○恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への対応要領の制定
令和3年10月1日
生人・生総・務住・地総・刑一・刑総発甲第159号
この度、恋愛感情等のもつれに起因する各種のトラブル又は事件のうち、被害者、その親族等に危害が及ぶおそれのある事案について、被害者等の保護等の徹底を図るため、別記のとおり恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への対応要領を制定し、実施することとしたので、その適正な運用に努められたい。
なお、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対応(平成26年生子・生総・務住・地総・刑一・刑総発甲第135号)は、廃止する。
別記
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への対応要領
第1 目的
この要領は、恋愛感情等のもつれに起因する各種のトラブル又は事件のうち、被害者等(被害者及び当該被害者の親族その他関係者(以下「親族等」という。)をいう。)に危害が及ぶおそれのある事案(以下「恋暴事案」という。)を認知した際に、被害者等の安全を迅速に確保するために講ずべき必要な事項を定めることにより、被害者等の保護の徹底を図ることを目的とする。
第2 恋暴事案の特徴等
恋暴事案は、警察が認知した時点においては、暴行、脅迫等、外形上は比較的軽微な罪状しか認められない場合であっても、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいことに加え、その加害者は、被害者に対する執着心又は支配意識が強く、また、加害者が被害者等に対して強い殺意を有している場合には、検挙される危険性を考慮することなく、大胆な犯行に及ぶことがある。よって、恋暴事案の対応に当たっては、加害者が被害者等に危害を加えることが物理的に不可能な状況を速やかに作り上げる必要がある。
第3 組織による的確な対応の徹底
1 警察署における対応
(1) 相談への対応
ア 生活安全部門と刑事部門の連携
恋暴事案に係る相談への対応に当たり、被害者等に危害が加えられる危険性及び切迫性の判断、事件化のための的確な擬律判断等を行うため、原則として、生活安全課の警察官と刑事課(組織犯罪対策課及び生活安全刑事課を含む。)の警察官が共同で聴取を行うこと。
イ 対処責任者の指揮
対処責任者(人身安全対処事案対応要綱の制定(令和6年生人・総務・務警・生総・地総・刑総・交総・備総発甲第162号。以下「対応要綱」という。)第5の2の(1)に定める対処責任者をいう。以下同じ。)は、相談等を受理した際は、優先的対処要員(対応要綱第5の2の(3)のアに定める優先的対処要員をいう。)に対し、必要な指揮等をした上で、速やかな現場臨場又は警察署への関係者の同行を指示するなどして対応に当たらせること。
ウ 制度等の教示
恋暴事案に係る相談への対応に当たっては、可能な限り早期に、被害者に対し、執り得る刑事手続及び証拠の確保のために必要な事項並びにストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号。以下「ストーカー規制法」という。)又は配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)に基づき執り得る措置について、それぞれの要件、その効果等を確実に説明し、積極的な意思決定を支援するとともに、非常時の通報要領、自衛手段等について教示すること。
エ 親族等との協力等
被害者の中には、被害の届出をするか否かを決めあぐねる者が見受けられることから、可能な限り、親族等の協力を得て被害の届出を促すこと。
また、加害者の行為が親族等にまで及ぶ可能性があることから、当該親族等に対し、保護を含めた警察の執り得る措置及び被害防止上の注意事項を教示すること。
(2) 対処責任者及び人身安全対策課長への速報
ア 対処補助者(対応要綱第5の2の(2)に定める対処補助者をいう。以下同じ。)は、相談、110番通報等により認知した全ての恋暴事案について、対処責任者に速報して指揮を受けるとともに、人身安全対策課長に速報(初動指揮チーム(対応要綱第5の1の(4)に定める初動指揮チームをいう。以下同じ。)経由。以下この(2)及び(3)のアのaにおいて同じ。)すること。
