ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 ホーム > 組織からさがす > 自然環境課 > 4 新たな里山の役割

本文

4 新たな里山の役割

ページID:0006275 掲載日:2008年3月13日更新 印刷ページ表示

4-1 里山の機能とその維持

 里山は森林(雑木林)を中心とした、都市近郊にある身近な自然環境であるという特性から、いろいろな機能を持っていますが、手入れされなくなったことにより、その機能が十分発揮されなくなってきています。これらの機能を有効に発揮させるためには、各機能の特質を理解して、手だてを進めることが必要です。
里山の特色と機能

里山の特色と機能

(1)資源生産(木材生産・林産物栽培等)

 里山は、そこに生育する樹木を直接的に利用し、あるいは、その森林環境そのものが林産物の生産の場としての機能を持っています。

 昭和30年代以降の燃料革命や近代的農業経営により、里山が昔のような薪炭材、農用林としての重要な役割は薄れてきましたが、現代においても里山の樹木はシイタケ栽培用の原木、製炭用の材、工芸品製作のための材料等として利用されています。また、里山の森林空間を利用しての苺苗の育成、わさびやキノコの栽培等が行われています。

 世界的な森林資源の枯渇に加えて、地球温暖化対策の観点からも、化石燃料の利用抑制等が課題となってきている現代において、里山の森林は、再生産と持続的な利用が可能な潜在資源として、あらためてその役割が見直されつつあります。また、そのことが里山を健全な生産機能を持つ地域として、活性化させる道でもあります。

資源生産

資源生産機能を発揮させるために必要なこと

  • 樹林地域として保存していくこと
  • 目的に応じた選択的な樹種の転換をすること
  • 多様な樹種を利用する仕組み(工芸、工房)を育てること

(2) 水源涵養・水質浄化

 里山に成立する樹林は、いわゆる「みどりのダム」として、水源涵養の機能を有しています。特に河川の上流に位置する里山は、水源涵養上重要な役割を果たしている場合が多くみられます。また、雨水が土壌を浸透する過程において、水質が浄化されています。したがって、良好な水環境を保全するためには、こうした機能が損なわれないようにしなければなりません。

水源涵養・水質浄化機能を発揮させるために必要なこと
  • 森林密度を適正に管理(除伐・間伐)し、樹木の成長を促進すること
  • 複相林を維持し、林床植生の発達を図ること
  • 森林の表土を保全すること
  • 河川やため池の岸辺の植生を保全すること

(3) 土砂流出・崩壊防止

 斜面に成立している樹林・樹木等の根が表土を安定させることにより、土砂の流出・崩壊の防止を果たす機能を有しています。なお、里山はほとんどが傾斜のある地形であり、したがって、そこに成立している植生(樹林)は、土砂流出・崩壊防止の面からこの機能が損なわれないようにしなければなりません。

土砂流出・崩壊防止機能を発揮させるために必要なこと
  • 森林密度を適正に管理(除伐・間伐)すること
  • 樹木更新による森林(樹木)の活性化を図ること
  • 多種・異齢の森林を維持すること

(4) 野生生物の生息・生育環境

 里山の樹林、草地、水辺等の自然環境は、野生生物の生息・生育環境としての機能を有しています。昔の里山を遠くから眺めると、木のあるところとないところがパッチワーク状に混在していて、現在の山のように一様な感じではありませんでしたが、こうした多様な環境は、それぞれの環境を利用した多様な動植物の生息環境として機能していました。

 このような環境は、人の手をかけることにより維持されたものであり、手入れされずに落葉が厚く積もっている林床では、野生植物の種子はほとんど芽を出すことができずに、ついには生命力の強いササやタケばかりがはびこってしまうことになります。したがって、広葉樹林を中心とした里山は、定期的な伐採や落葉かき等の人為が加えられることによって野生生物の発芽・生育が維持され、特に多様な生態系を構成する場としての機能を十分発揮することができます。

