あいちdeニューノーマルの選択肢、半農半Xな暮らしガイド ー買うからつくるへー

実践者たち

農家×カフェ 実践者 伊藤吉孝さん

岡崎市東部地域は、山懐に抱かれた自然が豊富。東海道の道筋や藤川宿など豊富な歴史的資源があります。※カフェのある東部地域の情報です

額田地区は、岡崎市の東にあり、8割以上が山地になり、稲作、茶、花、園芸作物などが栽培されています ※カフェのある額田地区の情報です
額田地区は、岡崎市の東にあり、8割以上が山地になり、稲作、茶、花、園芸作物などが栽培されています ※カフェのある額田地区の情報です スマートフォン用
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伊藤吉孝さんの半農半Xのヒストリー

1975年名古屋市出身、2011年建築業を退社、2012年雇用創出農業研修(農業大学校地内)、2013年夏秋ナス生産で就農、2014年イチゴ栽培開始、2015年カフェ開業・イチゴかき氷販売開始、2019年メロン栽培開始・ナス栽培終了、2020年カフェを移転、藤川町で農園開設
1975年名古屋市出身、2011年建築業を退社、2012年雇用創出農業研修(農業大学校地内)、2013年夏秋ナス生産で就農 スマートフォン用
2014年イチゴ栽培開始、2015年カフェ開業・イチゴかき氷販売開始、2019年メロン栽培開始・ナス栽培終了、2020年カフェを移転、藤川町で農園開設 スマートフォン用

半農半Xの一年

イチゴ収穫:1〜6月中旬、イチゴ片づけ・育苗・土づくり:6月中旬〜8月、イチゴ定植:9月〜10月中旬、イチゴ生育:10月中旬〜11月、イチゴ収穫:12月、イチゴパフェ営業:1月〜5月、イチゴのかき氷:7月〜9月中旬、ピザ:11月〜12月、イチゴパフェ営業:12月

半農半Xの収入

農業:30%、カフェ:70%
農業:30%、カフェ:70% スマートフォン用
伊藤さん夫妻の写真

最寄りの施設

中学校車で5分、保育園車で5分、コンビニ車で3分、飲食店車で1分、食料品車で5分、救急医療車で10分、衣料店車で10分、小学校車で5分、高校車で5分、美容床屋車で10分、職場車で15分、薬局車で10分、郵便局車で5分、ガソリンスタンド車で5分
中学校車で5分、保育園車で5分、コンビニ車で3分 スマートフォン用
飲食店車で1分、食料品車で5分、救急医療車で10分 スマートフォン用
衣料店車で10分、小学校車で5分、高校車で5分 スマートフォン用
美容床屋車で10分、職場車で15分、薬局車で10分 スマートフォン用
郵便局車で5分、ガソリンスタンド車で5分 スマートフォン用

役に立った行政などの支援策

book

「農life is wonderful」をモットーに、イチゴ農園と行列ができるカフェを経営

愛知県岡崎市藤川町
国道1号線沿いにある観光農園「伊藤園」 自家栽培のイチゴをふんだんに使った、併設のカフェのメニューが好評を博している。暑い夏には、完熟イチゴをシロップに使ったかき氷。旬の冬には、丸ごとイチゴがこぼれるほどに山盛りのパフェ。SNS映えするその姿は、インターネットで瞬く間に拡散され、週末ともなれば駐車待ちの車で店の前に行列ができる。 この農園の経営者は伊藤吉孝さん。音楽を愛するもと建築業の彼が、農業への道をめざしたのはなぜなのか。また、農園に併設したカフェにお客さんがたくさん集まる理由は何なのか。
「ここへ至るまでの道すじは、好きで楽しい事だから、全く苦労と思わなかった」と、笑顔できっぱり言い切る伊藤さん。その強さの秘訣を紐解くために、まずは就農への道のりから聞いてみた。

国道1号線沿いにある観光農園「伊藤園」、伊藤さんの写真
あしらい

音楽と共に過ごした20代

伊藤さんは名古屋出身。18歳の頃に、アルバイトしていた造園関係の仕事の都合で、岡崎に転居する。レゲエが好きで、ジャマイカを訪れるなど、20代は音楽中心の生活を送っていた。30歳を迎えるにあたり、ちゃんとした職に就かねばならないという想いに至り、建築業の扉を叩く。音楽をやっていた時に、日雇い的に携わったこともある鉄筋コンクリートの現場。その中でも、特殊な型枠を作ることが得意な会社に魅力を感じて就職した。 しかし、そこでの業務は多忙を極め、帰宅時間が午前一時を回ることもしばしばとなっていた。好きで選んだ仕事なので、業務はつらいとは思わなかった。しかし、伊藤さんには知的障がいのある息子さんがいて、家族と接する時間が取れない事が、自身にとっての一番の懸念となってくる。 「これは家族にとっても自分にとってもいい状態ではない」その思いは日に日に強くなり、その会社を退職し、勤務時間の短い地元の工務店へと転職することになる。