イ 対処補助者は被害者等から相談を受けているときは、対処責任者への速報の前後にこだわることなく、可能な限り被害者等を帰宅させる前に、人身安全対策課長に速報すること。
ウ 対処責任者及び人身安全対策課長への速報は、ストーカー事案又は配偶者からの暴力事案であると直ちに認定できるものだけにとらわれることなく、あらゆる可能性を想定して幅広く行うこと。
なお、器物損壊、住居侵入等の事案であっても、恋暴事案に該当する可能性があることに留意すること。
(3) 対処責任者による指揮
ア 組織的な対応の徹底
恋暴事案に係る相談については、真に組織的かつ継続的な対応が必要な場合が多いほか、加害行為の防止と保護対策を並行して実施する必要性が高いことを職員に認識させるとともに、次の措置を執ること。
a 当該事案の内容を把握した上で、速やかに、被害者にとって最も適切と認められる処理方針及び処理体制を決定して人身安全対策課長に速報する。
b 対処補助者に当該事案に関係する情報を共有させるとともに、速やかにaで決定した処理方針に従った措置を実行させる。
c 随時、処理経過を人身安全対策課長に報告するとともに、処理体制を見直したときは、前任及び後任の担当者間で当該事案の危険性及び切迫性に係る情報が確実に引き継がれるように指示する。
d 当該事案の内容を警察安全相談等・苦情取扱システム(警察安全相談等・苦情取扱システム運用要綱の制定(平成25年務住・総情発甲第2号)に定める警察安全相談等・苦情取扱システムをいう。以下同じ。)に登録させ、人身安全対策課長、当該事案に関係する所属の長等と必要な情報共有を図る。
イ 危険性等の判断及び即応態勢の確立
(ア) アのaの処理方針及び処理体制の決定に当たっては、被害者等から加害者の具体的な言動等を十分に引き出すとともに、生活安全部長が別に定める危険性判断チェック票を活用することなどにより事件性の判断を行うこと。特に、危険性又は切迫性を示す次に掲げる情報等を把握したときは、即応態勢を確立するとともに、統括責任者(対応要綱第5の1の(1)に定める統括責任者をいう。以下同じ。)に報告(人身安全対策課長経由)して指示、指導又は助言を受け、人身安全対策課長と連携して対応に当たること。
a 被害者等が行方不明である。
b 加害者において、被害者等又は加害者自身の生命又は身体に対する危害又は言動が認められる。
c 加害者において、被害者に物理的に接近しようとする行為が認められる。
d 加害者の居所が不定又は所在が不明となる。
e 加害者が過去に同種の犯罪を犯し、又はトラブルを起こしたことにより警察官が対応した記録等がある。
f aからdまでに掲げる内容の相談が近隣住民、関係機関等から複数なされている。
(イ) 危険性及び切迫性が否定でないとき又は判断できないときについても、危険性等が潜在しているものと積極的に解すること。
(ウ) 加害者と被害者が短期間のうちに交際の断続、離縁又は復縁に伴うトラブルを繰り返している場合、加害者又は被害者が警察の指導を一切拒否する場合等には、行為のエスカレートを防止するための措置を検討するとともに、継続的な対処に努めること。
(エ) 複数回の相談、110番通報等がある事案については、事案の全体像を俯瞰的に捉えて危険性又は切迫性を評価すること。
(オ) 対処責任者は、限られた警察力をより危険性又は切迫性の高い事案に集中させるよう、人身安全対策課長の確実な管理の下で適切に指揮すること。
ウ 事件化の判断等
(ア) 相談事案が刑罰法令に抵触するにもかかわらず、被害者等に被害の届出の意思がない場合においては、これをそのまま受け入れることなく、事件化を図らないことによって起こり得る事態について十分に説明した上で、被害者等に被害の届出に関する働き掛け又は説得を行うこと。
(イ) (ア)の説得等にもかかわらず、被害の届出をしない場合であっても、警察に相談しているという事情を十分に酌み取り、事案の危険性等を見極めるように努めること。
(ウ) 対処責任者は、被害者に被害の届出の意思がなく、一旦は事案の担当者が事件化を図らないと判断した場合においても、更に慎重に検討を加え、被害者の真意を見極め、事件化の要否を判断すること。
(エ) 被害者等の真意を酌み取り、より的確に事案の危険性等を判断するため、相談の場所、対応者の属性、同伴者の同席等、相談への対応方法に十分配意し、被害者等がより相談しやすい環境の確保に努めること。
(4) 被害者等の保護措置
ア 保護措置の徹底
