1.視点の転換
健全な水循環とは、「流域を中心とした一連の水の流れの過程において、人間社会の営みと水循環の機能が、適切なバランスのもとに共に確保されている状態」をいいます。
これまでは、水に関する課題について、工場に対する排水規制など限られた場所や、環境、治水、利水など、それぞれの分野ごとに、水質や水量、生態系、水辺空間など水に関する限定した側面を捉えてその解決を図る個別的な取組がなされてきました。このような、地域や目的が限られた取組を「場の視点」での取組と呼びます。
このような「場の視点」での取組は、ややもすれば水の捉え方が限定的であり、常に移動し、循環する水の流れの全体についての視点が十分ではなく、水が循環することにより水質が浄化され、水量が確保されるなどの水循環の機能に対する視点が足りないことから、川や海などの水質汚濁や川の流れの低下、生物多様性の喪失、身近な水辺の減少などの水に関する課題の解決にはつながっていません。
したがって、今日の水に関する課題の解決には、水循環の再生が必要であり、上流から下流、海までの流域を中心とした一連の水の流れの全体を考慮し、水循環の4つの機能に着目した取組が重要となります。また、総合的な視点に立ち、森林や農地、都市域、海での水循環の再生につながる、特定のテーマに関連する様々な対策を連携させることにより、対策相互の相乗効果や波及効果を生かした取組をバランスよく実施することが重要となります。このような取組を「流れの視点」での取組と呼びます。
2.「流れの視点」での取組
「流れの視点」での取組には、「場の視点」での取組につながりを持たせ、流域を中心とした一連の水の流れを考慮し、水循環の機能に着目した取組と、森林や農地の保全など水循環の再生につながる特定のテーマに関連する様々な対策を連携させる取組があり、さらに、水循環の広域性を考慮して、県域を越えた取組も実施することが必要となります。
水循環の機能に即した取組としては、例えば、「矢作川方式」として知られている矢作川沿岸水質保全対策協議会の、上流から下流に至る官民一体となった水質浄化のための取組が挙げられます。
テーマで連携した取組としては、例えば、森林の整備・保全については、県産材の利用を促進し、林業が活性化することにより間伐など森林の手入れが行き届き、森林の水源かん養を増進させ、ひいては下流の都市での渇水対策となるなど、対策相互の相乗効果や波及効果を生かす取組があります。森林の整備・保全については、必要な財源を森林の恩恵を受ける県民全体が負担する水源基金等も有効となります。
また、休耕田の復活が、水田という水辺環境の創造となり、水生生物等の生態系の復活につながるなど「場の視点」での取組では想定していなかった効用があり、水循環の問題では、この効用が重要な意味をもつことが少なくありません。
このように「流れの視点」は個々の施策を線につなぐものです。そして、水質の浄化などの水循環の機能で連携した取組を縦糸、特定のテーマごとに関連する様々な対策で連携した取組を横糸として、織物を織り上げるように、限られた視点(場)での取組を、線・面での取組に拡げ、効果的・効率的で継続的な取組とすることをめざします。
水循環の機能で連携した4つの取組
上流から下流まで流域の全体にわたって、「水質の浄化」などの水循環の4つの機能を再生するため、機能ごとに連携した総合的な取組を実施します。
テーマで連携した4つの取組
水循環の再生につながる、「森林の整備・保全」など特定なテーマごとに関連する様々な対策を連携させることにより、対策相互の相乗効果や波及効果を生かして総合的な取組を実施します。
また、「水循環の機能で連携した取組」や「テーマで連携した取組」をより活性化し効果的に進めるため、「環境学習の推進」や、「情報の共有化」、「県民・事業者・民間団体・行政の協働」、「取組の検証・拡充」を行います。
水循環の機能で連携した取組
流域の全域にわたる取組と山間地域、農村地域、都市地域、海・沿岸域における地域に特徴的な取組を複合的に組み合わせることにより、流域の全域で総合的に取り組みます。
ア 「きれいな水」のための8の取組