あしらい

自家製のバジルペーストがもたらした大きな転機

伊藤さんの写真

その彼が農業へと目を向けたのは、ほんの些細な事がきっかけだった。 工務店での仕事の傍らで、当時家庭菜園で育てていたバジルのペーストが、仲間内ですこぶる好評を得たというのだ。自分が育てたバジルを食べて喜ぶ人々の顔。それを見るのがとても嬉しくて、印象的に心に焼き付く経験となった。 「自分が育てたもので、こんなにも人に喜んでもらえるのかと。そしてこんなに自分も嬉しい事なのかと」 20代の若い頃は、農業などにはまったく興味がなかった。しかし、建築の仕事で作ったピザ窯に惹かれたり、造園の仕事で郊外に行くことで、自然も好きだと思ったり。そうした経験を積むことで、少しずつ意識はそちらに向いていたのかもしれない。

あしらい

考えるよりもまず行動が先

「資材を買いそろえて家を建てる建築と違い、農業は、ほぼゼロからものを作り出す。」「農業の可能性はすごい。ゼロから全部ホームメイド。そういうのがむちゃくちゃ面白そう。それで、何となく農業をやってみようかなと思い始めました」 ゼロからすべて自分で作り出す喜び、自分で作ったものを人に喜んでもらえる嬉しさ、そして障がいのある息子の親として、将来なんらかの道を見つける手助けになるかもしれないとの想い。 そうした様々な想いの後押しを受けて、考えるよりもまず行動が先の彼は、とりあえず最初の一歩を踏み出した。

あしらい

就農への道のり

景色

いざ就農を目指したとはいえ、今の自分には、土地がない、金もない、経験もない。「こんな僕でもイチゴ農家になれますか?」と相談に向かった先は岡崎市の農務課だった。彼はそこで、チラシを一枚手渡される。 新規就農者への各種支援が掲載されたそのチラシは、何も持たない事からのスタートを、思い直すようにと渡されたものだったのだろう。しかし、そんな事はあまり気にならなかった。そのチラシに掲載された手厚い援助の数々。それを見て「農業とは、国がこんなにもサポートしてくれるものなのだ」と、ポジティブにもそう思った。 そのチラシに記載された相談窓口を訪ねて行った彼は、担当の職員の親切な対応を受けることになる。 「もしもその人に会っていなかったら、僕は農業をやっていなかったと思う」就農希望者に向けて開催されている各種研修の事、無利子で資金が借りられる制度の事、就農に役立つ色々な知識を教えてくれたのも、その人だった。 「農家さんも少なくなっているし、応援するからぜひやってほしい」そう励まされ、現実的な後押しをしてもらい「やってみよう」の気持ちが固まった。

あしらい

就農に額田地区を選んだ理由

伊藤さんは「農業大学校の雇用創出農業研修」で一年研修を受けた後、就農地には額田地区を選ぶことにした。それは37歳の時だった。額田地区を選んだ一番の理由としては、就農するのにナスが一番経費が掛からなかったこと。それと共にJAのなす部会が、額田地区にあったことだ。部会があれば、安定した出荷も見込めるし、手厚い指導も期待できる。 もう一つの理由としては、額田地区にはイチゴ農家のハウスもそこかしこにあったので、高齢化を迎えた農家からの継承の可能性を見込んでのこともあった。第二東名が開通したのも「今からここはいい場所になる」との思いを強くした。

あしらい

2年目に起きたミラクル

畑の写真

ナスの栽培は、妻の愛さんの協力で、順調にスタートを切ることができた。収穫量についても良い成績だった。しかし心の中ではいつでも、イチゴ農家になる夢をあきらめずにいた。 就農前のこと、額田地区にナスの畑の下見に行った時、イチゴのハウスで作業をしているお父さんに声をかけた。 「僕、こっちで就農するから勉強させて下さいね」 挨拶をかねての声掛けではあるが、願いを込めた本当の気持ちだった。 声をかけておいたものの、1年目の冬には勉強しには行けなかった。家庭の生活費を稼ぐためのアルバイトを優先したのだ。 「アルバイトに頼らずに、農業1本でやって行かないと、いつまでたってもダメなんだ」と、2年目に思い立った。 2年目の秋、ナスの収穫が終わった頃にイチゴのハウスを訪ねて行った。そこには、急な病に臥せったお父さんの代わりに、一人で仕事をするお母さんの姿があった。 2年前にお父さんに声をかけた時の話は、夫婦の間で伝わっていた。

