉 34℃以上42℃未満
高温泉 42℃以上
液性の分類 酸性 pH3未満
弱酸性 pH3以上6未満
中性 pH6以上7.5未満
弱アルカリ性 pH7.5以上8.5未満
アルカリ性 pH8.5以上
浸透圧の分類 低張性 溶存物質総量が 8g/kg未満
等張性 8g/kg以上10g/kg未満
高張性 10g/kg以上

(2) 療養泉の泉質の分類

実は、ナトリウム-塩化物泉などの泉質名は、療養泉のみに付けることができます。

療養泉は、温泉水の温度や含まれている成分の量及び成分の種類によって次のように分類されます。すなわち、温度のみで該当する場合は下記①に述べる泉質名が付けられ、成分のみ又は温度と成分で該当する場合は、下記②(成分が塩類の場合)や下記③(特殊成分の場合)に述べる泉質名が付けられます。

この他、掲示には、療養泉ではない温泉の場合には浴用の一般的禁忌症及び入浴時の注意事項が示されます。これに対し治療の目的に供しうるとされる療養泉には、一般的禁忌症に加えて泉質別の禁忌症と適応症、それに入浴時の注意事項が示されます。……天然温泉に入られるときには、必ず読んでくださいね。……なお、この禁忌症や適応症等は、環境庁自然保護局長通知「温泉法第13条の運用について」(昭和57年環自施第227号)に基づいて記載されています。

3 温泉はかけがえのない私たちの財産

温泉は、自然が与えてくれた限りある貴重な資源、
温泉の保護と適正な利用が必要

温泉は、地球上の水の大循環の一過程において、特殊な環境条件に置かれた水のみが一般的な地下水(常水)とは異なる性質を示すことによって利用されているものです。愛知県内にも、一般の人々によく知られている火山性のいわゆる温泉らしい温泉とは異なり、尾張部の海部郡周辺の温泉のように1000 m以上もの地下深い所にある地下水が、地下の増温率(地熱によって地下の深いところほど温度が高くなる比率のこと。当所の試算によれば、海部郡の温泉水では100 m深くなる毎に水温が2.8 ℃上昇)によって水温が高いことから法律上温泉と定義されるものや、三河山間部の温泉のように地下の地質成分を溶かし込んできたために水質の成分によって温泉と定義されるものなどがあります。また、知多半島や三河湾沿岸部の1000 m以上もの地下深い所にある地下水は古い時代の海水を含むもので、温度と水質成分のいずれの要素によっても法律上温泉と定義されるものです。

温泉に入る人のイラスト

平成19年3月末現在の愛知県温泉台帳の源泉数は122か所(参照、あいちの温泉分布)で、このうち利用されているのは約80%、すなわち97か所の温泉が県内で実際に利用されています。火山性の温泉だけを温泉と勘違いしている人もあるようですが、愛知県内に存在する温泉も温泉法上歴然とした温泉であり、自然が私たちに与えてくれた限りある貴重な資源です。これらは私たちの貴重な財産であり、私たちの健康・福祉の増進のために長く有効に活用することが肝要です。そのため、愛知県では、知事の諮問を受けた環境審議会温泉部会が設けられていて、"温泉を涌出させる目的で土地を掘削しようとする者"の申請に基づいた温泉の掘削の許可や掘削後の動力装置の許可等について、意見具申を行なっています。しかしながら、更に有効な温泉の保護と適正な利用には、温泉利用者の皆さんの温泉への愛着と理解が非常に大切だと思われます。

自然の中の泉源
自然の中の泉源

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