野生生物の生息・生育環境(多様な生態系構成の場)としての機能を発揮させるために必要なこと

  • 森林密度を適正に管理(除伐・間伐)し、多様な密度空間を形成すること
  • 樹木更新による森林の活性化を図ること
  • 定期的及び段階的な伐採、落葉かき等を実施すること
  • 森林に隣接する草地や農用地の保全もあわせて図ること

(5)都市微気候の緩和

 地表の多くをコンクリートやアスファルトで占めている都市では、ヒートアイランド現象などの都市特有の気候現象が生じて、その対策が課題になっています。現在までの都市開発は機能面に重点が置かれたものであったので、その結果、都市は自然を克服する形で形成されてきて、自然環境あるいは緑地空間が都市の機能として十分認識されていない状況でした。こうした都市開発の歴史の中で、都市の周辺に位置する里山も都市中心部の市街地とは一線を画すものと理解されていました。しかし、里山は、山林のうち最も都市の近隣にあるので、都市微気侯の緩和に重要な役割を果たすものです。

 都市徹気候の緩和機能を発揮させるために必要なこと

  • 大規模な樹林帯の存続及び連続した樹林帯の形成を図ること
  • 樹林とともに水辺環境を積極的に維持、保全すること

(6) 大気浄化・緩衝緑地・避難空間

 都市には工場、道路を始めとして騒音、煤塵等を発生させる施設が多く存在しているので、これらに対する対策が必要になっています。また、地震・火災等の不測の災害に対する安全対策も講じておく必要があります。

 里山は、樹木の働きによる大気浄化(塵挨や汚染物質の吸収、二酸化炭素の吸収・固定)や樹林や地形による防音・防災・防塵等の緩衝緑地(グリーンベルト)として、また、災害時の避難空間として都市環境上重要な役割を担っています。 
  
大気浄化・緩衝緑地・避難空間としての機能を発揮させるために必要なこと

  • 一定面積、一定幅員以上の樹林地帯を確保して置くこと
  • 騒音、煤塵を発生させる施設の周辺に確保して置くこと
  • 日常的に訪れ、親しめる空間として整備して置くこと

(7)感性・創造力涵養・文化の継承の場

 里山の落葉広葉樹林は、新緑・紅葉・落葉と季節ごとにその風景が変化します。こうした里山の景観は日本人の感性を育んで、豊かな日本文化を形成してきました。また、関東の武蔵野の雑木林に代表されるように、思索を深めるための場として、また文学、音楽等の芸術を生み出すための感性・創造力を涵養する場として、里山の存在は他に変えがたいものです。

 また、里山は生活の場としての利用と知恵(炭、生活道具の材料、食材、薬草等)が育まれた場所であり、こうした自然と共に生きる叡知・文化を継承していく場としても重要です。 
  
感牲・創造力涵養・文化の継承の場としての機能を発揮させるために必要なこと

  • 落葉広葉樹林を主体とした樹林地を維持して置くこと
  • 散策路等を整備し、親しみやすくすること
  • 風景として視認できる場所にあること
  • 低木の花木類の開花条件を維持するための照度管理に努めること

(8)レクリエーション・リフレッシユ・交流の場

 昨今のアウトドアブームにみられるように、ハイキング、キャンプ、バードウォッチング、自然観察、山菜採取等の目的で、多くの人々が休日に山野に出かけて行きます。このような傾向には、次のような欲求が考えられます。

  1. 毎日の生活によって蓄積するストレスを素朴な自然環境の中で解消し、リフレッシュしたいという欲求
  2. 都市の中にチョウ、トンボ、小魚、小動物等といった身近な生きものが生息する自然が見られなくなったことにより、自然を観察し、自然とふれあいたいという欲求
  3. 余暇時間の増大、高齢化社会に対応する健康づくりと生きがいの場が欲しいという欲求

 今後、現代の複雑化した管理社会の中で、身近な自然環境とふれあいたい、多くの人々と交流がしたいという人々の二一ズはますます高まってくるでしょう。そして、身近な自然環境としての里山が保健休養・レクリエーション・リフレッシュ・交流の場として果たす役割は、一層増大していくでしょう。