(ア) 恋暴事案への対応に当たり、兆候情報等を把握したときその他被害者等に危害が加えられる危険性又は切迫性が極めて高いと認められるときは、被害者等を帰宅させることなく、速やかに安全な場所に避難させることとし、やむを得ない事情により避難させられないときは、被害者等の身辺の警戒等の措置を確実に講ずること。
また、危険性及び切迫性が否定できないとき又は判断できないときについても、危険性等が潜在しているものとして積極的に解し、同様に対処すること。
(イ) 被害者等の安全確保のため、宿泊を伴う一時的な避難を要するものの、適当な避難先がないときは、被害者等の一時避難施設宿泊料公費負担要綱の制定(平成19年務住・生総・刑総・備一発甲第45号)に基づく公費負担制度の運用を検討すること。
(ウ) 事案の危険性又は切迫性に応じ、被害者等に対して次に掲げる措置等を講じ、保護措置の徹底を図ること。
a 一時避難等の安全確保
b 身辺の警戒
c 犯罪被害者等110番即応システム(犯罪被害者等110番即応システム運用要領の制定(平成25年地通・地総・総務・務警・生総・刑総・交総・備一・名企発甲第172号)に定める犯罪被害者等110番即応システムをいう。)への登録
d ビデオカメラ、緊急通報装置等の資機材の活用
イ 加害者に対する指導、警告等の実施
(ア) 刑事事件として立件することが困難であると認められる場合であっても、被害者等に危害が及ぶおそれがある事案については、速やかに加害者を呼び出し、又は担当者が加害者方に赴き、事情聴取又は指導若しくは警告を行うこと。
(イ) 加害者への接触の時期及び方法については、加害者の性格、加害者と被害者等とのこれまでの接触状況等を踏まえ、加害者が警察の関与に対して反発し、又は逆上するおそれがあることを十分に考慮し、加害者の現状を可能な限り把握した上で決定すること。また、相談事案について事件化し、又は加害者に対する指導若しくは警告を行った後は、加害者の再犯性、報復のおそれの有無等を考慮して再被害防止対象者(愛知県警察再被害防止要綱の制定(平成13年刑総・務住・生総・交総・備一発甲第180号)第2の(1)に定める再被害防止対象者をいう。)に指定するなどし、被害者等に対する保護措置の万全を期すこと。
(5) 各種照会等の徹底
恋愛感情等のもつれに起因する各種のトラブル又は事件を取り扱った担当者は、警察安全相談等・苦情取扱システム等による照会を行うなどし、当該事案の加害者に係る過去の取扱状況を確認すること。
(6) 相談事案の継続的な把握
恋暴事案であると認めた相談については、その推移を見極め、漫然と従前の対応が繰り返されることがないようにすること。また、加害者に口頭警告を実施したこと、被害者が県外に転居したこと等をもって沈静化したものと安易に判断しないこと。
また、一旦沈静化した事案の加害者が、再びストーカー行為等に及ぶ事例もあることから、当該事案について、担当者を指定するなどして被害者等に現況確認を行うなど、事案の継続的な把握に努め、特異な状況を把握した場合には、人身安全対策課長に速報すること。
(7) 事案の終結
対処責任者は、事案を継続的に把握した結果、その後の危険性が認められないと判断したときは、人身安全対策課長の確実な管理の下、指示、指導及び助言を受けた上で、事案終結の適否を判断すること。ただし、指定対処事案(対応要綱第2の(8)に定める指定対処事案をいう。)については、生活安全部長の指示、指導及び助言を受けること。
(8) 県内における他の警察署長との連携等
恋暴事案への対応に当たっては、被害発生地、被害者の居所等を管轄する警察署長と緊密に連携し、事件化、保護措置等の初動措置を執ること。
なお、初動措置後における事案の継続的な把握及び被害者等の保護措置については、被害者等の安全を確保する上で最も適した警察署長に引き継ぐこと。
2 警察本部における対応
(1) 統括責任者への速報等
人身安全対策課長は、1の(2)により速報を受けた事案のうち、危険性又は切迫性が高いものは、統括責任者に速報し、当該事案に関係する警察本部の所属の長と連携の上、警察署における事案の処理方針及び処理体制を決定するために必要な事項に関し、速やかに当該警察署の対処責任者に対して指示、指導又は助言を行うとともに、支援要員の派遣等の必要な支援を行うこと。
なお、相談に係る行為が刑罰法令に抵触すると認められるにもかかわらず、対処責任者から事件化しない旨の報告を受けたときは、その対応の適否を判断し、必要な措置が執られていないと認めたときは、当該対処責任者に対して速やかに必要な措置を執るように指導すること。
