あいちdeニューノーマルの選択肢、半農半Xな暮らしガイド ー買うからつくるへー

実践者たち

農業×庭師・空き家管理 大山夫妻

住んでいる地区[豊田市稲武区] 愛知県豊田市の北東に位置し、長野県・岐阜県と県境を接する標高も高い稲武地区。

住んでいる地区[豊田市旭地区] 豊田市の水源、矢作ダムがあり、川、山、高原そして温泉郷がある。
住んでいる地区[豊田市旭地区] 豊田市の水源、矢作ダムがあり スマートフォン用
川、山、高原そして温泉郷がある。スマートフォン用

大山さんの半農半Xのヒストリー

1983年沖縄県糸満市出身、1997年〜2008年音楽活動しつつ派遣社員などで工場などに勤務、
              2009年リーマンショックを機に造園の技術専門校で1年間学ぶ、2010年豊田市街地の造園会社に就職、
              2020年庭師植泰として独立開業と共に稲武地区の大桑集落に移住、2021年空き家管理業の開始・妻と共にポップの生産を開始
1983年沖縄県糸満市出身、1997年〜2008年音楽活動しつつ派遣社員などで工場などに勤務、
            2009年リーマンショックを機に造園の技術専門校で1年間学ぶ スマートフォン用
2010年豊田市街地の造園会社に就職、
            2020年庭師植泰として独立開業と共に稲武地区の大桑集落に移住、2021年空き家管理業の開始・妻と共にポップの生産を開始 スマートフォン用

半農半Xの一年

ポップ栽培:2月〜9月、家庭菜園:2月〜12月、間伐薪づくり:1月、田んぼ(籾摺り・田起こし含む)、作庭・植栽:2月〜3月、草刈り:4月〜9月、庭木剪定・伐採:4月〜12月
農業:40%、庭師・空き家:60%
大山さんのイメージ動画はこちら
大山夫妻の人柄が垣間見られる、ショート動画がご覧になれます。ぜひご覧くださいね。
※「愛知県農業水産局農政部農政課YouTube」運用方針 [PDF/43KB]

最寄りの施設

中学校車で25分、子供園車で27分、コンビニ車で25分、飲食店車で8分、食料品車で15分、救急医療車で15分、衣料店車で25分、小学校車で26分、高校車で50分、美容床屋車で25分、職場車で30分、薬局車で25分、郵便局車で15分、ガソリンスタンド車で15分
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衣料店車で25分、小学校車で26分、高校車で50分 スマートフォン用
美容床屋車で25分、職場車で30分、薬局車で25分 スマートフォン用
郵便局車で15分、ガソリンスタンド車で15分 スマートフォン用

役に立った行政などの支援策(※マークは別ウィンドウで開きます)

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ホップ栽培、庭師、空き家管理、田畑の自給。すべては地域で暮らし続けるために

長野県境からほど近い豊田市稲武地区の山あい。高台に建つ築100年の古民家。泰介さん手作りだというウッドデッキに立ってみると、風が吹き抜けていくのを感じる。
家族全員で日々自然を感じることができる環境を求め、市の空き家バンクに登録していたこの家を初めて見にきたのは、雨が激しく降る日だった。泰介さんの一目惚れだった。「この人、まだ家の中をみる前から『ここにしよう!』って言っていました」と眞記子さん。申し込み後、空き家バンクで家を借りる際に必須となる地域住民と家主との面談に合格。娘2人を連れて、大山家の田舎暮らしは2020年春に始まった。
今年は移住して2年目。大山夫妻は、自給用の米・野菜の栽培、名古屋市にクラフトビールの醸造所を持つ会社からの委託で始めたホップ栽培、剪定・伐採の仕事など、未経験のことに次々と挑戦している。少々うまくいかないことがあっても「チャレンジしないと成功にたどり着けない」と前を向く。そのモチベーションはどこから来るのだろう。

大山さんの家族写真
大山さんの家族写真
あしらい

夫婦でホップ栽培に挑戦

ワイヤーを伝って5メートルはあろうかという高さまで伸びているツル。よく見てみると、鮮やかな黄緑色の実のようなものが付いている。泰介さんは脚立をセットして軽い足取りで上っていくと、丁寧に切り落としていく。

