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5 市民による里山管理

ページID:0006278 掲載日:2008年3月13日更新 印刷ページ表示

5-1 市民参加の意義

 里山は人里の周辺にあり、わたしたちの生活に密着してきた二次的な自然で、そこでの営み自身が、結果として独持の生物環境を創り出してきました。そこでよく管理された里山は、地域各々にあって固有の様相を成し、見慣れた景色としてそこに住む人々のいわば心の安らぎと、原風景を形成していたのです。

 今日、里山の保全を考えるとき、その主体である地域社会の関わりが最も重要であることは、里山の成り立ちから考えれば明白なことですが、里山と日常的、永続的関係を持ち得る地元地域の人間集団(一定の利害を共有し得る)の存在がまず重要になってきています。地域固有の風習や地場産業といわれるものは、地形や風土からもたらされる部分も大きく、そこで育まれた人々の集団もまた、固有の利害を保持することがあります。里山の今日的な活用法は、従ってその地域に育まれた自然と人間集団によって様々な形態をとり、決して、単純な技術手法で表現されるものではありません。

 一方において、自然と人間との関係を問い直す動きのなかで身近な自然との関わりを持つことの大切さが認識され、教養やレクリエーションなどの目的にとどまらず、世代を越えた生涯学習、歴史、産業研究など幅広い地域研究などの対象として各地で里山が見直されてきています。

市民参加の意義1

 このように里山は限りない可能性を秘めつつ、人間集団の働きかけ次第で多重多層に変貌することになりますから、市民参加の質に応じた受け入れをしてくれます。そればかりか、人間集団の関わりに応じてその資質を高め、絶ゆまぬ変身をとげてくれるのです。つまり言い換えれば、里山保全に関わる意識の高い人間集団の存在(=市民参加)によって、里山は今日の私たちの暮らしの中で生き返ってくるということであります。

 また一方で市民の自主的な高まりの中で生まれた種々の里山活動を見つけ、育てていく行政と市民とのパートナーシップが大切となってきます。このことによって市民参加の芽が時としていくつも生きてくることでしょう。地域の景観改善が図られるばかりか、大きく自然生態の改善や、水循環・水環境の改善を視野に入れた街づくりにも一役買える可能性も指摘されており、ここにも市民参加の里山管理の大きなメリットが秘められているのです。

市民参加の意義2

5-2 市民参加の里山保全活動

集団の特質と活動の可能性

 里山は関わる人々の資質によって限りない役割を果たすことについては先に触れましたが、それではどの様な姿に変われるのかをみてみましょう。

 里山に関わりを持とうとする人間集団としてどんなものが考えられ、それらがどんな活動をし、そこにどんな意義が生ずるかを以下、見てみます。

里山保全活動への関わりの可能性
集団関わり意義
子ども会遊び場、自然観察、 整備活動情操教育、環境教育、社会活動
町内会
老人・婦人会
整備活動、採取・栽培、散策生涯教育、社会活動、健康
営農者除・間伐、整備活動、採取資材確保、水源整備、景観改善
自然観察グル一プ自然観察、整備活動、保全活動環境教育、社会活動
企業整備活動、市民活動援助宣伝、社会活動、社員教育
土地所有者林地提供景観改善、社会活動
行政施策、制度、税制措置、催事事業生涯教育、まちづくり、景観改善

里山の保全とまちづくり

 生活域内、つまり手軽に繰り返し触れることのできる範囲内での里山活用方法として”まちづくり”を挙げる例が目立っています。それは里山を活かしながら”ひとづくり”や”場づくり”をしていこうというものです。

  ”ひとづくり”の面では、老人や主婦などの一般の住民の中に潜んでいる知識を、体験学習や実習講座などを通じて顕在化していき、互いに刺激しあう中で新しいリーダーや生きがいを創造していけるのではないかといった可能性や、そうした活動をきっかけに、地域社会で世代や学歴、役職を越えた人間関係が育てばとの思いから取り組まれているものです。

 また”場づくり”という面からは文字通り、里山を身近な自然緑地としてとらえ直し、遊びやレクリエーション活用を通じて親しまれる場にすることが挙げられます。また、生態的な観点から、動・植物の多様性を促したり、地域の水循環の復元を図ったりする場として整備及び管理活用することによって、住環境としての地域づくりに取り組む例も予見されるようになってきました。

里山と人とのかかわり

5-3 行政、企業とのパートナーシップ

各地で始まったパートナーシップ

 地域から発生した市民グループによる里山保全の活動を、広く地域づくりや社会に貢献する環境保全活動として位置づけ、行政や企業が支援したり、協調する例も見られ始めました。ナショナルトラスト※の埼玉県狭山のトトロの森や静岡県三島グランドワーク※事業がよく知られていますが、身近なところで行政と市民とのパートナーシップの例では名古屋市の相生山緑地オアシスの森事業がありますし、本県で取り組んできた里山自然地域保全事業があります。この県の事業は、里山保全モデル事業として雑木林研究会を始め、県内の自然観察指導員の各氏を指導者にして、知多半島の美浜町と、東三河の御津町で各々3年づつ数々の事業に取り組み、広く県民へ普及啓発とそれらに触発された地元での市民グループによる、自発的な保全活動に期待を寄せていましたが、昨年事業を終えた美浜地区でグループが立ち上がり、活動を始めたところです。

 また企業の例としてトヨタ自動車のエコの森では同社のプログラムを始め、数々の研修や人材育成のための事業が取り組まれ、全国各地の里山保全活動の要望に応えています。この他にも、活動育成の資金を提供したり、研究活動の助成を行ったりしている企業がいくつかあります。

今後の取り組みの課題

 こうした市民グループと企業あるいは行政とのパートナーシップを活かした事業は今後も多様な形で増えていくものと考えられますが、それらはモデル的な事業であったり、特別なケースとして存在しており、安定した社会常識となっているわけではありません。そればかりか特に里山に寄せる社会の各方面の関心や存在意義、活用期待は日増しに高まるなか、これらに応える人材や技術的な指針、活動のための資金などは不足しているのが現状です。

 そうした現状を踏まえ、企業や自治体が息の永い、安定的な支援・協調の手だてを取ることが望まれるとともに、内容についても、市民グルーブの発想を採用して、それらを下から支えていきながら、社会ニ一ズと市民グループの活力を引き出していくことが有効です。一方、立場が変わって市民自身は、グループ内の自己満足的な活動にとどまることなく、広く地域や社会に働きかけ、あるいは影響力を及ぼす自立した活動となるよう努力し、企業や行政との対等な関係を築きながらパートナーシップを進めていく必要があります。力が合わさって新しい価値と社会的効果を産み出すことでしょう。里山保全管理にはこうした関係が大切になってきます。良好なパートナーシップは双方の長期展望をもった積極的な働きかけによって、初めて産み出されることを忘れてはなりません。

用語解説

  • ナショナルトラスト※

 都市開発などから、貴重な自然環境や歴史的建造物などが破壊されることを防ぐため、広く寄付金を募って、その土地や建造物を買い取ったり、贈与または寄託を受けたりして、保存・管理、公開して後世に残していこうという市民運動。

  • グランドワーク※

 地域住民、行政、企業のパートナーシップによって取り組まれる、農村およびその近郊を中心とした地域環境改善活動のことで、10年前にイギリスで始まった。

里山保全のフロー