水質汚濁の原因物質は、家庭や工場などから排出されるだけではなく、降雨等に伴って農地や市街地等からも排出されます。 「きれいな水」を実現するため、水質浄化で連携し、流域の特性を考慮した汚濁負荷の削減対策などに取り組みます。
イ 「豊かな水」のための13の取組
「豊かな水」は、渇水や一時的な出水による水害の少ない暮らしを確保し、生活用水など安心な生活を支えるもととなり、水源かん養や雨水の保水貯留が取組の大きな柱となります。そこで、森林や農地の有する保水などの水源かん養機能を向上させるために、森林の整備・保全や農地の保全・管理の取組、都市域での透水性舗装の取組などを推進します。
また、限りある資源としての水を生かすため、水道用水などの効率的利用を推進するとともに、県民などの節水意識の高揚を図ります。
さらに、身近に水が感じられる地域づくりをめざすため、山間地域での合併処理浄化槽設置、農村地域での農業集落排水処理施設整備など、地域で使用した水は地域の川などに返すことや、湧水などの余剰地下水の有効利用を図ることなどにより、常に地域の川の流れを確保する取組も推進します。
ウ 「多様な生態系」のための7の取組
生物にとって生息・生育しやすい環境を保全・創出し、「多様な生態系」を保全するため、生態系の保全で連携し、湿地やため池等の保全、生物の生息・生育環境に配慮した多自然型川づくり、多様な生態系を形成する干潟・浅場の保全・再生などを推進します。
また、県民参加による川や海の清掃や水生生物の調査などを通じて、県民の生態系保全に対する意識を高めていきます。
エ 「ふれあう水辺」のための5の取組
水遊びや魚釣り、水辺の散歩など人と水とが「ふれあう水辺」を実現するため、人と水とのふれあいで連携し、身近な水辺の親水性の向上を図るとともに、親しみやすい水辺景観の保全や水文化の保存・伝承を推進し将来につなげます。
【参考】水循環再生対策一覧
【参考】水循環再生対策一覧
区分 |
|
対策 |
きれいな水 |
汚濁負荷量の削減 |
1.生活排水対策
2.産業排水対策
3.非特定汚染源対策 |
有害物質の削減 |
4.有害物質削減対策 |
直接浄化等 |
5.直接浄化対策
6.底質改善対策 |
環境監視 |
7.水質等の調査 |
その他 |
8.清掃活動等 |
豊かな水 |
かん養機能の向上 |
1.森林の整備・保全
2.農地の保全・管理
3.総合治水対策の推進
4.雨水貯留浸透施設、透水性舗装等の推進
5.ため池の保全
6.緑化の推進
7.湧水等の保全 |
水資源の有効利用 |
8.水資源の効率的利用
9.節水意識の高揚
10.下水処理水等の有効利用
11.地下水の環境用水利用
12.雨水貯留による水資源の有効利用 |
その他 |
13.モニタリングの実施 |
多様な生態系 |
多様な生態系の保全 |
1.多自然型川づくり等の推進
2.自然海岸、干潟、浅場等の保全・再生
3.農業用水路、ため池等の保全
4.湿地・湿原の保全
5.エコトーンの整備等
6.清掃活動等(再掲)
7.動植物の調査・保全 |
ふれあう水辺 |
身近な水辺の整備 |
1.身近な水辺の親水性の向上
2.水辺景観の保全
3.清掃活動等(再掲)
4.モニタリングの実施(再掲) |
水文化の保存・伝承 |
5.水文化の保存・伝承 |
取組活性化 |
環境学習の推進 |
1.啓発
2.活動支援 |
情報の共有化 |
1.水情報の発信 |
県民・事業者・民間団体・行政の協働 |
1.活動支援等 |
取組の検証・拡充 |
1.取組の見直し等 |
テーマで連携した取組
ア 森林の整備・保全の取組
水循環の再生には、森林が健全であることが重要です。
そこで、間伐を始めとする森林の整備はもとより、「木材の安定供給」、「担い手育成」といった林業・木材産業の活性化を軸として、県産材である三河材の利用促進や環境学習を含めた幅広い取組の連携により森林の総合的な保全と活用を図ります。こうした取組が森林の有する保水力などの水源かん養機能の維持・向上につながり、健全な水循環の再生に寄与します。
イ 農地保全の取組
健全な水循環には、農地の役割が重要です。そして農地を保全し、その機能を維持・回復することが、水循環の再生につながります。