ポップ収穫している写真、ポップの写真

「これがホップの花なんですよ」と眞記子さん。鞠花とも呼ばれるこの花が、ビールの原料になる。4月に植え、わが子のように夫婦で見守り、手入れしてきた。泰介さんが集めたツルを一箇所に集め、鞠花をひとつひとつ手作業で摘み取っていく。8月末日、収穫の日に取材をさせてもらった。 ホップは冷涼な土地でしか育たない。自社で初めて生ホップを栽培することを検討していた名古屋市のクラフトビール醸造所ワイマーケットブルーイングは標高700メートルにあるこの地域に目を止めた。大山夫妻が加入している『農事組合法人大野瀬 温(ぬくもり)』に栽培してみないかと声がかかった。まっさきに手を挙げたのが、眞記子さんだった。 「もともとホップの見た目 の可愛らしさに惹かれていました。夫婦で何か一緒にできることがしたいと思っていたこともあり、うちがやります!と申し出ました。ふたりでホップの成長を見守ることで共通の話題が増えました」 対して、泰介さんは、 「最初はふーん、やりたいならいいんじゃないの(笑)という感じでした。その後、山梨県北杜市のベテランホップ農家小林さんのところで収穫体験させてもらいました。ホップを割って舐めてみると、ピリピリとした刺激と苦味を感じて驚きました。これは面白い植物だなと。責任者として栽培させてもらうことを決めました」 ツルを高く伸ばす栽培のために、以前きゅうりや花の生産に使われていたハウスの骨組みを利用できることになった。小林さんからの指導を受けながらおよそ一反の畑に100株を植え、10キロを収穫した。 「今年は小林さんに支えてもらいながら、とりあえずやってきました。一通りやってみて、改善すべき点なども自分なりにわかってきたので、きっとより良く栽培できるはずです」と泰介さんは意欲を見せる。

ポップ収穫の写真

記念すべき初収穫のホップを使ったビールは、10月から2000本限定で販売された。ワイマーケットブルーイングのホームページではすぐに売り切れ、注目の高さがうかがえた。

あしらい

自分たちのために続けていける畑に

畑と妻の写真

眞記子さんが案内してくれたのは自宅から徒歩ですぐの場所にある畑。トマト、とうもろこし、なす、にんじん、大葉。夏の盛りには毎日食べきれないほど、みずみずしい野菜が食卓に並んだ。 「これは大豆。収穫できたらお醤油や味噌を作ってみたいです。これはもう採らないといけないですね、ニンジン。キュウリはもう終わりがけですけど、まだちょっと採れています。向こう側にはヘチマ。台所で使うヘチマたわしを作ってみるつもりです」 大きなヘチマを愛おしそうに見つめる。 「引っ越してきて初めて畑を始めました。去年は何も知らないから草が生え放題になってほとんど実がなりませんでした。今年は、植え付けの時期に近所のおばちゃんにいろいろ教えてもらいました」 同じ野菜でも、違う品種のものをいくつか植えた。どの野菜は虫がつきやすいのか、美味しいのか、育てていく中で徐々にわかってきた。今後どうやったら手をかけ過ぎず、楽に続けていけるのか、良い方法を探っている。 無肥料・無農薬で育てている。時には困ったことが起こる。そんな時に頼りにしているのが、肥料・農薬・除草剤を使用しない自然栽培で農園を営む友人だ。 「ナスのように横に根を伸ばす野菜を近づけて植えると実がならないと言われました。間引いてみたら、本当にすぐ実がつきはじめました。ここのトマトは最初虫が付いていました。地面の下に硬い層があるから水はけが悪いと言って、友人がドリルで数カ所穴を開けてくれました。3日くらいでスーッとここの空気が変わったように感じました。そうしたら虫が付かなくなって色づきもすごく良くなりました」

説明ついでに、トマトを収穫する眞記子さん。見せてもらうと、黄色でひょうたんのような形をしている。 「これはインターネットで種を入手したトマトです。甘くて美味しいので子どもらも食べるし、鮮やかな色できれいなのでまた来年も作ろうと思っています」 「実は作った野菜を道の駅などで販売することも考えました。旦那さんに話してみたら、『現金にするより、自給用の野菜を充実させていこうよ』と言われて。のびのびしたいから畑をやっているのに、形の整った美味しい野菜を作ることに神経すり減らしてもしょうがない。楽しくやっています」