ちょうどその時、1反5畝あるイチゴのハウスは、そのお母さん一人の手には余るものであり「5畝はあんたがやらんかね?」という言葉は、自然な流れの様でもあるし、また、天から落ちてきた様なミラクルでもあった。 ハウスもあって苗もある、それをこれから育てるというタイミング。 「やります!」と手を挙げるのに何の迷いもなかった。 その5畝のハウスを借り受けて、イチゴ農家への道がスタートを切ったのであった。

あしらい

ナス農家からイチゴ農家へ

ビニールハウスの写真

それからというもの、お母さんのハウスの手伝いをしながら、横についてイチゴの栽培を一から教えてもらった。 自分のナスの畑とも近く、本当に理想的な環境だった。 ナスの栽培を経営基盤にしながら、新規に取り組んだイチゴの栽培も、徐々に軌道に乗り始めた。 最初に5畝で始めたイチゴのハウスは、毎年のようにハウスを増設して、少しずつ規模を広げていき、1反5畝になっていた。最終的には2反5畝になっていた。 現在ではこの藤川町の観光農園として1反、そして額田地区で1反5畝を栽培している。 イチゴを使ったかき氷を提供したいと、額田地区で始めたカフェがSNSで評判を呼んだ。 そして、2020年に旧東海道藤川宿からほど近い国道1号沿いの藤川町に移転した。敷地にイチゴハウス1反とログハウスを新たに建設し、今では伊藤農園の主戦力となっている。

それに伴いナスは栽培を終了。額田地区の畑は、1反5畝のイチゴハウスを残して、7年育てたナス畑はすべて返却した。栽培を辞めることにした一番の理由は、夏場はカフェの経営に専念したかったからである。 そして、観光農園内にメロン栽培用としてハウスを1棟建てた。夏に育てるメロンはイチゴハウスの一部も利用して計8畝。それらのすべてを伊藤園の戦力として活かし、1年間を上手く回していく。

あしらい

半農半Xの強みを生かして

カフェの外観と内装の写真

伊藤園では、有機肥料と微生物を使用した土で、土耕栽培により主に紅ほっぺを生産している。 収穫されたイチゴは、その5割を食材として使用し、2割は農園での直売。あとの3割を和菓子屋などの業者用に販売する。 基本的に完熟したものを採取して販売するが、規格外や消費されなかったイチゴは冷凍保存され、夏場のかき氷に使用されることになる。 普通であれば、イチゴの売れ残りに頭を悩ますことになるのであろう。しかし、その部分に心配がいらないので、気持ちの余裕が生まれるし、その余裕は次のいいアイデアを生み出す力となる。 夏のかき氷は人気商品なので、そのためにイチゴをストックすることは、むしろ必要な事なのだ。 「自分で作ったイチゴを、全部使い切れるのが強みです。大事に育てたイチゴなので、切ったり冷凍したりで、余すところなく使い切りますね。お店があることで、使い切れるのはありがたいです」 さらには、食材の仕入れに気をもまなくていいのも、飲食店にとって最大の強みとなる。 おいしいイチゴをたっぷりと使った商品を、安価で提供できる。それは顧客に笑顔をもたらすし、その評判は新たな顧客も呼んでくる。 「自分で作った物を、直にお客さんに提供できる。お客さんの反応が見られる。そこに一番のやりがいを感じています」 半農半Xを実践することで、顧客と直に接することができる。 「お客さんがお金を払って、ありがとうと帰って行く。こんなに嬉しいことはないですね。お店に携わるスタッフも、お客さんの笑顔によって、やりがいが出てくる。これはもう最高なことだと思います」