レクリエーション

レクリエーション・リフレッシュ・交流の場としての機能を発揮させるために必要なこと

  • 案内人、インストラクターを確保、養成すること
  • 適度な広場を確保し、訪間者同志の交流の場とすること
  • 適切な案内施設や安全対策を図ること
  • 利便施設(トイレ、駐車場等)を確保すること
  • 野鳥や小動物等の生息を阻害しない、適切な観察経路や施設を整備すること

(9)環境学習の場

 人が生活する上で基本的な要素として衣・食・住があげられますが、衣類は綿花、羊毛、住居は木材、食は、数限りない動植物に依存し、その恵みを受けて生活しており、人間にとって自然はなくてはならないものです。この自然を理解するためには、自然環境の中での環境学習、自然体験学習を行っていくことが必要となっています。従来は、自然にふれあうことにより、生きものや生命の神秘、自然のしくみを学び、季節の移ろいや自然の織り成す風景にふれることにより、健全な感性を育む機会も多くありましたが、近年では、身近な自然が喪失し、カブトムシやクワガタムシを購入したり、コンピューターゲームでペットを育てたりすることがブームになるなど、自然の中で生き物に直接ふれることが少なくなっています。

 今、身近な自然環境である里山が、特に次世代を担う子どもたちにとって、環境学習の場として果たす役割は、今後ますます増大していくでしょう。 

環境学習の場としての機能を発揮させるために必要なこと

  • 指導者を確保すること(高齢者の知識、技術の活用)
  • 多様な自然環境を形成させておくこと(植生等管理)
  • 安全に関する適切な情報提供を行うこと(危険場所、危険動植物情報等)
  • 利便施設(トイレ、駐車場等)を確保すること
  • 学習施設(植物解説板等)を設置すること
  • 適切なガイドブックを作成すること

4-2 地城づくりの面から見た里山

 本県の里山は、平成8年度の全県調査結果によると、34市町村にわたり約5万ha存在しています。このことから、里山は広範囲に存在していると考えられるので、自治体も、ボランティア団体も、地域づくりと不可分の関係があると捉えておくことが必要です。さらに、里山は前項で記述したように各種の機能を有しているので、こうした機能を積極的に活用する必要があるでしょう。

 したがって、市・町・村等を単位とした地域をデザインし、自然と共生したまち(地域)づくりを進めていく際には、「里山」を取り上げ、それぞれの里山が持つ各種「機能」の特色をよく認識して、その利活用を進めていくことが重要です。

地域づくりに当たって配慮する事項

  • 里山の機能が十分発揮されるように維持管理すること
  • 里山を自然環境のネットワークの中に位置付け、都市のみどり(公園、街路樹、河川敷等)との連携(ネットワーク)を考慮すること
  • 里山景観の保全に努めること

4-3 文化と人づくりの面から見た里山

 環境庁の「第4回自然環境保全基礎調査」によればわが国の森林は国土の約67.0%を占めていますが、国土のうち、自然林は約18.0%で、身近に接することのできる森林の多くは、二次林・里山あるいは人工林です。

 私たちの祖先は、生活を営むために、森林を資源として利用し、宅地や耕地として開拓してきました。その後の発展に伴って、里山を炭や有機堆肥、林産物等の生産の場として巧みに生活に取り入れたり、日本庭園における景観や俳句の季語等にみられるように、自然と密着した独自の文化を形成してきました。

 里山との長い関わりの歴史の中で、私たちは花鳥風月を生活の一部として感受する豊かな感性を育み、伝統工芸、民話、童話等地域固有の伝統文化を形成してきました。すなわち里山は、自然と共に生きてきた人の叡知を宿した場所ということもできるのです。

 このように従来から、文化や人づくりには、里山環境が大きな役割を果たしてきており、さらに、現代においてますますその役割が大きくなってきているのです。 

文化と人づくりに当たって配慮する事項

  • 里山の利活用を推進するための人材育成(指導者、伝統技術の継承者)事業を充実させること
  • 市民に対し市民講座や生涯学習プログラム開発等の多種類の学習機会を提供すること
  • 市民による自発的活動をサポートする仕組みを整えること(活動場所の提供、活動費用の援助等)
  • 市民ボランティア組織の活用を積極的に図ること