本文
3 愛知の里山
3-1 植生
本県は、名古屋市を中心とした大きな都市部をかかえる地域でありますが、県東北部の西三河・東三河地域には豊かな自然が温存されており、また、渥美・知多両半島の沿海部においても本来の自然植生が温存されています。
一方、都市化地域でも社寺林などに自然度の高い植生が温存されています。本県の気候区分は大部分が暖帯に属しますが、標高の高い奥三河の一部が温帯となっています。このため、植生は暖帯性常緑広葉樹林よりなるヤブツバキクラス域※から、温帯性落葉広葉樹林よりなるブナクラス域※に属することとなっていますが、現実には、二次林やスギ・ヒノキの人工林が多くなっています。特に、県土の約43%を占める森林のうち、スギ・ヒノキ等の人工林が約64%を占めており、三河スギをはじめとした地域材の産地として、全国に名を馳せています。
本県の特徴としては、太平洋を望む海岸植生、また、多くの湿地とため池に成立する水生植物群落を始め多様な植生を形成していることです。とりわけ、湿地を中心として成立する周伊勢湾要素種※と呼ばれる特色ある植物種が分布しています。
用語解説
・ヤブツバキクラス域※:
植物社会学上の分類で、暖温帯の、雨量に恵まれた地域を生育植生とするヤブツバキ、アラカシ、シラカシ、ヒサカキなどの常緑広葉樹が優占するこれらの樹林(照葉樹林帯)のことをいう。
・ブナクラス域※:
植物社会学上の分類で、冷温帯域を生育植生帯とするブナ、コナラ、アベマキ、力エデ類、コシアブラ、オオマメノキなどの落葉広葉樹が優占するこれらの樹林(冷温帯落葉広葉樹林帯)のことをいう。
・周伊勢湾要素種※:
愛知県を中心に、三重県から静岡県など伊勢湾をとりまく地域に発生分化したものと考えられる植生で、シラタマホシクサやスズカンアオイなどを指す。
3-2 里山の推移
本県の里山の推移を概略的に示しますと、江戸幕藩体制下の尾張藩林制度が解体し、林野利用統制が緩んで明治初期から中期にかけての濫伐によるはげ山の時代と、第二次大戦直後の困窮・復興時代という二回の「破壊」の時代を経て、再生されてきた状況であると考えられます。過去からの本県の里山の面積は、把握されていないので、参考として森林面積を示すと下のようになります。ただ近年の漸減傾向が気になるところであります。
愛知県の森林面積等の推移
はげ山の景観と森林の回復経過(春日井市廻間町神谷洞)
1903年撮影時のはげ山の状況
1951年2月の森林の回復状況
(出典:平成9年度里山自然地域保全事業調査報告書)
3-3 里山全県調査結果の概要
(1)調査対象
標高300m以下で、区域のまとまりが概ね100ha以上ある二次林、雑木林を里山として抽出し対象とした。
- 日本列島の植生分布から、愛知県の場合、概ね標高300m以下が里山としての本来の植生を示すことから、この高さを基準にした。
- 小規模な樹林地(里山)も多く点在するが、環境としてのまとまりを考え、環境アセスメント制度の面的開発事業の対象面積である100haを準用した。
- 木材の商業的生産を目的とした植林地は除いたが、はげ山の緑化やせき悪林地の改良、あるいは潮害・飛砂の防止を目的としたアカマツ・クロマツの植林地は、地域の環境形成の役割を果たす樹林地として対象に含めた。
(2)調査結果
(ア)里山の分布区域
(イ)里山の面積
本県の里山の面積は34市町村、70地区、50,789haであり、これは県土面積の9.9%、また、県の森林面積の22.9%に相当する(下表)。
(単位:ha) | |||||
市町村名 | 面積 | 市町村名 | 面積 | 市町村名 | 面積 |
---|---|---|---|---|---|
名古屋市 | 471 | 小牧市 | 444 | 小原村 | 1,373 |
豊橋市 | 865 | 新城市 | 1,648 | 足助町 | 3,609 |
岡崎市 | 8,310 | 日進市 | 336 | 旭町 | 375 |
瀬戸市 | 2,295 | 長久手町 | 117 | 鳳来町 | 895 |
半田市 | 31 | 南知多町 | 992 | 音羽町 | 620 |
春日井市 | 184 | 美浜町 | 740 | 一宮町 | 487 |
豊川市 | 492 | 武豊町 | 240 | 御津町 | 458 |
豊田市 | 6,223 | 吉良町 | 614 | 田原町 | 1,696 |
西尾市 | 109 | 幡豆町 | 1,330 | 赤羽根町 | 571 |
蒲郡市 | 1,653 | 幸田町 | 2,444 | 渥美町 | 2,620 |
犬山市 | 2,279 | 額田町 | 3,160 | ||
常滑市 | 267 | 藤岡町 | 2,841 | ||
34市町村 70地区 50,789ha |
(単位:地区数) | |||
指定面積率 | 保安林 | 砂防指定地 | 自然公園 |
---|---|---|---|
全域指定 | 0 | 11 | 15 |
90%以上 | 3 | 10 | 5 |
75%以上90%未満 | 9 | 3 | 6 |
50%以上75%未満 | 11 | 3 | 5 |
25%以上50%未満 | 13 | 12 | 7 |
25%未満 | 24 | 22 | 9 |
指定なし | 10 | 9 | 23 |
(ウ)里山の士地利用規制
(工)土地所有状況
土地所有形態は、ほとんどの地区で、私有地が主体となっている。なお、面積は比較的小さいが、ほとんどの里山で社寺所有地が含まれており、昔から里山と地域の人々の生活との関わりの深さを示している。
私有地が主体:79%
公有地が主体:7%
社寺地が主体:1%
財産区のみ:1%
不明:6%
私有地のみ:6%
(オ)里山の利用状況
(単位:地区数) | ||
利用していない(不明を含む) | 21 | |
利用している | 49 | |
主な利用状況内訳 | 散策コース | 29 |
自然観察会 | 25 | |
山菜採取 | 18 | |
探鳥会 | 15 | |
木材生産 | 11 | |
キノコ狩り | 11 | |
キノコ原木林 | 9 | |
*主な利用状況の内訳の欄に重複あり |
(単位:地区数) | ||
利用計画ない(不明を含む) | 45 | |
利用計画あり | 25 | |
利用計画内訳 | レクリエーション・自然観察施設等整備 | 8 |
公園・運動公園等整備 | 6 | |
高速道路関連整備 | 3 | |
学術研究関連整備 | 3 | |
工場開発整備 | 2 | |
その他(住宅団地整備、土石採取等) | 14 |