畑と妻の写真、トマトの写真
あしらい

米がある安心感と今後の課題

庭木剪定の写真

泰介さんは造園会社に10年勤めた後に退職。2019年、『お庭・空き家管理の植泰(うえやす)』として独立した。一級造園施工管理士の庭師として長年植物に向き合ってきた泰介さんは、ホップ、自給用の米と野菜の栽培を始めて、実感していることがある。 「何か不都合なことがあったときに、対症療法じゃなくて、本質を見極める必要があるという視点を持つようになりました。例えば虫が付いたり植物の調子が悪くなったりした時、すぐに薬を撒くのではなくて、虫の生態を知り、地中の空気と水の流れを改善させることを考える。庭師、ホップ栽培、田畑での自給。どれかひとつで学んだことを別のことに生かすことができる。根っこは全て通じているなと感じています」

あしらい

人の縁と信頼が次の仕事につながる

設備点検の写真

剪定や伐採、庭の環境改善の仕事。移住する前は、「田舎の人はみんな自分でやるから、庭の仕事はない」と耳にすることもあった。しかし実際に初めてみると稲武地区はもちろん、旭、足助、下山など山村地域全域から声がかかるようになった。 「人との関わりを大事にしています。営業をしなくても仕事をもらえたり、人を紹介してもらったりできているのは、人との繋がりのおかげかな」 空き家管理を新しい事業として始めたのは、自らが空き家に入居した経験からだった。豊田市空き家情報バンクに登録されていた空き家を見学し、7件目でようやく見つけた運命の古民家。暮らしをスタートさせるまでには、床の凹みや天井の修繕、水回りの配管整備や設置など、改修にはお金と労力が必要だった。 「家が傷む最大の理由は湿気です。空き家を良い状態で維持するためには、風通しと草刈りが大事だと実感しました」

愛知県が実施する起業支援事業『三河の山里なりわい実践者』に応募し、一級空き家管理士の資格を取得した。空き家管理業の一環として片付け作業、周辺の景観整備を請けた。まだ手応えは得ていないが、これからだと感じている。 今のところ仕事は少ないですが、ここ数年で状況が変わってくるのではないかなと。例えば、敷地の草刈りをさせてもらっている90歳のおばあちゃんから『自分がいなくなっても、管理は頼むね』と言ってもらえました。思い入れのある家が空き家になってからの管理って、よっぽど信用がないと任せてもらえない。庭師としての仕事が今後、空き家管理の仕事につながっていくと予想しています」

あしらい

ここに暮らし続けたいから

畑と夫婦の写真

続けて泰介さんの口から出てきたのは、「でも空き家管理の仕事でご飯を食べていくことが目的ではない」という少し意外な言葉。 「最終的にやりたいのは、この地域に移住者を増やすこと」 大山家は、この地域で唯一の子育て世帯。10世帯20人ほどが暮らしているが、高齢者のひとり暮らしが年々増えている。 「20年後には、うちが最後の1軒になってしまうかもしれない。こんなに良い場所を見つけたのにそれは嫌だ。ホップ栽培やったり、米や野菜の栽培をしたりすると、この地域に人が来る。もしかして、ここに暮らしたい人が出てきた時、入る家があるようにと空き家管理を始めました」 眞記子さんも同じ想いがある。 「この土地をすごく気に入っています。この気持ちを分かち合える私たちと同じような子育て中の家族が来てくれたら楽しいだろうなと思う時があります」

「うちがここでどう暮らすかが、すごく重要だと思っています。どよーんとしていたら誰も来ない(笑)。楽しい雰囲気を出していることが大事。みんなに支えてもらいながら暮らす姿を見せることで、移住者が地域に入ってきても『みんなが支えてくれる。大丈夫だよ』と後押しできる存在でいたい」と泰介さん。 ホップ栽培、米と野菜の自給、庭と空き家管理の仕事。『みんなが支えてくれる』という言葉の通り、その道のスペシャリストや地域の方にサポートしてもらいながら日々の変化を楽しんでいる大山夫妻。「この地で暮らし続けたい」という強い気持ちが、まるで応援する人を引き寄せているようだ。