「農産物の安定供給」、「農作物の品質・安全性の向上」、「農業の効率化」、「農業の担い手の育成」、「地域農産物の利用拡大」といった農業の活性化を軸として、ため池の保全、エコファーマーの育成・拡大、家畜排せつ物の流域内での利用の推進、農業体験学習の推進などを含めた幅広い取組の連携により農地の保全を図ります。こうした取組が農地の地下水かん養機能や雨水貯留機能を向上させ、豊かな生物多様性の確保や流域の水質を改善させ、健全な水循環を再生します。
ウ まちづくりの取組
水循環にとっては、多くの人が暮らし、働いている都市地域において、バランスのとれた水の利活用が図られていることが重要です。
まちづくりの計画時から、水循環再生につながる透水性舗装や雨水貯留浸透施設の設置などによる地下水かん養、水害防止、水辺空間の保全・創出によるヒートアイランド対策、多自然型川づくりなどによる多様な生態系の維持、水辺の交流拠点や水辺へのアクセスの向上、水辺景観の保全などによる親水性の向上などに配慮することにより、まちづくりを軸にした連携を図ります。
こうしたまちづくりの連携により、水の利活用のバランスを図り、水循環を再生します。
エ 海づくりの取組
海は、水循環の中で、陸地からの河川や地下水を通じた水を受け入れるとともに、蒸発・降雨を通じて再び水を陸地へと供給しています。そして、海が健全であることが、水循環の再生を考える上で重要です。
伊勢湾、三河湾は、私たちに豊かな恵みをもたらし、レクリエーションや憩いの場となることから、海を保全・再生することが必要です。
また、アサリなどの様々な生きものが生息する干潟は、水質浄化の機能があります。
「生態系の保全」、「憩いの空間整備」、「高品質・高鮮度水産物の安定供給」といった海辺の保全・再生や水産業の活性化を軸にして、さらに水産業体験学習や水辺イベントの実施、海辺の清掃活動の実施を通じて県民の目を海へ向け、海の保全・再生の連携を図ります。
こうした取組を通じて海の魅力を取り戻し、水循環を再生します。
取組の活性化
本構想では、連携した取組をより活性化し効果的に進めるため、環境学習の推進や情報の共有化、県民・事業者・民間団体・行政の協働、取組の検証・拡充を行います。
ア 環境学習の推進
県民一人ひとりが、人間活動と水循環など環境とのかかわりを正しく理解し、自ら環境に配慮した行動をするためには環境学習の果たす役割がきわめて重要です。
このため、水辺マップ、ため池マップ、湧水・湿地マップの作成などを通じた「水に関する環境学習」、「川に関する環境学習」、林業体験学習などを通じた「森林に関する環境学習」、農業体験学習などを通じた「農業に関する環境学習」、水産業体験学習などを通じた「海に関する環境学習」など、さまざまな環境学習を連携して実施することにより、環境学習の輪を広げるとともに、水循環再生への理解を深めます。
また、子どもたちが水や自然と触れたり、遊んだりする機会をより多く創出することにより、その中で水や自然の大切さや人と自然との共生について学んでいくものとします。
イ 情報の共有化
県民や民間団体の参画による流域の水循環再生指標のモニタリング、水辺マップ、ため池マップ、湧水・湿地マップの作成などの情報を集積・発信することにより、県民、事業者、民間団体、行政が情報を共有し、取組に関する理解や連帯感を高めます。
また、共有化された情報は、同じ課題をかかえた地域間を結び、学び、行動を起こすなど、より効率的な取組につながります。
こうした情報の共有化により、県民の水への関心を高めるとともに、人と水とのかかわりを深め、水循環再生の取組の効果を高めます。
ウ 県民・事業者・民間団体・行政等の協働
県民や事業者、民間団体、行政、大学などが、それぞれ主体性をもって協働することにより、自主的かつ広範囲な取組の輪を広げ、水循環再生の取組の発展を図ります。
エ 取組の検証・拡充
取組内容については、定期的に取組の効果を把握するなど、検証を行っていきます。
また、この検証結果や社会情勢の変化、技術革新の推移に合わせて取組の見直しを行うとともに、先導的な施策を積極的に採用することにより取組の充実を図ります。