あしらい

思い描いた方向へ

伊藤さんの笑顔の写真

建築業から念願のイチゴ農家への就農で独立。 さらには、そのイチゴを使ったメニューをカフェで提供することにより、店側と顧客の双方に笑顔や喜びをもたらせる仕事。 自身が理想とし、思い描いた方向へとスムーズに舵を切ってきた伊藤さん。 その彼が歩んできたこれまでの道には、なんの苦労もなかったのだという。 「基本的に、僕は自分が楽しいと思える事しかやらないんです」 「もちろん大変な事もあるんですけど、それも含めて自分が好きでやっているので、あんまり苦労と思わないんです」 「楽しいと思いながら、何かをしている人の元へは、楽しい事が。大変と思っている人の元へは、大変な事がやってくると思っているので、自分の好きな事だけを、自分が楽しいと思ってやっていれば、いい結果をもたらすし、周りの人にもいい影響を及ぼすと思っています」 その彼の考え方は、集客方法にも顕著に表れていて、伊藤園に人が集まる魅力の要因にもなっている。

あしらい

SNSやイベントを利用した集客

インスタグラムの投稿写真一覧

現在伊藤園では、夏場はカキ氷、冬はパフェ、最近ではその間を埋める目玉メニューとして、伊藤さん自らが焼く窯焼きのピザなどを提供している。 どのメニューをとっても、新鮮な素材をたっぷりと使い、顧客の目を引く印象的なスタイリングをしている。 集客にはSNSのインスタグラムを効果的に使い、インスタ映えを意識したその発信は、伊藤さん自身が毎日行っているという。 カラフルで、画面から飛び出す様に、元気な発信の数々。発信に使う写真の編集や、文面のデザインもポップな仕上がりになっている。 お店で使うメニューやロゴ、ホームページなどの作成もすべて伊藤さんが手掛けたものだ。そこに一貫したイメージは「明るくて何だか楽しそう」という事である。 「あたり前の事ですが、楽しいところには絶対にみんなが集まります。だからそれを一生懸命にアピールするのです。農業のこと、お店のこと、それらを毎日楽しんでやっているよと伝えています」 まずは自身が楽しむこと。それをわかりやすく発信すれば、顧客が集まってくる。 その顧客を楽しませることで、また、自身やスタッフに、楽しい気持ちをもたらしてくれる。 その循環で、どんどん良くなっていくのだという。 「季節によっては、週末に伊藤園祭というイベントを開催しています。何人かのクリエイターさんで、マルシェを開催してもらったり、友達のDJに音楽をお願いしたり」 「出展料も取りません。お店を出す方にも喜んでもらえるし、その子たちもお客さんを呼んで来てくれるから。来てくれる人達たちみんなが楽しめるしね」

あしらい

農福連携も視野に入れて

内装の照明の写真

息子さんは今、デイサービスに通っている。その系列施設の知的障がいがある方が書いた作品が、カフェの壁に飾ってある。 アウトサイダーアートとも呼ばれていて、店で使っている皿もそうした作品である。パフェのカップのシール貼りなどもその施設に仕事として出している。 「施設に通う子たちに、何かをする時間を作ってあげるのが大事なんです。ナスの栽培をしていた時には作業の一環として、うちへ来てもらうのを5~6年続けていました。そうした事業所さんとも連携して、今後もそういうことを続けて行けたらいいなと思っています

伊藤夫婦の写真

これから半農半Xを実践したい人へのメッセージ

イチゴの写真

「自分が好きな事、楽しめる事をやった方がいい。それにつきます。子どもにも言うけれど、とにかく自分の好きな事をやったほうがいいよと。もしも好きな事が見つからないのであれば、興味を持った色々な人と会った方がいい」 「考えるよりもまず行動が先。実行した結果を見てまた考える。その循環を常日ごろやっています」 「僕は農業という好きな事をやりたくて、色々な人に会いに行きました。行政のサポートにも色々助けられたし、融資を受ける事もできました。好きな事だから何でも楽しくできたし、本当にみんなに助けられて、ミラクルの連続なので、一切不満がないんです」 「自分が好きと思う事を、楽しんでやること。その法則で人生やったら楽しいし、これは行けるわ!ってなって、その結果が今の自分。」 「そういう風にやれば、絶対にうまくいくとわかったので、もう何も怖くない。次はなにをやろうかなっていう感じ。これから先を、いろいろと楽しみにしています」 農業や仕事の話をする時や、イチゴに接する時の伊藤さんの姿からは、心から楽しんでいる様子がいきいきと伝わってくる。半農半Xを実践することで、その楽しさを色々な形にして、直接お客様に提供することができる。その楽しさが、また新たな楽しさを呼び、喜びの輪がだんだんと広がっていく。 伊藤園を訪れるお客様の笑顔は、艶々のイチゴの様に今日も輝いている。