(2) 人身安全対策課における指導等
人身安全対策課長は、1の(2)により速報を受けた事案について、受理の都度、警察庁が運用する恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案照会業務により照会を行い、加害者に係る過去の相談等及び他の都道府県警察における恋暴事案の取扱状況を確認すること。
第4 関係場所が複数都道府県にわたる事案等への対応
1 連絡調整責任者
(1) 警察本部に恋暴事案に係る連絡調整責任者を置き、人身安全対策課長をもって充てる。
(2) 連絡調整責任者は、県内における関係所属の連絡調整及び関係場所(被害者及び被害が及ぶ可能性のある親族等並びに加害者が、それぞれ通常所在する場所をいう。以下同じ。)が複数都道府県にわたる場合における関係都道府県警察との連絡調整に関する事務を統括する。
2 連絡担当者
(1) 人身安全対策課に恋暴事案に係る連絡担当者を置き、人身安全対策課長が指名する警部以上の階級にある警察官をもって充てる。
(2) 連絡担当者は、県内における関係所属の連絡調整並びに関係場所が複数都道府県にわたる場合における関係都道府県警察間の情報共有及び連絡調整に関する事務を行う。
(3) 関係都道府県警察間との情報共有は、緊急時を含め、原則としてそれぞれの都道府県に置かれた連絡担当者間相互で行うこととされている。したがって、連絡担当者は、恋暴事案のうち、関係場所が複数都道府県にわたるものについては、関係都道府県警察と連携を密にして確実に情報を共有すること。また、平素から他の都道府県警察における連絡担当者との間で密接な連絡体制を維持すること。
3 被害者等の立場に立った対応
(1) ストーカー規制法の警告等については、ストーカー規制法第14条第3項の規定に基づき、次に掲げる地を管轄する警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長が行うことができるとされているところ、関係都道府県警察のいずれが警告等を行う場合においても、本県警察の連絡調整責任者及び連絡担当者が関係都道府県警察との間で情報共有を図ることにより、被害者等の保護に間隙が生じないようにすること。
ア ストーカー規制法の警告等に係る申出(以下「警告等の申出」という。)をした者の住所又は居所の所在地
イ 警告等の申出に係るストーカー規制法第3条の規定に違反する行為をした者の住所(日本国内に住所がない場合又は住所が知れない場合は居所)の所在地
ウ 警告等の申出に係るストーカー規制法第3条の規定に違反する行為が行われた地
(2) 他の都道府県警察の管轄区域内における被害の届出の申出を受けた場合であっても、当該被害の管轄区域にこだわることなく、被害者の便宜を十分に考慮し、関係都道府県警察に連絡するなどして適切に対応すること。
(3) 関係機関との連携
恋暴事案の兆候をいち早く把握して被害の予防又は拡大防止を図るため、関係行政機関、民間団体、学校等との緊密な連携を確保すること。
第5 教養の徹底
1 全ての職員に対する教養
恋暴事案については、相談窓口のみならず、110番通報、被害届の受理等、あらゆる警察活動の過程で認知し、対応する必要があることから、所属長は、全ての職員に対し、対応要綱及びこの要領に記載の事項について、要点を絞った実効的な教養を実施すること。特に、当番責任者等(愛知県警察処務規程(昭和51年愛知県警察本部訓令第5号)に規定する当番責任者、当直長及び統括責任者をいう。)に対しては、対処責任者及び人身安全対策課長への速報及び対応要領(対応要綱第6に定める対応要領をいう。)に関する教養を徹底すること。
2 幹部に対する教養
人身安全対策課長は、警察署の幹部(警部補以上の階級にある者をいう。)のうち、恋暴事案を取り扱う可能性のあるものに対し、恋暴事案の指揮に関する教養を、新任幹部研修等において実施すること。
3 担当者に対する教養
人身安全対策課長及び対処責任者は、恋暴事案を担当する者に対し、ストーカー規制法等関係法令に関する教養を行うとともに、対応要綱及びこの要領に記載の事項について周知を徹底すること。
4 担当者に対する学校教養
人身安全対策課長及び対処責任者は、恋暴事案を担当する者に対し、警察学校において恋暴事案対策に係る演習を実施する等の実践的な教養を推進すること。